今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、株式会社ユーグレナの副社長・永田暁彦(ながた・あきひこ)さんです。
永田さんは1982年、山口県下関生まれ。慶応大学卒業後、ファンド会社を経て、2008年にユーグレナ社の取締役に就任。現在は取締役副社長として、バイオ燃料開発の事業などを担っています。
ユーグレナの創業者は、出雲充(いずも・みつる)さん。学生時代にバングラデシュを訪れ、現地の人たちの食料事情に衝撃を受け、この世界から食料問題をなくしたい、そんな思いでユーグレナを創業。経営理念は「人と地球を健康にする」。
出雲さんに請われユーグレナに移籍した永田さんも、環境問題解決に向けた熱い想いを持ってらっしゃいます。
ユーグレナは、藻の一種「ミドリムシ」を原料に、健康食品や化粧品などを生産・販売している会社です。そして今、世界が注目しているのが、「ミドリムシ」などの藻類と廃食油を原料にバイオ燃料を開発し、ジェット機を飛ばそうとしている取り組みで、CO2の排出量の削減などが期待されています。
今回はそんなユーグレナの永田さんに、バイオ燃料の可能性や環境問題解決への熱い想いをうかがいます。
※まずは社名になっている「ユーグレナ」とは何か、お聞きしました。
「“ユーグレナ”自体がミドリムシという意味でして、昆布やワカメの一種になります。“ムシ”という名前がついているので、昆虫だと勘違いされるかたがいらっしゃいますが、微生物の一種ですね。
海水にも田んぼにも普通にいる微生物なんですけれども、世界には100種類以上のミドリムシがいまして、その中でとても栄養が豊富なミドリムシもいれば、体の中に油を蓄えるミドリムシもいる。いろんなミドリムシがいます」
●結構、私たちの身近にもミドリムシっているんですか?
「池で水をすくって顕微鏡で見れば、だいたい見つかると思います」
●へぇ〜! ミドリムシと一口に言っても、いろいろなタイプがいるということですが、ユーグレナさんで扱っているミドリムシは栄養価が高いタイプのものを使っているということですか?
「食品に使っているものは、まさに栄養価が高いミドリムシを、栄養価が高まるように培養したものを使っています」
●そんなことができるんですね!
「できます。いわゆる農業に近い発想ですけれども、甘〜いイチゴを作ることができるように、その中身の成分を狙ったものにしていくっていうのは、生物や植物を培養する上では、可能な技術かなと思っています。ミドリムシにおいてとても重要な点として“動物であり、植物である”ということがとても特徴的で、光合成をして増えていくんですけれど、自分で水の中を泳ぐことができるというのが、とても珍しい特徴です」
●あまり聞かないですよね、動物であり、植物でもある生き物って!
「そうですね、とても珍しいです。ただ、例えばひまわりも太陽光に向かって顔を向けるように、ミドリムシもなんで水の中を泳ぐかというと、太陽に向かって水面まで、より効率よく光合成をするために泳いでいくという特徴がありますので、ミドリムシだけというわけではありませんけれども、そういう生き物になります」
●なるほど。なんか、生きる工夫をたくさんしている生き物という感じですね! 先ほど食品に関しては、栄養価が高いミドリムシを使っているということだったんですけど、それ以外にも、別のジャンルに適しているミドリムシはいるんですか?
「はい。特に今、世界的に注目を浴びているのが、バイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料の原料としてミドリムシの油を使う、ということです」
●ミドリムシの油、ですか?
「ミドリムシは植物であり動物であると、先ほど申し上げましたけれども、あらゆる植物が光合成をした結果としてのエネルギーを、砂糖だったり油で蓄えていると思うんですね。サトウキビは砂糖で蓄えている。ゴマは油で蓄えている。ミドリムシも体内に油で蓄えることができまして、それを絞り出して抽出すると、燃料として使えることがわかっています」
●なぜ、ミドリムシの油をバイオ燃料やジェット燃料にしようと思ったんですか?
