今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、樹木図鑑作家・林 将之(はやし・まさゆき)さんです。
林さんは1976年、山口県熊毛郡(くまげぐん)生まれ。千葉大学・園芸学部を卒業し、出版社勤務を経てフリーランスへ。その後、葉っぱをスキャナで直接取り込む独自の撮影法を確立。全国の森で数万枚の葉っぱを収集、スキャンし、その画像データをもとに2004年、27歳で『葉で見わける樹木』を出版し、図鑑分野でベストセラーを記録します!
そして先ごろ、講談社から初のエッセイ集『葉っぱはなぜこんな形なのか?〜植物の生きる戦略と森の生態系を考える』を出されました。
今回はそんな林さんをお迎えしての、葉っぱの不思議特集! どうしてギザギザがあるのか? なぜ同じ木でも葉っぱの形が違うのか? そして植物の、生き残るための巧みな戦略にも迫ります!
※「葉っぱはなぜこんな形なのか?」改めて聞かれると、なんでこんな形なんだろうって思いますよね。そこで、まずはモミジが、なぜあの形なのか教えてもらいました。
「モミジが、切れ込みがなくてまん丸な葉っぱだった場合と、切れ込みがあった場合の違いを考えた時に、特に大きい葉っぱの場合、強い風が吹くと大きい葉っぱって風をモロに受けるんで、ちぎれるとか、枝ごとボキッと折れちゃったりしますよね。それで、じゃあ強い風が吹いても風が通り抜けるように、スリット(切れ込み)を入れて風を通すようにする、ということがまず考えられるんですね。
僕、沖縄に住んでいるんですけど、沖縄とか台風が多い場所を見ていると、台風の後は葉っぱが実際にビリビリちぎれていたりするんですよ。なので、風除けというのもあると思うんですね。
あとは、切れ込みがあったら空気の通りがよくなるので、植物って光合成をすることでエネルギーを得ていますよね。つまり、二酸化炭素を吸収したいんです。その時に、風が全くなくて通らない時よりも、切れ込みがあって風が通る方が二酸化炭素が吸収しやすくなる。酸素も排出するわけですけど、その交換がしやすくなって効率が上がるので、葉っぱに切れ込みがある(という説があって)、“なるほど、これかもな!”と、僕自身もそれは結構、納得できましたね」
●通気性をよくしている、みたいな感じですよね?
「そういうことです! 通気性をよくして、空気の中の二酸化炭素を吸いたいと思っている葉っぱにとっては、風がいっぱい流れて来て欲しいわけですよ」
●あと、例えば花の形でいうと、植物は虫との関係性というのがあると思うんですけど、葉っぱの形もその生き物との関係性で変わっていったものもあるんでしょうか?
「まさに葉っぱがギザギザのパターンがそれに当てはまるんですけど、ヒイラギとかの葉っぱって葉のふちがするどい針のようになっていて、触ると凄く痛いわけですよね。なぜあんなに葉っぱにトゲがあるのかと考えた時に、パッと思いつくのが、動物に食べられないように身を守っているんじゃないかという考えがあるわけですね。
それが本当かということを確かめようとした時に、実際に木を観察すると結構、わかってくるんですね。ヒイラギにトゲトゲが多いのって、木が小っちゃい時だけなんです。木が50センチとか1メートルとか、それぐらいの時にはトゲトゲがいっぱいあるんですけど、それが3〜4メートルぐらいになっていくと、トゲトゲのない葉っぱがどんどん増えていくわけですね。森の中で葉っぱを食べる動物って何だと思います?」
●えーと……シカとか、ウサギとか?
「そうですね、シカとかウサギはまさに、日本の森では一番、植物をよく食べる獣だと思うんですけど、そのシカとかウサギが届くのが、だいたいその高さなんですね。ウサギなら1メートルだし、シカなら2メートルぐらい。なので、それ以上大きくなるとトゲが減っていくんです。
庭木のヒイラギを見ると面白いんです。要は、大きな木とか古い木はトゲがない葉っぱがいっぱい付いているんですけど、それを人間がハサミでちょきちょきと剪定(せんてい)して枝を切ると、そこからトゲのいっぱいある葉っぱがブワァーっと生えてくるんですね。つまりそれは植物にしてみれば、食べられたというか、攻撃されたからトゲで守ろうと思って、そういうトゲトゲを出しているわけなんです」
●なるほど! じゃあそういうふうに、自然の中にいる状態と、庭木となって人間に手入れされる状態とを比べると、やっぱり葉っぱの形っていうのも違うように変化するんですか?
