今週の、ベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんです。
小倉さんは1983年、東京生まれ。早稲田大学在学中に、バックパックをかついで世界をひとり旅。そして、パリで絵描き修行をし、帰国後はゲストハウスの運営を経て、デザイナーに。その後、微生物に夢中になり、東京農業大学の研究生を経て、発酵と微生物学の専門家に。現在は発酵デザイナーとして活躍中してらっしゃいます。
そして2017年に、十数年の活動の集大成である本『発酵文化人類学〜微生物から見た社会のカタチ』を出版し、注目を集めます。ちなみに、発酵デザイナーの定義は「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにするひと」なんだそうです。
小倉さんが目指しているのは「生態系と人の営みが調和した社会」。それを実現するために発酵デザイナーとして、いろいろなことにチャレンジされています。
今回は、現在、渋谷ヒカリエ8階で開催中の、日本全国47都道府県のローカルな発酵食品が一堂に集結した展覧会『ファーメンテーション・ツーリズム・ニッポン〜発酵から再発見する日本の旅〜』のキュレーターを担当された小倉さんに、古くから受け継がれてきた発酵の文化や、その土地ならではのローカルな発酵食品のお話などうかがいます。
※発酵食品はそもそも、なぜ身体にいいのか、なぜ美味しいのか……まずは「発酵とは何なのか」小倉さんに教えていただきましょう!
「発酵とはですね、“人間に役に立つ微生物が働くプロセス”のことを言います。凄くわかりやすい例としては、塩を振った煮大豆とお味噌、毎日食べたいのはどっちですか?」
●それは、お味噌ですね。
「ですよね。でも、原料は一緒なんですよ」
●あっ、なるほど、そうかそうか!
「でも、味は全然違うでしょ? この2つの違いは、微生物が働いているかどうか、なんですね。煮大豆も美味しいけど、毎日食べたいなとは思わないじゃないですか。そこに、“麹菌”というカビの一種が付いて、さらにそのあとに乳酸菌とか酵母っていうものが付いていくとですね、凄く味が深く、毎日食べても飽きない感じになっていくし、もとの大豆にはなかった栄養がいっぱい生まれているんですね。これは、微生物の働きなんです!」
●何でそんなに美味しくなったり、体によくなったりするんですか?
「実は食べ物って、放っとくとだいたい、菌が入っちゃうんですね。それで、悪い菌が入っちゃうと“腐敗”になっちゃうわけですよ。いい菌が入ると、“発酵”になるんでけど、いいか悪いかって、“人間にとって、いいか悪いか”なんですね。人間にとって悪い菌が入ると、人間をダメにしちゃう毒とかを作っちゃうわけです。
僕たちが発酵菌って呼んでいる菌っていうのは、人間に凄いよく懐いてくれる“ペット”みたいな奴らなんですよ! そういう奴らが働いてくれると、人間の代わりに食べ物を分解してくれるんですね。人間が何か栄養を吸収する時って、体の中で消化酵素っていうのを出して栄養に変えていくんですけど、発酵菌たちは人間に代わってそれを一部、やってくれる。しかも、人間の体では作り出せないような栄養素を作ってくれるんです。
だから、発酵食品って体によくて、美味しいんです! 美味しいっていうことは、消化にいい、栄養の吸収がしやすいっていうことなんです!」
●なるほど! でもそれって、凄く表裏一体というか……だって、私たちの目では見えない世界ですよね?
「あっ、でもね、昔の人は結構、それがわかったんですよ。においを嗅いだり目で見て、“これは悪い菌が入っているな”っていうのはわかっていた。それはやっぱり、(昔の人たちにとっては)死活問題なので、センサーが凄く敏感だったんですね。日本っていうのは、発酵菌もいっぱいいるけど、腐敗する菌もいっぱいいるので、結局、腐敗を防ぐためには発酵させなきゃいけなかったんですよ。そういうところから、日本の発酵文化っていうのは生まれてきて、発酵技術がいっぱいあるっていう感じなんですね」
●昔の人はそういった菌を知り尽くしていたんですね。
「見えなかったから、知り尽くしてはいなかったと思うんです。ただ、臨床的に“こうしたら、こうなる”っていうのが、知識ではなくて、知恵としてあった、という感じですね」
●なるほど。でも、そもそも小倉さんはなぜ、こういった発酵に惹かれるようになったんですか?