「大きく分けて2つの理由があります。世界中で今、CO2を削減するということを目標に、燃料のバイオ化というものが求められています。
かつては多くの植物、しかも、特に食べ物から油を採るということで、サトウキビですとか、いろんな話を聞いたことがあると思うんですけれども、現在の世界の重要なトレンドとして、“食物を使わない、さらに、農地を使わない”ということが重要になっています。
ミドリムシの培養は農地じゃなくてもいいんです。人が植物を育てられないようなところでも、水を張って培養することができるので、それが非常に大きな理由のひとつになっています」
●食物も使わないで、農地も使わないというのは、私たち人間が暮らしていく上で必要だから燃料としてはあまり使わないほうがいい、ということですか?
「そうですね。今、世界の航空会社の約束になっているものとしても、もう食物は使いません、というのが共通の約束になっています。食べ物がないと生きていけませんので、優先順位としては、食べ物として使うほうが高いということになります」
●なるほど。でも、ミドリムシも食べ物としても使いますけど、それについては大丈夫なんですか?
「これまで燃料として使われているものというのは、非常にカロリーが高いものが多いんですけど、食べ物用のミドリムシはそこが少ないです。燃料用のミドリムシは、食べられない油として蓄えるという特徴がありますので、あまり問題になっていないということが言えます」
※そんなバイオ燃料は、ミドリムシからどんなふうに作るのでしょうか。
「ミドリムシを燃料にするには、大きく2つの設備が必要です。ひとつが、ミドリムシ自体をたくさん培養する設備、これが必要になります。現在は食品用の大量培養設備が沖縄県の石垣島に存在していまして、今、日本中で販売されているミドリムシがそこでつくられて、お客様に食品として届けられています。燃料用のミドリムシも石垣島でも研究していますし、三重県でも研究をしています。
もうひとつ必要な設備が、これは石油と一緒ですけれども、ミドリムシを培養する設備が“油田”だとすると、それを精製して使えるものに変えなくちゃいけないんですね。これは石油でいうと“製油所”がありますけども、バイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料についても、製油所が必要になりますので、その製油所のテストプラントが昨年2018年の 10月末に横浜市の鶴見に完成しました」
●順調ですか?
「順調です! 私たちの計画ですと、バイオディーゼルとしては今年2019年の夏から、バイオジェット燃料は来年の2020年からの利用というのを目指して開発が進んでいます」
●そんなに早くできるんですね!
「これは全く早くなくてですね、バイオジェット燃料は世界20カ国で既に使われていて、15万回以上、お客さんを乗せて飛んでいます。日本はまだバイオジェット燃料を使った飛行機が一度もお客さんを乗せて飛んだことがない。そういう意味では、バイオジェット燃料という領域においては、日本はとても遅れている状態です」
●そうなんですね……! そんなことを知らないのが、もしかしたらすでに遅れているのかもしれないですけども、日本は割と、そういう意味では後進国なのでしょうか?
「バイオジェット燃料に関しては、非常に遅れている国と言えると思います」
●ちょっとだけ心配なのは、例えば安全性といいますか、今まで使ったことがない燃料なので大丈夫なのかなと、ちょっと不安もあるんですけど、それについてはいかがですか?
「先ほど、15万回飛んでいると言いましたが、その時点で実績は十分すぎるくらいあるんですけれども、石油はもともと微生物や植物の堆積物から出来ているということからも、出元は一緒だということが言えるかなと思っています。
さらに、特に我々が作るディーゼル燃料に関しては、石油から作るディーゼルと科学的に何ひとつ違わないものが出てきます」
●そんなに変わらないんですね! そうすると、例えば燃やした時のCO2排出量とかもそんなに変わらないんじゃないかなと思うんですが、いかがですか?
「排出するCO2量も全く一緒です。しかし、なぜそれが環境配慮につながるかというと、元来、今使っているディーゼル燃料やジェット燃料というのは、地中から堀った石油を空中で燃やしているわけなので、大気中のCO2がどんどん増えていくということになります。
しかし、植物由来のジェット燃料やディーゼル燃料であれば、大気中のCO2を光合成で燃料化して、それを燃やしているので、石油を使うのに対して大気中のCO2が増えないということが特徴です。大気中からCO2を減らすのではなくて、石油を使い続けると増えるCO2をこれ以上増やさない、というのがバイオ燃料の基本的な考え方になっています」
●そうすると、より地球の循環に近いということですかね?
