今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫学者・丸山宗利(まるやま・むねとし)さんです。
丸山さんは、1974年生まれ、東京都出身。北海道大学大学院から国立科学博物館、シカゴのフィールド自然史博物館の研究員を経て、現在は九州大学総合研究博物館の准教授。アリやシロアリと共生する昆虫の専門家でいらっしゃいます。研究のかたわら、いろいろな昆虫を撮影。また「子ども科学電話相談」でもお馴染みで、昆虫に関する子どもたちからの質問に、なんでも答えられる、その語り口で大人気なんです。
そんな丸山さんの新刊が『とんでもない甲虫』。甲虫とは、カブトムシやクワガタの仲間のことなんですけど、世界にはトゲトゲがあったり、もふもふの毛がある、とんでもない甲虫がいるんです。今回は世界にまだまだいる、とんでもなくすごい甲虫のお話をたっぷりうかがいます。
*まずは甲虫の特徴を教えていただきました。
「一番の特徴は、前羽! 昆虫って普通、前羽、後ろ羽と二対あって、羽が4枚あるんですけど、甲虫は前羽が甲羅のように硬くなっている、それが一番の特徴です。カブトムシを想像していただくとわかるんですが、前羽の下に、薄い羽が隠されて収納されているんですね」
●なるほど、硬い部分は羽なんですね。
「パカっと開いてその下から薄い羽が出てきて、それで飛ぶことができるんですよね」
●甲虫は日本には、何種類くらいいるんですか?
「日本で、1万種が大体知られています。実際にはまだまだ新種がいて、世界には37〜38万種がいると言われています」
●そんなにいるんですか! えーじゃあ生き物としてはかなり種類が多いですよね?
「はい、あらゆる生物の中では、一番大きな分類群と言われているんですね」
●そうなんですね。
「全生物の4分の1くらいは甲虫なんです。」
●えーそうなんですか! その割には私たちあまり知らないというか・・・
「甲虫というと、カブトムシとかクワガタとかを想像して、大きくて硬い虫を想像すると思うんですけど、大部分の甲虫が、実は5ミリ以下なんです。小っちゃいんです。小っちゃい虫が土の中に実はいて、だから大きいカブトムシやクワガタは、甲虫の代表ではあるんですが、例外的な存在なんですね」
●カブトムシやクワガタをイメージしてしちゃうんですけど、そういう形ばかりではないんですか?
「とにかく多様で、先ほど土の中って言いましたけど、それ以外にでもですね、カブトムシみたいに樹液に集まるものとかですね、あと地面を歩き回って他の虫を捕まえるものとかですね、色んな所にいます。そういう環境とか、行動に合わせて色んな姿形をしていて、中には本当に甲虫とは思えないようなとんでもない姿のものがいて、それで今回の本は、それを寄せ集めて作ったという感じです。」
●そうなんですね。では早速とんでもない姿の甲虫達をいくつか紹介していただきたいのですが、表紙のど真ん中にどーんといる、ファーのマフラーを巻いているような甲虫は?
「ライオンコガネと言いまして、ナミビアとか、南アフリカの砂漠に住んでいるコガネムシなんですね。実は、今年ナミビアに行ってきまして、2月に実際にこのライオンコガネムシを捕ったんですよ」
●そーですか!
「何でこういう姿をしているのかなって思ったんですけど、砂漠って夜寒くなるんですね。で、こういうコガネムシって夜飛ぶんですけれども、おそらく、夜寒くなった時に、身体が温まらないと虫って飛べないんですね。それで、身体の熱を逃がさないために、こういう毛皮みたいな毛が生えているんじゃないかと思いました」
●人間と同じように、防寒のために毛皮をつけているんですね! 実際に捕まえてみてどうでした?
「いやあ、可愛いんですよね、表紙の写真を見ても、獣っぽいような感じがするんですけど、実際見ても可愛いコガネムシでした」
●貴重な甲虫を求めて色々な所に行ってるですか?
「そうですね、主に熱帯のジャングルに行くことが多いのですけれども、僕の研究は、昆虫の分類学といって、主に新種を見つけて発表するようなことが仕事なんですけど、東南アジアとかに行くと、新種だらけですね。行くたびに新種が見つかります。で、その中から自分の専門の虫を新種として発表するということをしています」
●それだけ新種がたくさん見つかると、新種飽きじゃないですけど、これ新種だけど、いいやーみたいにスルーすることとかありますか?
「そういうことはないですね。まあ確かにこれまでのやつとあまり変わらない、微妙な新種みたいなやつとかいるんですけど、なかにはですね。でも、見るからに全然誰も見たことないやつを自分で捕まえた時はやっぱり興奮しますね」
●昔から昆虫採集は好きだったんですか?
