2019年3月30日

シリーズ「宇宙への挑戦〜最新テクノロジーが
もたらす未来」第2弾
〜小惑星探査機「はやぶさ2」特集〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、シリーズ「宇宙への挑戦〜最新テクノロジーがもたらす未来」の第2弾をお送りします。

 今回は、いま世界が大注目している小惑星探査機はやぶさ2にフォーカス! NEC航空宇宙システムの小笠原雅弘(おがさわら・まさひろ)さんに、小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功した、その要因や、リュウグウに穴を空けてサンプルを回収するミッションのお話などうかがいます。

誤差ほぼゼロで着陸!

※今年2019年2月22日に、はやぶさ2が地球から3.4億キロも離れた小惑星リュウグウに見事にタッチダウンし、各メディアでトップ・ニュースとして紹介されました。
 はやぶさ2の大きなミッションは、リュウグウの砂や石などのサンプルを持ち帰ることなんですが、先日、はやぶさ2から送られてきた観測データにより、46億年前の水の成分を発見したとJAXAが発表しました。はやぶさ2が持ち帰ってくれるであろう、砂や岩のサンプルに益々、期待が高まります!!

 はやぶさ2のこれまでの流れを簡単にご紹介すると、打ち上げは2014年12月。太陽の周りを回りながら約30億キロ飛行して、昨年2018年6月にリュウグウの近くに到達しました。リュウグウに行くまでに、4年もの歳月がかかったんですね! そして、当初は昨年の10月にタッチダウンを予定していましたが、予想外のことが起こり、延期することになったんです。
 一体何が起こったのか、小笠原さんにうかがいました。

「ひとことで言うと、リュウグウの表面が思ったより岩だらけだった」

●やっぱり、平らなところじゃないとうまく着陸できないんですね。

「そう。はやぶさも、はやぶさ2も、サンプルを取る機構は“サンプラーホーン”という筒を地面に接地させて取るんですけど、その長さよりも大きな石がそばにあったら、ぶつかってしまうわけですよね。だから、例えば1.5メートルとか、ある程度大きな石は避けて、そういう場所に降りなければいけない。リュウグウという表面では、そういう場所を探すことも大変だったんですね」

●どうやって探したんですか?

「基本的には、何度も低い高度まで降りて、カメラで(表面を)撮影して、しかも上から撮るだけだと平面しかわからないから、いろんな角度から撮って、3次元のモデルを作ったんですね。3Dマップですよ! そういった慎重な事前準備を、随分と時間をかけてやった、ということですね」

●そうでしたか〜! 実際に、はやぶさ2がリュウグウの表面に降りるときに、私が一番感動したのが、本当にほとんど誤差なく降りられたことなんですよ!

「最終的には、目標点から1メートルぐらい(の誤差)と言っていましたからね。これは凄いですよね! 3億4千万キロ離れているのに、1メートル……これはもう、(誤差は実質)ゼロですよね!」

●本当にそうですよね! 凄い技術だなと改めて思ったんですけど、その辺の成功の秘訣っていうのは何だったんでしょうか? 

「はやぶさの時に、降りるのに大変苦労したのは、姿勢を安定させる機器がもう壊れていたからです。今回はそういった経験をもとに、姿勢を安定させる装置の寿命を長くしたり、物によっては1台だったものを2台用意してバックアップをするという態勢をとったり、はやぶさの経験を最大限、今回のはやぶさ2に活かしているんですね。
 そういったハード的な準備プラス、人の準備というか、十分なリハーサルを積んで、はやぶさの経験を伝承させた人たちによって、今回の成果っていうのは成し遂げられていると思うんですよ」

●ちゃんと繋がっているんですね!

「今回のはやぶさ2に参加している人たちってみなさん、今から13年前、学生だったりそれぞれ立場は別ですけれど、はやぶさの時の若手として、先輩たちが何をしていたのかをちゃんと見ていた人たちがやっていますからね! その経験って十分、つながっているんです」

●リハーサルっていうのは、どういうふうにやるものなんですか?

「私は直接参加をしているわけではないんですけれども、まず運用を想定したシナリオを立てます。それで、そのシナリオをシミュレーターだけでやるリハーサル、つまり計算機の中だけでやるリハーサルですね。
 それと、今回のはやぶさ2では、タッチダウンリハーサルと言って、実際にタッチダウン、つまり(リュウグウの)表面に着く寸前まで降りて、上がる。本当に、あと何メートルか降りれば着くところまでいってから上がる、というリハーサルもやっています。だから、現実にリュウグウの上でやるリハーサルと、コンピューターのシミュレーションによるリハーサル、2つあったんですね」

●(はやぶさ2は)遠隔操作ではなく、自動で降りるっていうふうにうかがったんですが……?