「そうですね。一番わかりやすいのは、枝の剪定作業ですよね。それをすると、やっぱりトゲトゲの多い葉っぱが出るというのは、先ほどはヒイラギを例にあげましたけど、モチノキとかカイヅカイブキとか、いくつかの種類を挙げることが出来ますね。もちろん、それ以外にも街路樹のイチョウとかトウカエデとかもありますけど、そういうのも街路樹だから、枝を広げられなくてしょっちゅう切られているわけですね。
すると、そこから生えてくる枝には大型の葉っぱがつくんですね。木からすると、枝を切られたから急いで枝を伸ばして、また光合成をしようとして、普段より大きい葉っぱをつけるんです。イチョウの葉っぱって普通、切れ込みがひとつあるかないか、というイメージですけど、街路樹のイチョウには切れ込みが4つ〜6つとか、いっぱい切れ込みのある葉っぱが観察できますからね。それもやっぱり、大きな葉っぱをつけて切れ込みを増やして、光合成の効率を上げて……っていうことが考えられますよね」
※他にも、植物と生き物たちの意外な関係について教えてもらいました。
「桜の葉っぱの蜜腺(みつせん)っていうのは、実はこの植物の世界では結構、知られているんですけど、桜の葉っぱにはほぼ必ず蜜腺といって、蜜が出る小っちゃいイボが葉の付け根についているんですね。これは普通、2個なんですけど、中には1個だったり4〜5個だったりするんですが、そこから甘い蜜が出るんです。僕もつい先日、それを舐めてきましたけど、本当に甘いんですね。
なぜ、甘い蜜が出るのかっていうのは結構、不思議なわけですよね。実は、アリがよく舐めに来るんです。それは木を見ていればわかるんですよ。まあ、アリ以外の虫も来るわけですが、じゃあなぜ葉っぱは蜜を出してアリを呼んでいるのか……」
●葉っぱにはどんなメリットがあるんですか?
「アリにとってみれば、蜜が出てくる木なので、“この木を守ろう、大事にしよう!”と思うわけですよね。なので、その葉っぱを食べる虫がいると、追い払ってくれるんです。そうやってイモムシとか、そういう害虫をアリが追い払ってくれるので、そのためにアリを蜜で雇っているというふうに言われるんです。
これは僕も、植物を観察し始めた時に“本当かなぁ?”と思ったんです。実際にアリがイモムシとかを攻撃しているシーンは見たことがなかったんで、そう思っていたんですけど、実は葉っぱの蜜でアリを呼ぶ植物は、熱帯地方の方がよりたくさんありまして、そこでは茎を空洞にして、そこに穴を開けてアリが住める“巣”を提供する植物もいるんですね。それで、アリのエサも出す。そしたらアリはもう、住居もエサももらって、その代わりに葉っぱを食べる虫を駆除するし、その木の周辺に生えた雑草でさえ噛み切ってしまう。
そういう植物とアリの関係が、実際に僕がシンガポールに行った時に観察することが出来まして、それを知ってから、“やっぱりアリを呼ぶメリットっていうのはハッキリあるんだな”っていうのは実感しましたね」
●宿付き、賄い付きのバイトみたいな感じですよね(笑)!