「おっしゃる通りですね」
※実は、永田さんは千葉県にお住まい。趣味はサーフィンで、週末はお子さんと自然の中で思いっきり遊んだりするそうですよ。そんな永田さんが自然や環境に対してさらに深い関心を抱いたキッカケは、こんなことだったそうです。
「生まれも育ちも海の近くだったので、自然というものには凄く感心がありましたけれども、より強くそういう想いになったのは、子供が生まれてからのほうが、さらに強くなったかなというふうには思っています」
●お子さんが生まれて、どのあたりが一番変わりました?
「この子供が育っていった50年後とか80年後に対して、自分が貯金を残せるのか、借金を残すのかっていうことを考えた時に、今のままだと借金を残す可能性が、経済的にも環境的にも日本は高いんじゃないかなと考えたのは、非常に大きかったかなと思っています。
ある種、我々は自分たちが生きている間は何とかなるという世代を生きていると思いますけれども、自分の子供たちがそうであるとは限らないですし、地球環境問題というのは、特に温暖化問題は必ずやってくるということがわかっています。
私はいつもこれを、“隕石だ”と言っているんですけども、地球に隕石がぶつかるとわかっている時に、大人が何をするのかというのは非常に重要なことで、地球にぶつかろうとしている隕石が見えているのに何もしないということは、無責任だと感じています」
●うーん……確かにそうなんですけど、やっぱり便利な生活の上では、なかなかそっちを優先してしまうこともあるかも知れないんですが、我々はどうしていけばいいんでしょう?
「それは科学技術のひとつのテーマだと思っていまして、例えばこのバイオジェット燃料も、バイオディーゼル燃料も、乗り心地も、使う飛行機も、使う車も全く変えないというのが、燃料を開発するチームに対するミッションなんですね。
ということは、みなさんが変わらずに生活をしながら、でも実はCO2の排出量が減っている、という世界を目指すというのが私たちの役割かなと思っています。“意識を変えましょう!”“我慢しましょう!”ということでは、社会は簡単にはよくはならないので、そうではない、科学技術の力で社会を変えようという挑戦をしている、と言えるかと思います」
●それは、いち消費者としては有難いですね!
「でも、最近で言えばプラスチック問題、これに呼応して多くの飲料メーカーですとかが対応していますけれども、やっぱり環境や社会の雰囲気が変わると人も納得して、少し我慢するということは起こり得ることなので、開発する側も、使う側も寄り添っていけることが理想的かなと思っています」
●なるほど。永田さんは環境問題が起こることで、人と人との争いといった人災も起こる可能性があるんじゃないか、ということもおっしゃっていますけど、そのあたりのお話も聞かせていただけますか?
「はい。地球温暖化の問題というのは、気候が変動して、夏が暑くなるというだけでは当然ないわけでして、海面の上昇、そのほかにも農地の減少、水の減少など、あらゆることが起こるということが想定されています。
その時に、人と人が減ったものを分け合って生きていく人類であれば問題ないですけれども、これだけ満たされた現状においてもエネルギーを取り合うということが起こっていますので、食べ物や住む場所やエネルギーが減少していく先に、人類がどういう行動をするのかというのは、歴史からも想像がつくことだと思っていて、そういう環境に自分の子供や子孫たちを置きたくないというのは、強く思います」
●そうなんですよね。暑くなったら、“じゃあ涼しくする方法を考えればいいじゃないか”って思う人もいるかもしれないですけど、それだけじゃない、全部つながっているんですよね。
「そう思いますね。ですので、“自分ごと化”にできるかどうかが一番大切なことだなと思っていて、ひとつの問題の、その先にある問題をみんなが想像して、“これは自分の問題なんだ”っていうふうに感じられるかどうかが、とても環境問題については重要だなと、常に思います」
※最後に、ユーグレナの今後、そしてバイオ燃料の未来についてうかがいます。
「まず、私たちの取り組みが特別な取り組みとなっている時点で、まだまだ環境に対する仕組みというのは足りていないなと思っています。チャレンジっていうものが当たり前になるということが重要で、まずは今まで日本では一度も実現していないバイオジェット燃料でのフライトを実現して、2025年にそれが当たり前に商業化されている世界をつくりたいと思っています。
ユーグレナは非常に若い会社です。私も、社長の出雲もまだ30代ですので、まだまだこれから、チャレンジする時間があります。私たちの行動に呼応して、共感してくれた様々な企業が同じようにチャレンジをすることで、我々一社では実現できない、航空業界や燃料業界の完全なるCO2の削減という方向に力を合わせるプレイヤーがたくさん増えていくことが重要かなと思っています。
私たちはユーグレナ社の経営者でありますけども、ユーグレナ社の独占と最大収益化、ではなくて、社会の最適化を目指す上では、ある種ライバルが増えてくるということが望ましいと思っています。なので、そういうことにつながるように、様々な活動を通じてみなさんと一緒に動いていきたいと思っています」
●バイオ燃料に取り組んでいる会社って、まだ少ないんですか?