「そうですね、幼稚園に入る前から昆虫に興味を持って図鑑をずっと読んでいましたね。
ただ住んでいたのは東京だったので、実際に本物の虫を見られることが少なかったんです。でも、図鑑を読んでたまに草むらにバッタがいたりするとそれもまた調べて。出会いが少ないからこそ、色んな些細な虫、まあ子供に人気のないような虫でも、自分で調べて愛着をどんどん募らせていきましたね。逆に見たことがないような虫、カブトムシとかクワガタなど、自分で捕まえたことがないような虫には、凄く憧れを持っていて、まあ、だから知識ばっかり蓄えていったような子供でしたね」
●みんなが知っているような昆虫だと、より深く追求してたんじゃないですか?
「そうですね。あらゆる虫が実は好きなんですけれども、普通の身近な虫でもですね、 結構観察して、行動を見たりするもの結構好きですね」
●意外な発見とかありましたか?
「実際に観察したりとか、飼ってみないとわからないことがたくさんあるんですよ。たとえば、自分の庭に畑があって、今年、大根にモンシロチョウの幼虫がいっぱい出てきたんですよ。ところがある時、モンシロチョウ(幼虫)が大根を丸裸にするくらい増えたんですけど、ぱったり(幼虫が)いなくなったんですよ。なんでいなくなったかっていうと、モンシロチョウに寄生するハチ、アオムシコマユバチがそこで増えて、一気にみんな寄生してモンシロチョウが絶滅してしまったんですね」
●え〜〜〜〜!
「そうやって、自然はうまいバランスで出来てるなって、実際に体験してわかるってこともたくさんあります。だから身近な自然でも、観察すると色々面白いことがあったなーと思いました」
●今、特に夏休みだからね、お子さんも、よく見る虫でもちょっと探して飼ってみると何か発見がありそうですね。
「たとえばセミなんか一番身近な虫ですけれども、どのセミが何時位に鳴くとか、ちゃんと調べた人ってなかなかいないんですよ。まあ本をよく調べたら書いてあるのかもしれないけれども。だいたい鳴く時間とか決まっていたりとか、あと天気によって鳴く時間が変わったりとか、そういうことを身近な虫でも、本に書いてないことって、いっぱいあるんですね。そういうのを調べるだけでも本当に面白いんじゃないかと思います」
●この本には、他にも本当に面白い、こんなの見たことないっていうような虫がたくさん載っているんですが・・・このミズタマズングリハムシはハムシの一種ですね?
「南アメリカにいるハムシという虫の仲間で、これはすごく大きくて、硬くて、ずんぐりしているので、今回この本で“ズングリハムシ”という名前を付けたんです」
●どれくらいの大きさなんですか?
「だいたい2〜3センチの大きさはありますね、ハムシとしては大きいんですね」
●模様が黄色に黒のドットなんですけれども、まるで草間弥生のような・・・
「そうなんですよね」
●凄くおしゃれなドットで こんな派手派手なドットだったら、目立っちゃうんじゃないかなって思うんですけど。
「実はハムシの仲間はその名の通り葉っぱを食べる虫なんですけど、あの植物って大体毒を持っているんですね。ハムシは食べた植物の毒を身体に蓄えることによって、敵に派手な模様で食べても美味しくないよってことを知らせるために、このような派手な模様をしているんですね」
●あーなるほど! 警告色ってことですか?
「はい」
●外敵に見つからない方が良いのかなって思っていたのですが、逆に見つかってメッセージを発するというパターンもあるんですね。
「そうですね」
●面白いですね。でも本当に奇麗ですよね!
「そうですね、人間って色んな物を、模様とかデザインをしますけれども、大体のデザインってもう、虫が持っていたりするんですよね。これなんかまさにそんな感じがしますよね」
●結構美しいなーって感動することもたくさんありますか?
「あります、あります! 特に、この写真も撮った自分でも結構自信があるんですけど、やっぱり野外で生きた実物を見るともっと奇麗で感動しますね」
*実は丸山さんは、どうしても会いたくて砂漠の国ナミビアまで行った憧れの甲虫いるそうです。そのお話をうかがいました。
「この本にも、ゴミムシダマシというページに、キリアツメという仲間のゴミムシダマシがいるんですよ。ゴミムシダマシっていうのもよくわからないかもしれませんが」
●なんか黒くて手足が長いタイプの甲虫ですか?