「先ほど話したように、リュウグウまでの距離が3億4千万キロということは、電波を送っても20分弱かかっちゃう。すると、(はやぶさ2から)返事が来るのに、また20分。間に合わないんですね。ということは、間に合う程度の高さまでは人間が判断をすることはできても、それ以降は全部、はやぶさ2のコンピューターが指示をして、自律的に自分で降りて、上がると。それを人間は20分後に知ると。
 ということで、実際に最後の瞬間はそうやってなされているんですね。だから、最後にやったのは人間ではなくて、はやぶさ2だというわけなんですね。もちろん、そのソフトウエアは人間が作ったものなんですけどね」

●いや〜、凄いですね!

生命の起源!?

前回、小笠原さんにお話をうかがった時に、はやぶさ2はタッチダウンする前に、ソフトボールの球くらいの大きさのターゲットマーカーを投下して、それを目印に降りてくるとおしゃっていました。実は今回、タッチダウンをする際に、はやぶさ2はミラクルなミッションをやりとげたそうです!

「ターゲットマーカーが今回、目標にした6メートルという範囲からちょっと離れて、目標からずれたのと、ちょっとそばに大きな石があるところにターゲットマーカーは止まっているんですね。だから、そこに降りるわけにはいかなかったんですよ。それで、オフセット(*)をかけて降りていったんですね。事前に地球にいるうちから考えられていた、ピンポイントタッチダウンという方式を、プロマネ(プロジェクトマネージャー)の言葉を借りれば、応用問題を一発で解いた、ということです。
 本当は、それはこれからやる工程、つまり穴を空けて、その穴に徐々に近づいていこう、というところで使う“隠し球”だったんだけど、1回目からオフセットをかけて、ピンポイントで降りるという、そういう操作になったという発表がありましたね」

*オフセット:マーカーを視野の中心にとどめず、横目で補足しながら移動、降下すること。

●凄いですね……! そして、タッチダウンが成功して、その後、砂や石のサンプルも採取されたんですよね。それはどんなふうに行なわれたんですか?

「サンプル採取は、サンプラーホーンという筒の先端が地面に着くと、サンプラーホーンの上部に用意した、ピストルのような球を(地面に向かって)パーンと打って、その球がぶつかったことで表面が崩れて、破片が飛び散って。サンプラーホーンは筒だから、その筒を伝って(破片が)ずーっと上にあがっていく。そういった破片を上で回収することで採取がなされているんですね。やり方は、はやぶさの時と同じで、今回もなされていますね」

●それはスムーズにいったんですか?

「もちろん、サンプルがどれだけ取れたかは地球に帰らないとわからないんですけど、全てのシーケンスは予定通り進んで、しかも私たちは今、サンプル採取をした直後の映像を見ているんですね。それを見ると、サンプラーホーン先端が地面から離れた瞬間に、たくさんの粒がウワァっと舞い上がっている連続動画があります。あれをみるとわかるように、非常にたくさんの粒が上がったことは、もう間違いないので、プロジェクトの人たちの会見でも、非常に楽観的に“今回は十分、(サンプルが)取れているんじゃないかな”というふうに考えているようですね」

●期待できますね! 前回は結構、サンプルが少なかったですもんね! 

「球が打てなかった、ということもありましたけどね。本当にミクロン単位の、小さなものだったんですけど、今回は結構なものが入っているんじゃないですかね」

●そうすると、そのサンプルからいろんなことがわかってくるんじゃないかなと期待してしまいますね。

「リュウグウを選んだ理由っていうのがあって、リュウグウは有機物や水を、ある程度は含んでいるだろう、ということなんですね。ですから今回、リュウグウのサンプルを地球に持って帰ってきた時には、そういった小惑星の中に含まれた有機物や水といったようなものが分析の対象になってくるはずなんですよ。
 小惑星イトカワからはわからなかった、そういったものを分析することで、例えば地球の水の起源とか、もっと言えば有機物の起源、つまりそれは生物の起源になるわけですが、そういったことに迫れる新たな発見がなされれば、本当に人類の歴史の、あるページを、画期的に決めるサンプルになるかなという期待があるんですね」

自動で隠れ、分離カメラで撮影!?

