今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、アウトドア歴40年! アウトドアライフ・アドバイザーの寒川一(さんがわ・はじめ)さんです。
寒川さんは1963年、香川県生まれ。現在は三浦半島を拠点に「焚き火カフェ」など、独自のアウトドアサービスを展開。焚き火カフェでは、年間100数十回の焚き火を行なっている、まさに焚き火のプロ! また、UPI OUTDOOR PRODUCTSや、スウェーデンの老舗アウトドアブランド、「フェールラーベン」のアンバサダーでもいらっしゃいます。
そして先ごろ、池田書店から『アウトドアテクニック図鑑』という本を出されました。
この番組には、2年半ぶりのご出演!今回はそんな寒川さんに、アウトドア天国である北欧や、焚き火と仲よくするコツ、そして子供たちと一緒に、あえて手間をかける野外生活のお話などうかがいます。
※実は今回お会いした時、寒川さんはちょうどスウェーデンから帰ってきたばかりでした。ということで、日本とはかなり違うという、北欧のアウトドア事情についてうかがっていきましょう。まずは北欧に古くから伝わる、ある権利のお話からうかがいました。
「“自然享受権”って言われるものがあって、これは日本語に訳したものですけど、スウェーデンでは、“アッレマンスレット”って言われているんですね。アッレマンっていうのは、“みんな”っていう意味ですね。そしてスレットが、“権利”なんです。いわゆる、“みんなの権利”っていうのが直訳なんです。
簡単にいうと、どの場所でも歩けて、テントを張れて、火が起こせて、カヤックが漕げるという素晴らしいルールがあるんですね。
これは割と北欧全般、ノルウェーとスウェーデン、デンマークやフィンランド、この4カ国にあるんですね。僕は今回、その自然享受権を存分に楽しんできた、そんな感じですね」
●確かに、日本でいざ、キャンプをしたいなとか、テントを張りたいなと思うと、意外とルールが厳しくて“せっかくやろうと思ったのに……”みたいなことってありますよね。
「そうですね。そもそも、(北欧では)聞く相手がいないんですね。“ここで(テントを)張っていいですか?”と聞ける相手もいないところで、当然野生の動物もたくさんいますし、自然環境についても、僕が行ったのは北極圏内だったので、行った時には大体、マイナスの気温ぐらいにはなるんですよね。
そういう、自然条件も厳しい中で、自分がどこまでいろんなことを判断できるかっていうことは、つまりはアウトドアを楽しむ上で、普段張ってないようなアンテナを自分でピンと張らないと、場合によっては事故にもつながるということですよね。
ただ本来、アウトドアの楽しみっていうのは、それをどういうふうに自分たちが回避したり、その部分を楽しんでいくかということが、本当の楽しみのはずなんですけど、ちょっと日本は今、そこが難しくなってきているのかなというふうには、つくづく感じましたね」
●北欧では、“森の幼稚園”ということで、子供たちが自然の中で遊んじゃおう! みたいな教育のシステムもあるんですよね!
「そうですね。もう何年か前から、割と子供の教育界では注目されていることで、実際に僕も2年ぐらい前にスウェーデンに行った時に見学させてもらったことがあるんです。
特にスウェーデンにおいていうと、都市部でもほんのちょっと郊外に行くと、本当に広大な森があって、すぐそこにはトナカイがいたりとか、自然の野生動物もたくさんいるんですね。
そういうところに雨の日も雪の日も、子供たちが必ずその森を歩くという時間を設けているところが結構、多いらしいんです。そこを歩くことで、例えば濡れた時の地面の歩き方とか、雨から自分の体温を守る手段であったり、森の中でたまたま出くわした動物っていうのが、人間に対してどういう位置関係にある動物なのかっていうことを、知識ではなくて、感覚で知るっていうことだったり……。そういうのも、ひとつひとつ大切にするらしいんですね」
●へぇ〜! 何となく、自分の子供をアウトドアに連れて行くんだったら、「出来るだけ天気がよくって、出来るだけ安全で環境がいい状況に送り込みたい!」って思っちゃう親御さんが多いかと思うんですけど、北欧ではそうではないんですね。
「そうですね。日々、それを重ねることで、多分、なかなか見えないようなことが見えてきたり、幼稚園ぐらいのお子さんだと、全く既成概念というか、出来上がったものがないので、全てを素直に受け止められるんですね。
そうやって幼少期の頃から、同じようにナイフを与えて、使い方の一番のポイントの部分はしっかりと教えるんですね。指先を怪我してしまうのは仕方ないことだと、やっぱりナイフを使う上で、それはついて回るものだと思っているんです。指先というのは、実は毛細血管があるんですが、そんなに大きな血管はなくて。体の中の太い血管を絶対に切らないようにっていう、そういう構え方とナイフの使い方を、いちばん最初の時にしっかり教えるんです。
僕らも子供の頃、小学生の時に割と文房具としてナイフを扱っていて、ナイフで鉛筆を削ったりしていたんですけど、でも先生から“太い血管を切ってはいけない”っていう話は聞いたことがないし、親からもそういう話は聞いたことがないんですよね。
なので、屋外で大怪我をしてしまうことのリスクっていうのを本当に小さな子供の頃からしっかりと教えて、それを回避出来るような指導の仕方っていうのが(大切なんだと思います)。
これが小さな子供のうちから備わっているのは、さっきの自然享受権のベースの部分にもなっているのかな、という気はするんですよね」
※寒川さんが三浦半島で行なっている、焚き火カフェ。私、長澤も実際に簡易的なものを体験させて頂いたことがあるのですが、その時は浜辺で実際に火を起こして、お湯を沸かして、コーヒーを飲ませていただく、というものでした。自分で火を起こして飲むと、なんだかいつもより美味しく感じましたね〜! 寒川さんはどれくらい、このカフェを続けていらっしゃるのでしょうか?