「そうなんです。これがですね、ナミブ砂漠の砂漠にしかいないんですよ。それで、今回ナミビアに行ったって言いましたけど、実はこれが一番見たくて行ったんですね!」
●そうなんですか。
「子供のころからこれが砂漠で走り回っているのをテレビで見たりしていて、いつか自分でこれを追いかけて捕まえたいなーと思っていたんですよ」
●走り回るんですか? 砂漠を?
「そうです。凄く熱くて、人が裸足で歩けないような所をこれが走り回っているんですよ」
●手足が長いからヒョコヒョコって走りそうなイメージなんですけれども、実際どうなんですか?
「ヒョコヒョコヒョコヒョコなんです。この虫は爪が凄く長いんですね」
●本当だ、オレンジ色の爪がありますね。
「砂の接地面がすごく小さくて、そこをショコショコーって高速で走るんです」
●どれくらいのスピードなんですか?
「人が走ってようやく追いつける程度なんで、まあ砂の上だから、走りにくいっていうのもあるんですが、人が歩く程度の速さはありますね」
●追いかけたんですか?
「追いかけて捕まえました!」
●本当に嬉しそうですね(笑)。実はこの甲虫も気になっていて、トゲトゲパンクな甲虫シリーズのハクセンハリヤマゾウムシ。全身がトゲトゲなんですけど、なぜこんなにトゲトゲでロックな感じになっているんでしょうか?
「そうですね、だいたいトゲのある甲虫は小鳥とか天敵に狙われた時に、人間が魚の骨が喉に刺さるように痛いんですね。食べても美味しくないよ、痛いよということを知らせるためにトゲトゲしています」
●なるほど。さっきの色もそうですけど、飲み込まれる前に、飲み込んだら痛いと思わせるんですね。
「実際飲み込まれて、吐き出してもらうのも、ひとつの手なんですけど、飲み込まない方が安全ですよね、事前にお互い平和的に解決できるほうが」
●はははーなるほど
「トゲトゲがあることを目立たせている奴が多いですね」
●そういうことなんですね。アピールのために、より大げさにトゲトゲだったりしていることが多いってことですね。面白いですね。あと、丸まるタイプは?
「マンマルコガネの仲間ですね」
●まるでアニメキャラクターに出てくるような丸くて光沢感があって、これはやはり外敵から身を守るために?
「マンマルコガネって本当にダンゴムシみたいに丸まるになるんですけど、多くの種がシロアリの巣に棲んでいるんですね。なんで丸まるになるかというと、シロアリの巣は常に外敵に狙われています。シロアリを見たことありますか? 柔らかくてぷよぷよしているんですよ。だから色んな虫がそれを襲いに来るんですね。
特に強敵はアリなんです。アリがシロアリの巣に侵入して来て、シロアリを誘拐して食べてしまうんです。そういう時にシロアリの巣の中にいると、一緒に襲われてしまうことがあるんです。おそらく、マンマルコガネはシロアリを襲いに来たアリから身を守るためにまん丸になるのではないかと思っています」
●周りの昆虫との関係性で、形に意味もあるってことなんですね。
「そうです、そうです。実は昆虫の多くはなぜそんな色とか形をしているかわからないんです」
●そうなんですか!?
「例えば、その辺に飛んでるモンシロチョウでも、なんで白に黒の点なのか、アゲハチョウでも、なんであんな模様をしているか、実ははっきりとした理由はわからないんです。でもある程度、予測は出来ているわけで、きょう僕が話したことも、予測の範囲と言えばそうなのかもしれないですね」
●そういうことなんですね。でも予測をするのは面白そうですね。
「そうなんですよ。実際に現地に行って虫を観察すると、その予測がより確かなものになることもありますね」
*最後にもっと楽しくなる昆虫観察のコツを教えてもらいました。
「今インターネットで何でも調べがつくというかですね、ヒントがあるじゃないですか。でも、とにかく身近な虫をじーっと観察してみること。不思議に思ったことを自分で深く掘り下げてみようというところですかね。まあなかなか難しいんですけれども、好きなことだったらできると思うんですよね。とにかく時間をかけて観察して疑問を自分で解いてみようということですね」
●たとえば、観察する時にルーペを持って行ったりとか、より深く観察する方法はありますか?
「そうですね、やっぱりルーペはあった方がいいと思いますね。実は身近な虫って色々いますけれども、ほとんどの虫は小さいんですよ。だからルーペを持っていくと、より世界が広まると思うんですよ、見えるものがですね。
例えば、アリ。身近な公園に、普通何種類もアリがいるのですよ。そういうのもルーペで、違うか同じかということを見わけることだけでも面白いと思うので、そういうことから始めるのもすごく良いことだと思います」
●採集して、家で夏休みの間飼うというお子さんもいると思うのですが、そのあたりはどうですか?