「僕はもともと体が弱くて、20代の頃はデザイナーだったんですけど、駆け出しの時に毎晩、めちゃめちゃ遊んで、いっぱい仕事をしていたらですね、小っちゃいころの喘息とかアトピーがぶり返してきちゃって、体が起こせなくなっちゃったんですね。それで一応、漢方とかもやってみたんだけど全然ダメで……。その時に、発酵の先生に出会うんですね。
先生は僕の顔を見たら、“お前は生まれつき、体が弱い! 発酵食品を食べないとダメだぞ!”って脅されて、それまで食のことに興味がなかったので“どんなものを食べたらいいんですか?”と聞いたら、お味噌汁を飲んだりお漬物や納豆を食べたりしなさいという、凄く当たり前のものだったんですね。
それで、それまでは適当にパンとかを食べていたんですけど、(そういう発酵食品は)自分で簡単に作れるじゃないですか。なので、自分で作って食べるようになったら、“あれっ、体の調子がよくなってきているぞ!? 何でだ!?”みたいな感じになってきたんです。
だんだん喘息が治っていって、皮膚とかもボロボロだったんですけど、それも治っていって、“不思議だなぁ……”と思っていたんです。それで、そのことを教えてくれた発酵の先生の本を読んだりとか、自分でもお味噌を仕込んでいるうちに、“発酵ってめちゃめちゃ面白い!”っていうことに気づいてから、だんだんデザインの仕事が手につかなくなっていったんですよね(笑)」
●そんなに夢中になっちゃったんですか(笑)!?
「もう、デザインのことより微生物のことを考えるほうが楽しくなっちゃって、それで大学でもう一回、発酵学を学び直して、それで今に至るということなんですよね」
●どんなところが一番、面白いなと思ったんですか?
「やっぱり、発酵のことを学ぶことって結局、微生物のことを学ぶことなので、生物とは何かということを学ぶことになっていくんですね。そして、なぜ発酵食品を取り入れたら体にいいのかとか、元気になるのかとかを突き詰めていくと、自分の体のメカニズムを知ることになっていくんですよ。
さらに、この不思議な発酵食品がどうして生まれたんだろうっていうことを調べていくと、今度は社会学になっていくんですね。その土地で一体何があったのかとか、人間の味覚はどうなっているんだとか……。
そういう風に、発酵って一見、ニッチだと思っていたんですけど、そのメガネで覗くと“あれっ、生物学もわかる、人間の健康についてもわかる、社会学もわかる、これは凄いな!”っていうところからディープにハマっていった、っていうことなんですね」
※発酵食品を知ることで、その土地で何があったかも知ることが出来るんですね。それでは、地域限定のローカルな発酵食品を小倉さんに紹介していただきましょう!
「じゃあまずは、海の発酵からなんですけれども、宮崎県日南海岸沿いで作られている“むかでのり”。これはトゲキリンサイという、ムカデの形をした海藻を天日干しして、それをまた煮出して寒天にして、その寒天を味噌漬けにするという、“どうしてそうなった!?”という不思議な食べ物なんですね。九州のお味噌ってちょっと甘いじゃないですか。そのお味噌の味が染み込んだプルップルの寒天をおかずに食べるんですね。それで焼酎を飲んだりとかするんです。
これは凄く面白くて、お盆の時のご先祖様のお供え物にしていて、海の人たちもやっているんですけど、どっちかっていうと、日南地区の山際に住んでいる人たちが、海から生まれた“むかでのり”をご先祖様に捧げるっていう、不思議な文化があります。これがいつ頃、どうやって発祥したのかっていうのが、謎! 資料もないので謎なんです(笑)。そういう不思議な文化があります」
●ぜひ実物は展覧会で見ていただきたいですね! 他には何かあります?
「じゃあ、海の発酵でもうひとつ、“フグの卵巣糠(ぬか)漬け”というものがありまして、これは石川県美川という地区で主に作られているんですね。これはフグの卵巣という、毒が一番ある、食べたら死んじゃうようなものを、3年間かけて微生物で解毒して食べるっていう、日本人の発酵への執念が結晶となって出来た、凄まじい食べ物なんです! これね、発酵現場に是非みなさん行って欲しいんですけど、桶がピンク色にギャラクシー発光しているんですよ!」
●ええっ(笑)!?