「そう! だから植物のほうも、アリを都合のいい動物と思っているかもしれなくて、どっちが上かわからないっていうことは、とても興味深い関係ですよね。その蜜が最近は“その蜜を食べた生き物が他のエサを食べられなくなる、その蜜ばっかり欲しくなるような成分が入っている”とか、“アリの活性をコントロールする”とか言われているので、そういうのが今後どんどんわかってくれば、もしかしたら本当に、植物側が完全にアリをコントロールしている可能性があるかもしれないですね」
●凄いな〜(笑)! でも、それが生きる戦略ですもんね。
「まさに、そういうことですよね」
●でも私、利用されているという意味では、時々、人間も植物に利用されているんじゃないかなと思うことがあるんですよ! 例えば、美しかったりとか、人間の役に立つ木っていうのは、人間が思わず保護するわけですけど、“それってもしかして、植物の戦略?”なんて思うこともあったりするんですよね。
「素晴らしい! そう思われることがあるわけですね。でも本当に、まさに僕も同じようなことを感じるんですよね。花が綺麗な木とか、実が食べられる木はみんな一生懸命、庭に植えたりしますよね。そうやって植物の分布を広げて、果物とかって世界中に広がっていますから、世界中に分布を広げることを、人間を通して成功しているわけですよね。それって、人間が利用しているわけじゃなくて、植物が人間を利用しているんじゃないかなと、そういうこともあり得ると思うんですよね。
ただ、どっちが利用しているかっていうのは、それはあくまで考え方ではあると思うんですけど、ちょっと視点を変えたら、人間もアリと同じようにエサで釣られて、利用されて、実は植物の個体を増やしたり、分布を広げるのに使われている可能性はあると思いますね」
※林さんはそもそも、どうして葉っぱにハマったのか。実は、以前は植物図鑑を見てもなかなかその木の名前がわからなかったそうです。そんな悩みを抱えていた時に、こんなことがあったそうですよ。
「ある時に大学の先輩が、葉っぱだけが載った専門的な図鑑を持っていたんですね。“それ、ちょっと見せてください!”って言って見せてもらったら、葉の形、それこそ切れ込みがあるかとか、ギザギザがあるかとか、葉のつき方とかで、見開きのページとその次のページをめくれば、葉の特徴が書いてあったんです。葉の形を検索する機能がついていて、その図鑑に出会った時に、“これなら調べられる……!”と思いました。
それ以降はその図鑑を片手に、いつも目についた葉っぱを全部取ってポケットに入れて持ち帰り調べて、家でも学校でも葉っぱが散乱していましたけど、そういう生活を大学生の時に何年間かやっていました。それでだいぶ基本的なものはわかるようになりましたね」
●なかなか葉っぱを集めている人はいなかったんじゃないですか?
「いないですよ。僕はもう道端の木とか、ちょっと変なものがあったら、葉っぱを一枚、ちょっと失敬して……って感じでやっていたんで、まあ周りの人から見ると、ちょっと怪しい人ですよね(笑)」
●だいたいみんな、花とかを見に行きますもんね(笑)。でも、そういうふうに葉っぱを集めていろんな種類の木がわかるようになったんですか?
「それで、大学で1〜2年調べ続けていって、関東地方に住んでいましたから、“この辺で見られる木は、もうだいぶわかったな”、そう思ったんですね。思ったんですけど……。
実家が山口県なんですけど、山口県に帰ってみて自分の家の裏山とかを、また同じようにどんな木が生えているか見に行ったら、2倍近く違う木があったんです。それで、“あれっ、こんなに地方で違うんだ!”と驚きました。
そこから今度は、もう日本中の地方の木を見て回ることになって、当時は青春18きっぷとかをよく使っていたんですけど、そういう旅が始まりましたね。
だから、関東の木は大学時代にだいぶ覚えたんですけど、そこから時間をかけて日本中の木を覚えるというか、それがライフワークになりました」
●日本中の木を見て葉っぱを集めて、どんなことを感じましたか?
「西日本と東日本って、箱根の関所が有名ですけど、あれは人間界だけじゃなくて、自然界でも結構重要で、フォッサマグナっていう、東日本と西日本を分けるような溝が通っているんですけど、そこに沿って西日本の植物と東日本の植物がかなり分かれるなということも感じましたし、海辺はやっぱり暖かい地方の植物が多いんですね。海流に沿って暖かい植物が分布しているので、日本海側は雪が多いから寒いと思うけど、海辺は暖かい植物がちゃんと分布しているんですね。
だから、海流の影響ってこんなに大きいんだなと思いましたね。気温も影響しているだろうし、もしかしたらタネが運ばれて分布しているっていうものもあるかもしれませんけど、海による気温とか環境の違いっていうのも凄く感じました。
あとは、都会に植えてある木の姿と、山とか自然の中に生えている木の姿が、だいぶ違う。“本当に同じもの?”って思うぐらい違う。山の尾根に生えているのか、谷に生えているのかで、同じ木でも違って、尾根のほうの木はだいぶ葉が小っちゃくなって貧弱な感じがあったりするんですけど、谷のほうの木は水も豊富で栄養も豊富だから、ブワーっと大きくなっていたりだとか……。そういう違いをいっぱい知ることができましたね」
●都心部と自然の中では、どんな違いがあったんですか?