「それもどんどんやった方が良いと思いますね。最近は捕まえて飼うと可哀そうだとかそういう人もいるんですけど、やっぱり飼ってみて、初めてわかるってこともあると思うんです。やっぱり24時間ずっと外で見ている訳にはいかないですから、虫かごの中に入れて観察することによってわかることもいっぱいあるので、そういうことも是非やってもらいたいですね。その時にコツがあって、やっぱり虫が棲んでいる環境をよく観察して、虫が好きそうな環境を再現してあげるのがいいですね」
●なるほど、なるほど。
「たとえば、セミも実は家で飼えるんです、飼おうと思えば」
●そうなんですか!?
「セミって捕まえて来たら、虫かごに中で死んじゃうようなイメージありますけれども、まあちょっとめんどくさいかもしれませんが、植木を買って来てもらって、そこに網をかぶせてとまらせておくとか。日が直接あたる場所に、ずーっとおいておいたらダメだとかですね、まあそういうのをやっているうちに試行錯誤でわかってくるんだと思います」
●なるほど、まわりにある葉っぱとか土とかも、もし持って帰れるなら一緒に持って帰るのもいいですか?
「いいと思います」
●その虫をルーペで、ミクロで見るのも必要だけれども、周りの環境もマクロで見るとより良いですね?
「そういう時、昆虫を探しに行くこと、経験を積むのが大事なんですね。どの虫が、どういう所にいるってだんだんわかってくるんですね。何でこの虫がこの環境にいるのかっていうことも、だんだんと考えるようなになるので、それで色んな昆虫のことを理解するとやっぱり環境のこともわかってくると思います。そうやってどんどん自然への理解を深めることの方がやっぱり大人になるには大事なんじゃないかと思いますね」
●環境が変わるとそこにいる虫も、やっぱり全然変わっちゃったりいなくなったりしますよね。
「変わっちゃいますね。たとえば、もうちょっと大きな話になるんですけど、僕が子供の時、ナガサキアゲハっていうチョウは東京にいなかったんですよ。僕、子供の時、図鑑で見て、ナガサキアゲハって長崎にいるのかなって憧れていたんですけれども、最近、温暖化で東京の方で一番、普通に見られるチョウになったりして。
あと、クマゼミ! 関西では昔から普通にいたんですけど、伊豆半島から西の方かな? 普通いたんですけど、最近では東京でもよく声が聴こえますもんね!
昆虫を普段から観察していると、気候の変化とか大きな変化も気づきやすいですし、もちろん自分が遊んでいた草むらがマンションになっちゃったとかね。そしたら当然、虫もいなくなるわけで、そういう環境がないと、虫は生きられないんだということも、そういう虫を観察することによって身をもってわかるんじゃないかと思いますね」
●本当にそうですね。この時期に、もうスズムシが鳴いているとか、季節の変化も虫から感じることもありますね。
「今年はセミが遅いとかですね、そういうのもやっぱりわかりますよね。ニュースでは、異常気象とか言ってるけれども、それよりは虫(の音)を聴いていた方が、より早くわかるような気がします」
●そうですね。改めて、甲虫や昆虫を通して子供たち、大人たちに感じて欲しいことはどんなことでしょう。
「この本は僕が本当に子どもの時から好きだった甲虫の仲間の、本当に珍しい種を寄せ集めた本なんですけれども、昆虫の一番の売りは多様なことなんですね。最近、多様性って言葉があるんですけども、多くの人はピンと来ないと思うんです。でも昆虫って本当に多様で色んな姿の種が、色んな違う暮らしをしている訳なんですよ。それでこの本は昆虫の多様性を凝縮したようなものだと、僕は思っているんですね。だから、これを見たら、いかに昆虫が多様であるかってことが、わかっていただけるんじゃないかと思います」
●本当に、こんなに面白い、こんなに素敵な形の甲虫がたくさんいるんだっていうだけで、なんだか地球は豊かなんだなあと感じました。
「世界の広さがわかるんじゃないかと思います」
もふもふだったりトゲトゲだったり今まで想像もしなかった「とんでもない」生き物がこの世にはまだまだいるんですね。自然界の多様性に改めて驚かされました。
幻冬舎 / 税込価格1,404円
まるで、もふもふの襟巻きをしているようなライオンコガネ、とげとげだらけのハクセンハリヤマゾウムシなどなど、そのユニークな姿形、色や模様に驚きます。写真がきれいなので、見ているだけで楽しめると思います。
詳しくは幻冬舎のサイトをご覧ください。