「展覧会用に写真で展示しているんですけど、“何だ、この世界は!?”みたいな、凄まじい発酵なんですね。それで、どういう微生物がいるのか全然わかっていないんです。ただ、多種多様な微生物たちがある種、共同作業をして、フグの毒を分解して無毒化して、旨味を凝縮させていくっていう、そういう素晴らしい食べ物があるんですね」
●どうしても食べたかったんですかねぇ……3年間って凄いですよね!
「本当にもう、素晴らしいですよ! “何でそんなものが出来たんだ!?”って思いますよね」
●やっぱりそれだけ、本来は食べられない部分も食べなければいけない食糧事情っていうのが当時はあったんですかね?
「もちろん、あったと思います。それに加えて、最初はサバイバルのために作っていたんですけど、途中から面白くなってきたんだと思います」
●なるほど、そういう遊びもあるのかぁ(笑)。
「エスカレートしていったっていう。そういうふうにして出来た発酵食品も実はいっぱいあるんですね。だから、生き延びる知恵と、暮らしの中の遊び、これらは実は表裏一体であると僕は思っています」
●bayfmがある千葉にも、そういった発酵食品っていうのはありますか?
「ありますね! 今回の展覧会では、実は千葉の代表となる発酵食品は、ベイエリアである九十九里の、“イワシのゴマ漬け”です。食べたこと、あります?」
●いやぁ、私はまだ食べたことがないんですよ!
「九十九里沿いに行くと、海の家みたいな、漁師レストランみたいなのが結構並んでいるんですけど、そこで手作りされているものなんですね。イワシを一回塩締めにして、そのあと酢漬けにして、ゴマとか唐辛子とか生姜をまぶす、凄く素朴な漬物なんですね。これね、美味しいんです!
もう、ご飯のおかずにすると、いくらでもご飯が食べられるような食べ物なんですけど、何で出来たのか調べていったら不思議な文化にたどり着いたんです。実は九十九里浜って、かつては日本でも有数なコットン(綿花)の栽培地だったんです!」
●そうだったんですか!?
「綿花って物凄く土の栄養が要るんですよ。その堆肥として、イワシを使っていたんです。イワシをブロック状に発酵させて、イワシの堆肥みたいなものを作るんですね。それを土に栄養として与えて、綿花を育てていったんです。その時の重要な原料になったのがイワシだったんですけど、つまり、九十九里ではイワシは食用じゃなかったんですね。
それで、綿花の生産地がだんだん海外に移っていって、“じゃあ、イワシを食うか”という話になっていった。そして、イワシって大量に獲れるので、日持ちさせなきゃいけないから、素朴な漬物が出来上がっていった、そういう歴史があるんです」
●そうだったんですか!!
「知っていました?」
●いやぁ、知らなかったです〜! 番組スタッフがそのイワシのゴマ漬けを食べたことがあって、かなり美味しいって言っていました! でも、そのスタートがコットンだったとは……!
「それ以前にももちろん、イワシは獲っていたんですけど、組織的に物凄く大量に獲るようになったのはやっぱり、その綿花栽培が大きいみたいですね」
※国の鳥と言えばキジ。国技と言えば相撲。では、「国の菌」は何でしょうか? それは「ニホンコウジカビ」という菌。そう、発酵食品に欠かせない麹菌なんです! この麹菌と日本人、その付き合いはなんと6000年前、縄文時代からと言われています。
それだけの長きに渡って、なぜ日本人のそばに麹菌があったのか。いろいろな理由が考えられますが、ひとつは日本の温暖多湿な気候風土に麹菌が適していたから。そしてもうひとつは、神秘的な物として昔から大切にされてきたからだそうです。
古代の人にとって神聖な色は「白」でしたが、蒸し米に白カビがつき、胞子を飛ばす様子が神秘的だということで、神棚に供えられたそうです。その様子を「黴立(かびだち)」と呼んだものが「カムダチ」→「カウダチ」→「カウヂ」→「コウヂ」と変化し、いまの「麹」になったと言われています。麹ひとつとっても、昔から日本人の暮らしに発酵食品が密接に関わっていたことを感じますよね。
さあ、それでは引き続き、面白いローカルな発酵食品を教えていただきましょう!
「じゃあ次はですね、山の発酵の中でひとつ紹介したいと思います。青森県十和田地方の“ごど”!」
●名前は凄くインパクトがありますね(笑)。
「これね、名前よりも中身のほうがパンチがあって、これは何かっていうとですね、納豆に麹を混ぜて、さらに乳酸発酵させた、“納豆×麹×乳酸菌”っていう、ラーメントッピング全部盛りみたいな凄まじい食べ物なんですよ!」
●凄い(笑)!!