※みなさんは、「アメリカ版はやぶさ」といわれる探査機を知っていますか。名前は「オシリス・レックス」といい、昨年2018年12月に地球から約1億キロ離れた小惑星「ベンヌ」に到達。現在、地表を撮影し、着陸する候補地を探していて、順調にいけば来年2020年7月に着陸する予定となっています。
 なんと、このベンヌという小惑星の形が、リュウグウにそっくりなんです! 大きさは、リュウグウの約900メートルに対し、ベンヌは約500メートルとちょっと小ぶりなんですが、そろばんの玉のような形は双子といえるほど、よく似ています。
 アメリカの探査機「オシリス・レックス」のミッションも、はやぶさ2と同じ、砂などのサンプルを持ち帰ること。双子の小惑星からどんなことがわかるのか、これも楽しみですよね!

 さて、はやぶさ2の今後のミッションなんですが、4月5日に、搭載されている衝突装置を爆発させて、リュウグウの地面に人工のクレーターを作り、そのクレーターに5月下旬以降に2度目のタッチダウンを行なう予定となっています。
 では、そんな2度目のタッチダウンの目的は、一体何なのでしょうか?

「リュウグウみたいな小さな天体は、大気を全然持っていないので、何万年も何十万年も、太陽の強烈な紫外線や、宇宙からやってくる放射線にさらされているんですよ。そうすると、さっき話をした有機物っていうのは比較的弱いものだから、変性してしまうんですね。すると、本当の状態はどうだったかっていうのは、表面だけではわからないんです。だから(リュウグウの)中を空けてみてサンプルを取ると、もとの状態、つまり変性していないリュウグウの本質的なものが手に入る、という意味では、これも期待が大きいですね!」

●でも、最初のミッションよりも難しそうですね……。

「これは難しいと思いますね。まず、どれだけ正確に、爆薬を爆発させて、先端部だけを目標地点に当てられるか。これはかなりのチャレンジだと思いますね。まして、例えば穴を空けても、それが思ったよりギジャギジャした大きな穴だった時に、さあそこへ降りられるかっていうのは、また悩みどころかもしれませんね。もちろん、大きい穴が空くのはいいことだと思いますけどね、より深い物質が見えてくるわけだから。これもやっぱり、大きなチャレンジだと思います。

 あとは、はやぶさ2がその爆発による破片から身を守ることをしなきゃいけない。つまり、はやぶさ2はそばにいたら大変危険なので、物影に隠れなくちゃいけない。じゃあ、宇宙で物影はどこにあるかというと、リュウグウしかないんですね。だから、爆薬で爆破させるのと、その裏側というか、破片が絶対に飛んでこない側に、はやぶさ2は逃げなきゃいけないんですね。
 それもまた、時間が切迫していますから、分離したらすぐに逃げる。そして安全なところで爆破して、安全になったら元の位置へ戻って来るという、そういう操作も必要です。それは通常の、今回のタッチダウンでは要らなかったわけだから、やっぱり運用としてはかなり高度になりますよね」

●逃げるのも自動なんですか? 

「自動ですね。スイッチが入って分離を確認したら、自らの判断で動くんですね。要するに遠いから、いちいち(人間に)お伺いを立てていると時間のロスじゃないですか。爆破まで間に合わなくなりますよね。だから自動で動くと。避けて物影までいくということですね。地球上には、ある程度遅れてはモニターできますけどね」

●それがうまくいくといいですね!

「そうですね! これは本当に、今年の5月はまたハラハラするんじゃないですかね。しかも、オマケがひとつあるんです。はやぶさ2は逃げちゃうんで、自らは爆破の瞬間は見えないですよね。なので、ちゃんとカメラだけ置いてくれるんです。カメラだけ分離をして、その爆破の様子をちゃんと見られるような位置に置くことになっているんです。“分離カメラ”というんですが、このカメラが、爆破してクレーターができていく様子を捉えるんです……破片に当たらなければ、ですけどね。(その映像を)送ってくれることも、また楽しみですね」

●それは私たちも見ることができるんですか?

「できますよ、カメラが壊れなければ、ですけどね」

●壊れないで〜(笑)! 本当に、はやぶさ2は賢いですね〜!

「私たちもよく言うんですけど、“こんなに衛星からいろんなものを分離して何かをやる人工衛星って見たことがないよね”っていうぐらい、たくさん分離しますね。分離ものだらけですから!」

●いや〜、楽しみだ! それが終わると、今度は地球に帰って来るんですよね。

「はい。これはちょうど、地球との軌道のタイミングを待たなくてはいけないので、今年2019年の終わりにリュウグウを離れて、来年2020年の終わり、11月末か12月ぐらいに地球に帰ることになりますね」

●地球に帰るのはスムーズにいきそうですか?