「都心の木は、言ってみれば“商品化された木”なんですね。苗木を大量生産して、同じ木からクローンというか、そういう感じで生産して、同じ形になるようにつくられた木がたくさん植えられているんですね。
だから、例えばシラカシなら、“シラカシはこの葉っぱの形で、この樹形!”っていうイメージが都心ならあるんですけど、それが自然の中の森へ行って見ると、葉の形がずんぐりしていたり、細いのがあったりとか、木の樹形も横に広がっていたり、凄く貧弱なものとか、いろんな姿がありましたね。
“都心で見ていた、あのカタログのような木は自然の姿じゃなかったんだ!”“実際の個体差はこんなにいろいろあるんだな”っていうことがよくわかりましたね」
※最後に、“自然保護”という言葉について、林さんの考え方をご紹介しましょう。
「“自然保護”っていう言葉、実は僕は昔から違和感を感じていまして、“あれ? 自然を保護するっていうことは、人間は自然の外にいるのかな……そんなわけ、ないよな。人間も自然の一部なんじゃないの?”って僕は思っていたんですね。
自然の中にいる人が“自然を保護します”って言うのはおかしいわけで、じゃあ自然保護っていうのは、人間と自然は別々に存在する考えなのかなって思っていて、その疑問があって僕は自然保護っていう言葉は基本、使わないんですね」
●私、今の都会での暮らしを見ていると、やっぱり人はちょっと自然の外側に行ってしまったのかな、なんてことも思ったりするんです。自然の循環の“中の暮らし”と“外の暮らし”にはどんな違いがあるんですかね?
「まさに、都会は自然を消費する場所であって、都会だけだと食べ物も木材も生産できないわけですよね。そういう環境っていうのは、やっぱり不自然というか、循環はしていないですよね。
だから、そこは自然の外にいるような感覚になりますけど、僕は地元山口県の田舎とかですと、やっぱりすぐ横に田んぼも畑もあって、家でも畑をやっていて、僕も田んぼをやっていたこともあるんですけど、やっぱり田んぼとかをやってお米を育てていると、変な不安がなくなるんですよね。
自分の食料は自分で作れるぞっていうのがわかると、お金がなくなったらどうしようとか、スーパーがなくなったらどうしようとか、そういう誰もが心の底に持っているような不安がなくなってくるんですよ、畑や田んぼとかをやっていると。
そういう状態こそ、やっぱり自然の一部でもあると思うんですね。実際に田舎だと木もたくさんありますし、いくらでも燃料とか木材も、得ようと思えば得られる環境だろうと思うんですね。それは結構、大事なことだと思っていて、つくる場所を目にして、それを肌で感じられる状況や環境にいることって、とても大事なことなんですね。
それを感じながら育ったか、そうじゃない場所で育ったかによって、自然感って全然違うと思うんで、それは大きな違いだと思いますね」
●もしかしたら今、都会で暮らしている人も、キャンプとか自然の中で遊ぶことで、そういった自然の循環の中に少しだけ身を置くことができるのかもしれませんね。
「そうですね。炭を燃やしてバーベキューしたり、あるいは市民農園とか週末に畑や田んぼをやるっていう活動が都会では特にたくさんありますけれど、やっぱり、人間はその意味では、自然の中と外を行ったり来たりするような存在なのかなと思いますね」
●じゃあ、そんな自然の中に行った時には、『葉っぱはなぜこんな形なのか』を読んで、葉っぱの形にも注目してみると面白いかもしれませんね!
「でも、植物だけではなくて、虫の色とか鳥の鳴き声とか、そういうのもやっぱり全部、意味があるわけです。そういうことを考えていくことって、子供の発想かもしれないですけど、子供のような純粋な疑問で考えることって大人になったらなかなかやらないので、それを考えることでわかることっていろいろあると思うんですね。ですので、いろいろ考えて欲しいなと思いますね」
林さんの話を聞いてから、とにかく葉っぱが気になるようになってしまいました。よく見てみると、ギザギザの先に更に細かいギザギザがあったり、何のためにこの形なのかを考え出したら止まりません。みなさんもぜひ、葉っぱの形に注目してみてください! きっと新しい視点で自然を楽しむことが出来ると思いますよ。
講談社 / 税込価格 1,512円
初のエッセイ集。個人で樹木や自然を観察してきた、いわゆる“科学者”とは少し違う視点で書かれた本で、葉っぱの不思議や植物の戦略など、幅広い話題が満載です!
林さんが運営している樹木鑑定サイト「このきなんのき」もぜひご覧ください。
その名の通り、樹木の写真や、生えている場所の情報などを送ると、何という樹木か教えてくれる楽しいサイトですよ♪