「今回の旅の中で一番ビックリしたかもしれないですね。これは、十和田のお母さんたちが細々と手作りで作っていて、全く商品化されていないし、何の文献にも載っていないものなんですね。でもそこのコミュニティでずっと作っていて、どうして生まれたかというと、実はこの十和田、青森の南部地方っていうのは、米作が定着するのが結構遅れてですね、主食が豆や麦だったんですよ。
豆を凄く食べる文化があるんですけど、そこでみなさん、納豆を手作りしていたんです。納豆を手作りすると、僕も手作りしているからわかるんですけど、たまに失敗するんですよ。なんか、酸っぱくなっちゃうんですね。その微妙な納豆を何とかして再利用できないかっていうところから生まれたものらしいんです(笑)。
微妙に酸っぱくなっちゃった納豆に麹を入れて、そうすると甘くなるんですね。それをしばらく放っておくと乳酸発酵していくので、甘酸っぱくなってきて、甘酸っぱい納豆っていう(笑)。でも、美味しいんですよ、凄く! それをご飯にかけたりして食べるんです。発酵が進むと酵素によってドロドロに溶けていくので、それを調味料とかジャムみたいにして使うっていう、そういう文化ですね」
●納豆菌は結構強いって聞いたんですけど、他の菌と一緒にしても喧嘩しちゃったりはしないんですか?
「麹と乳酸は、うまく棲み分けできるみたいですね。なので、凄く面白い発酵をするんですよね。時間とともに経過が変わっていきますしね。それで今回は、このレシピを展覧会チームで再現しました! ごど作りワークショップを、6月後半から7月にかけてやろうと思っているので、よろしければ展覧会情報をチェックしてください!
そして今度は、町の発酵でひとつ紹介したいなと思っているんですけれども、神奈川県川崎大師の参道にある発酵“くずもち”です」
●“くずもち”だけど、発酵しているんですか?
「葛餅っていうと、奈良とか大阪といった西日本の、葛粉を使った食べ物をイメージするじゃないですか。関東にもくずもちがあって、でも“葛”という漢字は使わないんですよ。なぜかというと、葛粉を使わないで、発酵させた小麦粉を使うからなんですね。
これは川崎大師から葛飾の一部とかにしかない不思議な文化で、バケツの中で小麦粉を水にさらしていくと、水にさらしたものがブクブクと乳酸発酵していくんです。そうしていくと、だんだんデンプンが遊離してきて、ペーストみたいになっていくんです。それをまた洗って、発酵臭を取って、それをパン生地みたいにして膨らまして……。ただ、パンみたいに焼くんじゃなくて、蒸すんですね。そうすると、プリップリのお餅になるんですよ! もう、意味がわかんないでしょ!!」
●えぇー!? でも、菌の力だけでプリップリな食感のくずもちみたいなものが作れるって、凄いですね!
「そうなんですよね。これを、きな粉と黒蜜をかけて食べるんですけど、まぁ幸せな味をしているんですよ、これ! もう本当に美味しくて、大好きなんですよね! こういうふうに、お菓子も発酵しているものがあるっていうのが、日本の発酵文化の懐の広さですね!
そして最後に、島のカテゴリーが(今回の展覧会には)あって、これが奇想天外な発酵食品の集合体なんですけど、その中で是非みなさんにお話ししたいのが、長崎県対馬の“せん”ですね。これはですね、発酵の力を使ってサツマイモのデンプンを取り出して、それを水で練ってお団子とか麺とかパスタみたいにして食べるっていう文化です。
サツマイモって、冬に寒いと腐るんですよ。そうすると、冬にどうやってサツマイモを越冬させるかっていう話になってくるんですね。その時に発酵技術を使うことを思いついたんです。
“せん”っていう名前は、“千の手間をかける”から、そう言われていて、4ヶ月ずーっと毎日毎日、お母さんたちがちょっとずつちょっとずつ手を加えて、4回か5回ぐらい、違う発酵プロセスを通過して、最後にデンプン質を取り出して食べるっていうものなんです。
こうして乾燥させた団子にすると、何年も保つんですよ。もう本当に、“凄いなぁ、お母さん!”って、僕は何も言えなくなった。素晴らしい文化ですね!」
●そういうお母さんたちって、やっぱり代々そういう技術を受け継いで作ってらっしゃるんですか?
