今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、北海道・東川町(ひがしかわちょう)在住のネイチャー・ガイド、そして写真家の大塚友記憲(おおつか・ゆきのり)さんです。
大塚さんは1979年生まれ、千葉県野田市出身。20歳の頃に北海道を旅したことがきっかけで、19年前に東川町に移住。現在は「旭岳(あさひだけ)ビジターセンター」に所属し、ネイチャー・ガイドとしての活動ほか、写真家として「大雪山」の雄大な自然を撮り続けてらっしゃいます。
今回は、そんな大雪山の雄大な自然にすっかり魅了されてしまった大塚さんに、一体どんな魅力があるのか、じっくりお話をうかがいます!
※まずは、大雪山がどんなところなのかをうかがっていきましょう。
「まず、北海道の真ん中に位置していまして、日本で一番大きい国立公園である、大雪山国立公園の中にあるんですけど、大雪山って実はひとつの山の名前じゃなくて、大小20ほどの山々の総称で大雪山って呼ばれています。その中の最高峰が旭岳で、東川町にあるんですけど、標高2291メートルありますね」
●大雪山国立公園の面積はだいたいどれくらいなんですか?
「よく例えられるのが、皆さんもすぐ近くにお住まいだと思うんですけど、神奈川県と同じくらいと言われていまして、大きさでいうと23万平方キロメートルと言われていますね」
●結構な広さがあるんですね!
「南北に細長い形の、別名“北海道の屋根”っていうふうに言われているんですけど、北海道の本当に真ん中の、背骨のような形をしている国立公園ですね」
●先ほど、旭岳が有名というお話があったんですけど、他にはどんな山があるんですか?
「一番有名なのは、あとは日本百名山にも入っているトムラウシ山! こちらは1泊以上しないといけない山なんですけど、山登りする人にとっては憧れの山のひとつでもありますね」
●どの辺が憧れなんですか?
「まず、日帰りではなかなか行けないというところと、岩場が凄くてゴツゴツしたような山頂なんですけど、そこに行くまで本当に体力がないとなかなか行けないような場所なんです。ですが、そこに行く途中にお花畑があったりだとか、あとは日本だと、主に北海道の大雪山系でしか見られないような固有種や、動物でいうとナキウサギっていうのが見られるっていう場所のひとつでもあるんで、そういう所に行きたいなっていう人は多いですね!」
●なんか、そのお話を聞いただけでも凄く素敵な場所だなと思うんですけど、そういった山がひとつじゃなくて、たくさんあるということですよね!
「ありますね! コースも実は結構あって、僕が今住んでいる東川町から行くコースもあれば、反対側の上川町から入って行く場所もあったり、いろんなコースがあって、いく通りでも行けるコースがあるんです。けど、もし南北を全部行くとすると、1週間かかっちゃうぐらい(笑)、本当に長いコースですね。
最近は外国の方も多くいらっしゃっているんですけど、1週間ぐらいかけて全部を縦走する人も結構いらっしゃるんですよね。いわゆる外国の人(の間)では“大雪山トラバース(縦走)”っていうふうに呼んだりしているんですけど、そういった所に行くっていうのが意外と流行っていますね」
●本当にいろいろな楽しみ方があるんですね!
「そうですね。もちろん、日帰りでも行けるところがあって、僕がいる東川町ですと、旭岳のふもとにロープウェイがあって、それに乗っていただくと、歩いて1.7キロの散策路があったりして、全然山登りをしない方でも登れるような場所もあったりしますね」
※そんな大雪山に、どうして大塚さんはハマってしまったのか。ある人との出会いがきっかけだったそうですよ。
「環境省が主催していた、地元での自然観察講座っていうのがたまたまあって、いわゆる、そういう自然観察だけの解説だけじゃなくて、自然から人との関わりだとか宇宙の話だとか、そういうところにつながっていくような面白いお話をたくさんしてくださった人なんですよね。
その方はネイチャー・ガイドの草分けっていうふうに言われているくらい、北海道でも30年以上のガイド歴のある塩谷秀和(しおや・ひでかず)さんっていう方なんですけど、その人は結構、冗談も面白くって、“昔はネイチャー・ガイドなんて知られていなかったから、姉ちゃんガイドだと勘違いされて羨ましがられたんだよね”っていうふうにおっしゃっていて(笑)。
それで人を笑わせて和やかな雰囲気にさせて、自然解説をしていくっていうふうなやり方をされていたので、僕もそういう自然を見る目っていうのは、その人を通じていろいろ教えてもらいましたね」
●自然との繋がりとか宇宙との繋がりとかは、大塚さん自身も感じられるようになってきましたか?
「そうですね。特に、塩谷さんの言葉で好きなのが“森に入るときはいつだってひとりがいい”っていうふうにおっしゃっていて、理由としては、感覚の全て、五感とか、あるいは第六感になるかもしれないですけど、そういった感覚の全てをひとりだと全部、森に対して開くことができて、いろいろ感じることが出来るんだよっていうふうに教えてくれたんですよね。
そういう言葉を参考に、僕がたまたま行った近くの森で、真冬の1月だったんですけど、夜が明けてすぐくらいの朝6時に行ったら、夜行性で夜にしかほとんど出会えないようなエゾモモンガっていう動物に、たまたまバッと出くわして……。それがやっぱり、僕が大雪山にハマっていくきっかけにはなりましたね」
●その時に、自然との繋がりみたいなものを感じられたんですか?