「もう、14年目になると思います」
●14年ですか!? 通算、どれくらいの人が来られるんですか?
「うーん、まぁ正確にはわからないんですけど、半年ぐらい前に1500回ぐらいを迎えましたね」
●じゃあ、もう1000人以上の人に焚き火を体験していただいたんですね!
「それだけの流木を燃やしたというだけでも、相当ですよね。多分、東京ドーム何杯分かぐらいあるんじゃないかと思うんですけど(笑)」
●いろんな人が来られると思うんですけど、みなさん、どんな感想を言っていました?
「東京の人が多いんですよ。やっぱり、焚き火に憧れを持っている人が多いので、わずか2時間ぐらいなんですけど、意識が遠くにいくような、旅をしているような感じを受ける、というふうに言っていただける人が多くて、それは嬉しいことですね!」
●“旅をしているような感覚”ですか……。
「おそらく、波の音と焚き火のゆらぎみたいなものが(関係しているんじゃないか)。よく言われるのが、波の音と焚き火のゆらぎ、あと、人の心臓の鼓動という、この3つは同じようなもので、“1/f(エフ分のいち)”と言うらしいんです。
デジタルのような決まったビートではなくって、同調するところがあるってよく言われるんですね。そういう効果が、知らず知らずのうちに、(焚き火カフェに)いらっしゃる人たちの中にもあるんじゃないかなと思いますね」
●究極の癒しですよね! あと、焚き火って燃料を集めてきて、それを起こして、燃やして、その火を維持するっていうのは、“生きること”というか、凄くシンプルですけども、大切なことなのかなと思いますね。
「僕は今、燃やすものっていうのは、よっぽど雨とかいろんな事情がない限りは、浜に打ち上がった流木を拾ってきているんですね。あと、コーヒーを沸かすとか、お茶を淹れるための水っていうのは、すぐ近所の湧き水を使っているんです。
その湧き水と流木っていうのが、僕の中では凄く大きくて、物を購入するっていう世界から、どれだけ外れられるか、ということなんですね。天気もそのひとつではあるんですけど、僕らの暮らしっていうのは実は、自分らがコントロールできないようなものに、たくさん囲まれているんだっていうことを少しでも知っていただきたいなと、そういう思いですね」
●本当にそうですよね! “物を買わなくても生きていける”っていう自信。そういうのって、凄くこれからの時代に大切になるのかなって思います。
「アウトドアは特にそういう、自分で工夫をしたりするっていうことが凄く大切なことで、さっきの道具の話にもなるんですけど、ないならないで、なんとかなるっていうものなんですよね(笑)。また、そういう思考でいて欲しいなとも思うんですね。
特に子供にも、“これ忘れたから、もうどうしようもないよ”って言うより、一見マイナスに思えることでも、それがアウトドアにおいては凄く印象深いことになったりもしますんで」
※実は、北欧スウェーデンには、他にも凄く素敵な文化があるんです。それは「フィーカ」!