「そうです」
●そういう伝統って、ずっと続いていくといいですよね。
「そうですね。だから今回の展覧会をやる中で、僕の願いのひとつは、実は結構、存続の危機にあるものも少なからずあって、そういうのが今回の展覧会をきっかけに、バトンが受け渡されていくことなんですね。記憶を伝えていく語り部みたいになっていったらいいんじゃないかなと思って、こういうプロジェクトをやっています」
※それにしても、発酵食品は地域ごとで、発酵の仕方も食べ方もさまざまですが、なぜここまで日本では多様な発酵食品が生まれたのでしょうか。
「使われている食材のバリエーションが非常に多様なんですね。これらが何で生まれたのかというと、もちろん、気候が多様なので作物も多様にあるということもあるんですけど、肉食が禁止されたことが多分、大きな理由なんだろうと思っています。
6〜7世紀以降から、日本って国教が仏教になったので、肉食をすることが難しくなってきていた。そんな中で、植物とか海藻とかは栄養にするためにかなり消化のプロセスが長くかかるので、栄養にしづらいんですね。なので、さっき言った微生物の力を借りるわけですよ。微生物に分解してもらってエネルギーにしやすくして、発酵させて食べることで生き延びてきたっていう、そういう民族性なのかなと思っています」
●なるほど、じゃあ最初は苦肉の策だったんですね。
「そうです。でも、それがいつしか、みんな楽しくなって、やり過ぎていくっていう(笑)。“何もそこまでしなくてもいいだろう!”っていうところまでやって、それが文化になっていくっていうね。生きるための知恵が、暮らしの喜びになっていく。これが日本の発酵文化の特徴だと思います」
●本当に発酵食品って、それぞれの地域に根付いているんですね。
「そうですね。今回の展覧会を見ていただいた方は実感できると思うんですけど、発酵というものを掘り下げていくっていうことは、日本の歴史や、日本に住んでいる人たちがどういうふうに暮らしていったのかっていうことの記録を見ていくようなものだなって思っていて……。
僕の中で発酵って、単純に、健康にいい美味しい食べ物ではなくて、その民族がどのように文化を作っていったのかっていうことを紐解くための“食べ物の形をした本”みたいなものだなと思っています。食べて学ぶ本ですね」
●正直、今は流通も発展していますし、冷蔵庫もありますし、現代人のライフスタイルからすれば、体にはいいけど、昔ほど発酵食品は必要とされていないかもしれないと思ったんですが、また違った意味で発酵食品っていうのは、我々に凄く必要なんですね。
「だから一度、意味を問い直す時期だと思っていて、かつてサバイバルの知恵として生まれていったものが、僕らはそこまで飢え死にする心配がなくなっていった時に、じゃあ用済みだと思ってなくなっていくのか、それとも、今言ったように、実はそこにたくさん学ぶものがあるんじゃないか、あるいは、地域の食文化を見直す時の起点になるんじゃないか、とか……。
実は、可能性は無限にあるんですね。なので、この展覧会をきっかけに、“じゃあ、この発酵食品を使ってどんな未来が作れるだろうか”っていうことを、来た人に想像してもらえると嬉しいなと思っています」
*最後に、小倉さんからこんなアドバイスをいただきました。
「毎朝、お味噌汁を一杯、飲んで欲しいなと思っています。お味噌汁を飲むと凄く体が元気になるし、実はお味噌っていうのは、その土地の郷土性を閉じ込めたものなので、自分の生まれた土地のお味噌で、お味噌汁を作って飲んでいると、その土地と繋がることができると思っています。毎朝、一杯のお味噌汁!」
日本には、本当に多種多様な発酵食品があるんですね。日本人が自然の中で生きる工夫と、遊び心を持って作った証「発酵食品」を、これからはより深く味わいたいと思います。
小倉さんがキュレーターを務めた、発酵食品の展覧会。日本全国47都道府県のローカルな発酵食品が一堂に集結! 郷土料理の多様性や、日本の食の個性を再発見できる展示会となっています。発酵食品の「におい」を楽しめるのも、ここならでは!?
渋谷ヒカリエ8階で、7月8日まで開催。入場は無料です。
詳しくは、オフィシャル・サイトをご覧ください。
D & DEPARTMENT PROJECT / 税込価格1,944円
全国の発酵、その取材旅をまとめた本です。この本を読んで展覧会に行くと、より理解度が深まると思います。 詳しくは、小倉さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。
なお、『日本発酵紀行』の取扱店舗につきましては、以下をご覧ください。