「行きはスイングバイ(*)を使ったり、細心の注意でリュウグウまで到達しているんですが、帰りはもう、何もせずに一目散に地球に帰るんですね。それはなぜかというと、地球が受け止めてくれるからですよ。でも地球は全然優しくないので、3000度という熱で受け止めてくれるんですけどね(笑)。まぁ、でも初代のはやぶさのように3000度の熱に耐えたカプセルがありますから、リュウグウのサンプルはきちっと守られて地球に帰る、そんなふうになると思っています」

*スイングバイ:惑星の引力を利用して軌道制御を行なうこと。

●小笠原さんは、その瞬間を待って待機しているんですね?

「今度はオーストラリアで見たいですね!」

はやぶさ2の玉手箱!?

※それでは最後に、宇宙開発が私たちにどんな未来をもたらしてくれるのか、うかがいました。

「もちろん、月探査のように、人間のフロンティアを開拓するっていうのも大事だと思います。もうひとつは、“宇宙を使う”という面がありますよね。

 実は札幌で、あるイベントを駅でやっていたんですね。イベントの名前は“i-Snow(アイ・スノー)”っていうんですが、それは“みちびき”という測位衛星を使って、除雪車を自動運転しようという試みだったんです。除雪車の運転手って、今は高齢化が進んで人がいなくて凄く困っているんです。しかも、経験が凄く大事なんですって。
 一旦、道を外れると除雪車は落ちてしまいますから。だから位置の情報が凄く大事なんだそうです。その位置の情報を、みちびきを使う形で正確に知ろう、ということですね。今はアシストとして位置を教えてくれるんだけど、ゆくゆくは無人化除雪車みたいなものを動かせるかどうか、という試みが行なわれているんです……あ、みちびきといえば、ドラマ『下町ロケット』でトラクターの運転にも出てきましたよね。非常に私は“地域の役に立つ宇宙開発があるな”と思いました。

 地球観測についても例えば、去年2018年3月には九州の新燃岳(しんもえだけ)っていう山で噴火があったんですね。噴火があった直後、アメリカの衛星や日本の光で見る衛星も写真を撮ったんですけども、クレーターの中が見えない。噴煙がもごもご出ているから。それを教えてくれたのは、“あすなろ2”っていうレーダ衛星だったんです。レーダは雲や噴煙も通しますからね。だから、防災や減災、あるいは農業や漁業への地球観測の応用、さっき言ったみちびきを使って、人手不足が心配される農業や漁業、先ほど言った除雪とか、そういったものに宇宙技術が役に立つ。本当にそれは夢の話ではなくて、現実の話としてすでに進んでいるという、そんな時代にやってきましたね」

●だって、3.4億キロ離れた場所のものを誤差ほぼゼロで動かせるんですから、その技術っていうのは絶対に活かせますよね!

「そうですね、もっともっと応用用途はあると思いますね」

●私たちもますます、目が離せませんね!

「まずは、次のインパクター、穴あけ! それから、どんな穴ができたか。じゃあ、穴の底に降りられるのか。ちゃんと地球に帰ってきて、またあのカプセルの流れ星が見られますから、それで感動して、かつ、入っている玉手箱の中身から何が出てくるか! 一説によると、白い煙が出てみんな年をとるなんていう話もありますけど(笑)。地球の謎がわかるっていう、非常に大きな話がこれから続いていきますから、ぜひみなさん、目を離さずに、はやぶさ2のこと、あるいは宇宙のことを見ていてください」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 3.4億キロ離れた場所にある衛星を自動で物影へ隠れさせたり、カメラを分離させたり、はやぶさ2に詰め込まれた日本の技術は本当に素晴らしいですね。そしてこの後、リュウグウのサンプルからどんなことがわかるのか、今後も目が離せません。

INFORMATION

はやぶさ2情報

 はやぶさ2について詳しくは、はやぶさ2のオフィシャルサイトをご覧ください。

 また、NECの宇宙開発への取り組みについては、NECのオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. CLOCKS / COLDPLAY

M2. COSMIC GIRL / JAMIROQUAI

M3. BOOK OF DAYS / ENYA

M4. FEEL SO MOON / ユニコーン

M5. SPACES / ONE DIRECTION

M6. OPEN ARMS / JOURNEY

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」