例えば仕事とか勉強が行き詰まった時に、誰かが「フィーカタイム!」と宣言すると、一旦、みんな今やっていることを止めて、コーヒーと焼き菓子でティータイムをする、というものなんです。日本でいうと、「3時のおやつ」に近いのかもしれませんね。
私、長澤もスウェーデン大使館に取材に行った時に、このフィーカタイムを体験させていただいたんですけれども、そこにいる人たちが一斉に「もう辞め、辞め!」って言ってお茶をする、その感じが何だか凄くいいなと思いました。こういう「ゆとり」が、豊かな生活につながっているのかもしれませんね。
それでは、寒川さんのプリミティブなアウトドアスキルが詰まった最新刊『アウトドアテクニック図鑑』のポイントを教えてもらいましょう。
「今回、一番軸に置いたのは、ナイフを使うっていうこと、火を起こす・使うっていうこと、ロープを結ぶっていうことですね。
これらに共通しているのは、どれも人の手の中にあるということで、しかも人間が何万年か前に人間らしくなった、その大きな最初のツールっていうのが、物を切ったり、物を結んだり、火を起こしたりっていうことですよね。凄く原初的ではあるんですが、これを身につけることで、僕らが今日までやってきたことを、アウトドアを通してもう一度、思い出したいなと思ったんです。
便利な道具に囲まれているのが、今の日常ですから、あえて“ナイフで何か食器を作ってみよう”とか、“引っ付くような物を買うんじゃなくて、自分で結んでみよう”とか、“火を起こして、それで何かご飯を作ってみよう”とか、贅沢っていうのとはベクトルが違うものを紹介しているんですね。
料理も、器材をあまり使わないものを選んだというか、それを意識して書いたんです。器材っていうのは、例えば今だとダッチオーブンとか、アウトドアはクッキングするのにも凄くいろんな器材があるんですね。当然、豊富な材料で凄く見栄えのする、インスタ映えのする料理を作るっていうのが今の主流なのかもしれないですけど、ちょっとそれとは逆行しているかもしれないです。
ですが、なるべくたくさんの道具は使わずに、落ちているものとか(笑)、本当に最低限のもので、でも、そこに知恵と、工夫をすれば、こんなに美味しいものが出来るよ! っていうようなものを紹介しています」
●インスタ映えしないっていう話でしたけど、逆に私は“映えるな!”と思いました! 凄くシンプルで、木の上にサーモンを乗っけて蒸すっていう料理が『アウトドアテクニック図鑑』に載っているんですけど、逆に新鮮で美しいなと思いました!
「基本はどれも、先住民って言われる人たちがやっていた料理の方法にならっているんですね。例えば日本で言えば、アイヌの人たちとか、僕がいたスカンジナビアでは“サーミ”って言われる先住民の人たちがいま現在もいらっしゃるんです。
そんな人たちを訪問して、いろいろと料理や暮らしのことを聞いたりしたんですけど、やっぱり彼らの持っている知恵っていうのは古いものではなくって、未来の人たちなんじゃないかなって思えるような、もう物がなくなろうが何だろうが生きていけるっていう……あの強さは本当に未来の人だなって感じましたね」
●本当に、逆に新しいというか、こんな時代だからこそ、凄く新鮮でカッコいいなと思いました!
「そうですね。自然のことを本当によく知っていらっしゃるし、やることが全て理にかなっているなと思うんですね。“冬の寒い時には、その寒さを利用してこういうことをやるんだよ”とか、“暑い時には、逆にこの暑さに従ってこういうことをやるんだよ”とか……。自然に沿って生きることが、本当に暮らしの端々に息づいているんです。学んでも学んでも、学びきれないぐらい彼らのスタイルっていうものには素晴らしいものがありますね」
※「物がなくても生きていける暮らし」。今こそ、暮らしを見つめ直す必要があるのかもしれませんね。そのためには何が必要なのか、寒川さんがこんなお話をしてくださいました。
「(今の時代は)ほとんどの場合は“手間を省く”っていう価値観じゃないですか。“手間を省くっていうのはいいことだ”っていうふうにみなさん思っている。けれど、“あえて”手間をかけるっていう、特にアウトドアに関して言えば、手間を省くのではなくって、手間をかける時間でありたいなというふうに思いますね」
●『アウトドアテクニック図鑑』の中でも書かれていますけど、やっぱり便利なものっていうのは、もしかしたら一瞬でなくなってしまうかもしれないですよね。
「みなさんも経験した東北の震災の時に、車であろうが家などの財産であろうが、やっぱり“物”っていうのが一瞬にしてなくなってしまうものなんだなっていうのを目の当たりにしました。
なくなった物をまた同じように買い揃えるっていうことだけじゃなくて、物も大切なんですけど、それだけじゃない、“今度、またなくなったらどうするんだ?”っていうところに思いを寄せた時に、物ではなくて、手の中に残ることとか、人に言い伝えられるもの、例えば子供に伝えることでずっと残っていくようなスキルというか……。
自分たちの持っている物を手渡すというよりかは、経験であったり技術みたいなものっていうのを手渡していけると、それは上手くすれば、代々引き継いでいけるものになって、消え失せるものではなくなるのかなというふうに思います……つまり、知恵ですね」
今回、『アウトドアテクニック図鑑』を作る上で、自然享受権っていうことももちろんあるんですけど、もうひとつはやっぱり災害の国に生きる自分たちとして、こういうテクニックを、特に子供たちに伝えていかないといけないなという想いが、この本を作った大きな理由ですね」
「僕はもう本当に、出来たら毎年、しばらくは北欧にもっともっと行ってみたいなと思っているんですね。今回、僕はノルウェーでトレッキング協会の会員になったんです。オスロという都市で(会員に)なったんですけど、“日本人で初めてだよ”って言われて、凄く嬉しかったんです(笑)! その会員になると、ここに地図があるんですけど、ノルウェーの国でいうと……」
*地図を広げながら説明。
「この地図に描かれている赤い点が全部、山小屋! どの山小屋でも使っていいんですよ!」
●ええ〜!?