「バイオジェット燃料の製造工場は日本では私たちしか持っていませんので、誰も供給ができないという状況ですね。世界中では今、どんどん出来ています。ただ、建設計画も日本では、ほぼないですね」
●じゃあ、私たち消費者が“バイオジェット燃料の方がいいな”と思って動いても、まだそこまで設備が整っていないっていうことなんですかね?
「はい、ありません。そして、ルール整備についてもまだ必要な点が多いと考えています。しかし、JALさんやANAさんのような航空会社は国際線を飛んでいますので、“日本で(バイオジェット燃料を)買えません”と言うだけでは、世の中に対して言い訳がつきませんので、今年2019年にアメリカでJALさんやANAさんもバイオジェット燃料を購入することを発表しています。本来であれば、日本で作って日本で供給してあげたい、というのが私たちメーカーサイドの想いです」
●そうですよね! せっかくだったら、日本で買えたほうがいいですよね。ルールづくりもまだ整っていないということでしたけど、どのあたりがまだ不足しているんでしょうか?
「特に、バイオジェット燃料としてのクオリティを評価する機関ですとか、あと、必ず石油由来のジェット燃料とバイオ燃料を混ぜなくちゃいけないんですけど、そういう混合設備などもまだ整っていないということが実体としてはあります。
しかし、2016年から経済産業省も国土交通省も、そして石油連盟も一緒になって、この環境づくりをしていきましょうということで、コンソーシアム(共同事業体「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けたバイオジェット燃料の導入までの道筋検討委員会)が進んでいますので、2020年までには十分、整備されることが期待されているという状況です」
●ユーグレナでは、この一連の事業を起点に、“GREEN OIL JAPAN”というのを宣言されていますよね。
「はい。“GREEN OIL JAPAN”宣言は、バイオジェット燃料のプラントが完成した際、昨年2018年の11月に他の民間企業や自治体の皆さんと発表した、日本のエネルギー、特に液体燃料を一緒のバイオ化していきましょう、という宣言になっています。
バイオ原油を作ったりバイオジェット燃料を作ったり、バスを作ったり、空港を持っていたり、いろいろな立場の人が全員一緒にならないと、エネルギーというのはインフラですので、変わることができないんですね。これを全員でやっていきましょう、ということを宣言したものになります。
まだ参加している企業は限定的ですけれども、ここに仲間が増えていくことで、バイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料などの、バイオ燃料の利用量がどんどん増えていって、諸外国並みにするというのが目的の宣言になっています」
●今、一番どんな方たちに協力して欲しいですか?
「ディーゼル燃料でいいますと、例えば運送会社さんとか、トラックやバスを使っている方々ですね。あと、ジェット燃料はもちろん飛行機ですけれども、私たちユーグレナの株主にANAさんもENEOS(JXTGエネルギー)さんも入っていただいているので、みなさんと一緒に変えていきたいですね。
日本のトラックやバスや飛行機が、バイオを入れることが当たり前になるということを目指して、これからも進んでいきたいなと思っています」
●我々も今回は、こんな特別な取り組みがあるんだよってことでご紹介させていただいたんですけれども、いつか“ああ、これはもう、当たり前です!”って特集できるような形になるといいですね!
「電気自動車やハイブリッドカーってある種、そうなったと思うんですよね。そういう日は間違いなく来ると思っていますし、社会に浸透するスピードを“最速”で実施したいなと思っています」
まずはバイオ燃料を知って、そしてこれからは、バイオ燃料を「選択」することが地球の未来につながるんだと感じました。ミドリムシを使ったバイオ燃料が早く実用化されるといいですね。
永田さんが副社長を務める、株式会社ユーグレナが取り組んでいるバイオ燃料の開発、そしてGREEN OIL JAPANなど、詳しくはユーグレナのオフィシャルサイトをご覧ください。