「スウェーデンとも連携しているらしいんで、スウェーデンのも使えるらしいんですが、多分数千はあるんじゃないかと思います(笑)。そして、どこの山小屋でも開けられる鍵を借りられるんですよ!」
●凄いっ!!
「あとはもう、自分が身支度して歩いて行けば、素晴らしい自然の中で、その自然を享受できるんですね。そういうことを、元気なうちはしばらく続けていきたいなという、これが僕の希望なんですけどね」
●その会員には誰でもなれるんですか?
「誰でもなれますよ! どなたでも、行けば会員になれます」
●そしたら、その魔法の鍵を借りられるんですね!
「しかも、全部同じ鍵で閉まっているらしいんです(笑)!」
●それ1個あれば、どの山小屋でも泊まることが出来るんですね!
「日本だと、悪いことを考えそうな人がいそうですけど、ノルウェーなどは厳格にそれがちゃんと守られているんですよね。そういうところもやっぱり、素敵だなぁと思いますよね」
●そうですよね〜! 羨ましくもあり、日本もそうなって欲しいなっていう希望もありますよね。全ての山小屋を回ったら、だいたいどれくらいかかるんですか?
「もう、一生かけても難しいかなって思いますね(笑)。僕は北極圏って言われるところに昔から凄く興味があって、出来たらそっちのほうを特に中心に攻めていきたいなぁと思いますね。やっぱり、動物たちとか植生、景色が凄くいいんですよね! 氷河を削ったツンドラの大地なんですけど、もう日本では見られない景色が本当にどこまでも続いていくような、そういうところをザックを背負って、テントを持って“さて、今晩はどこに泊まろうかな!”なんて……。こんな喜びは他に見つからないですよ!」
※最後に、寒川さんは焚き火歴数十年ということなんですが、なんと驚くことに、最近、焚き火が上手になったとおっしゃっていたんです! 一体、どういうことなんでしょうか?
「焚き火は誰でも出来ると思いますし、理屈でやるものでもないんですけれども、何となく、やればやるほど、火が遠ざかっていくような感覚も一方であって……。
僕は焚き火が大好きで、炎も大好きなんですけど、大好きなのに、どこか逃げられていくみたいな……手の中に入れられないものだなってずっと感じているわけです。
以前はもっと我(が)のほうが強かったんですね。“焚き火、やるんだぞー!”みたいなのが強かったんですけど、最近は“いやいや、もう焚き火はねぇ、やればやるほど遠くに行っちゃうんだよねぇ〜”なんて言っています。すると、なんか焚き火の方から寄ってきてくれているような、そんな感覚を、最近になって凄く覚えまして、“あ、ちょっと焚き火と仲良くなれたのかな”と思っています(笑)」
北欧では、アウトドアはレジャーだけでなく「生きる知恵」を学ぶ場所でもあるんですね。私も、今年の夏は北欧流の「手間をかけるアウトドア」を楽しんで、人間としてのたくましさを磨きたいなと思います。
池田書店 / 税込価格 1,296円
経験に裏打ちされたアウトドアの知恵と技術が満載。焚き火のコツや、おすすめ焚き火料理、刃物の使い方、ロープワークなど、アウトドアで役に立つことがぎっしり詰まった一冊です。ぜひこの本を参考にアウトドアへ、そして子供たちと一緒に“あえて”手間のかかるアウトドア体験を!
詳しくは、池田書店のHPをご覧ください。
寒川さんが三浦半島の海岸で行なっている「焚き火カフェ」は、完全予約制で1日1組限定!
詳しくは、焚き火カフェのFacebookをご覧ください。