「そうですね、“動物が見えるようになってくると、森と一体になれるよ”というようなことも(塩谷さんは)おっしゃっていて、自分が大雪山と少しだけ一体になれたような感覚がその時にあって、そういったものが独特な感覚として自分の中に残っているんです。そういうのをどんどん深く追究していきたいなというのが自分なりに出てきたんだと思います」
●それでは大塚さんの写真集『ブラボー!大雪山〜カムイミンタラを撮る』なんですけど、タイトルも凄く興味深いなと思ったんですが、まず“カムイミンタラ”とは何ですか?
「北海道の先住民族として皆さんもご存知の、アイヌの人の言葉なんですけど、直訳すると“神々の遊ぶ庭”というふうに呼ばれていまして、アイヌの人にとってはこういった大雪山は、神々が宿る場所として崇められていた場所なんです。そういった中々近づき難いような大自然の大雪山のことを、カムイミンタラというふうに呼んでいますね」
●遊ぶ庭っていうのが、またいいですよね!
「本当の直訳だと“神々の庭”っていうふうに呼ばれるらしいんですけど、長くこの麓(ふもと)に住まわれていた人が“遊ぶ庭”っていうふうに付けたっていうふうにも言われているんですよね。厳しいだけの山じゃなくて、一面のお花畑だとか、ちょうど9月に入って日本一早い紅葉も大雪山で始まるんですけど、鮮やかな赤い色の紅葉がご覧になれたり……。
本当に皆さんが美しいって思うような景色も見せてくれるような、いろんな面を持った山として大雪山っていうのはあるのかなと思いますね」
●私も写真集を拝見させていただいたんですけど、本当にいろんな面があって、春夏秋冬、それぞれの季節で全く違う景色を見せてくれる。そして、それぞれが濃いというか、全然色合いが違いますよね!
「そうですね! 実は大雪山は1年のうち、9ヶ月は雪に覆われている場所で、春夏秋のいわゆる夏山シーズンって言われるのは、たった3ヶ月しかないんですよ。その間に、雪が溶けたらすぐに花を咲かせて、実を付けて翌年に備えるという自然のサイクルを繰り返すので、本当に鮮やかな彩りだとか、自然のサイクルっていうのを夏の間の3ヶ月に見せていただけるというところは、本当に僕も未だに新しい発見がある場所ですね」
※今回は、アイヌ語でカムイミンタラ、つまり「神々の遊ぶ庭」と呼ばれる大雪山のお話をうかがっていますが、実は北海道の地名は、山や川なども含め、アイヌ語が由来の名前が多いんです!
ちなみに、カムイ=神、熊 ミンタル=遊び場、広場ということで、「神の遊び場」「神々の遊ぶ庭」「山上の祭場」という意味だそうです。
ニセイカウシュッペ山は、ニセイ=断崖、カ=上に、ウシュ=いつもいる、ぺー=山。
つまり「断崖の上にそびえる山」。
トウマベツ川は、トウ=沼、オマ=ある、ペツ=川。つまり「沼の方に流れる川」。
それぞれ特徴が名前に盛り込まれていて、名前の意味を知るだけで、どんな場所なのかわかって興味深いですよね。
それではそんな大雪山で、特に大塚さんのオススメを教えてもらいましょう!
「僕は今、旭岳の麓のビジターセンターに勤めているんですが、そちらでだいたいお問い合わせいただくのが、夏だったら“お花畑の見頃はいつですか?”、秋だったら“紅葉の見頃はいつですか?”っていうのがほとんどなぐらい、本当にそれぞれのお花だとか紅葉の見頃っていうのは一瞬なんですよね。
だからその一瞬を捉えるには、やっぱり僕も10年以上を要しているというか、この本の中に収められているのも、10年以上かけて撮ったものがほとんどなんです。本当にこの1回しか見ていないような景色も収められていますし、1年のサイクルの中で鮮やかな時期っていうのは、夏は本当に一瞬だと思いますね」
●一瞬っていうと、だいたいどれくらいなんでしょうか?
「7〜9月の3ヶ月で、例えばチングルマという高山植物でも有名なお花だったら、本当に綺麗なお花の時期っていうのは2〜3日ぐらいしかないんですよ。それで見頃っていうと1週間ぐらいしかなくって、あとはもうタネをつける準備として、綿毛になって9月には紅葉になってしまうので、1〜2週間とか本当に一瞬ですよね」
●チングルマの写真が今回の写真集にも結構載っているんですけど、私も凄く素敵だなと思いました! 白いお花が一面に咲いていて、“なんだ、ここは!? エデンの園か!?”みたいな(笑)。天国のような感じで美しいですよね!
「あそこは本当に素晴らしい場所で、本州でいうとアルプスなどで3000m級の切り立ったような山々の断崖だとかに(チングルマが)ちょっとあるようなイメージなんですけど、北海道、特に大雪山ですと、比較的標高が低いんですけど、緯度が高い関係で、北海道最高峰でも2000m級なんですが、その麓の平なところに、そういうチングルマが見られるような標高になるんですね。ほかでは見られないような広大なお花畑っていうのは、チングルマだけじゃなくて、いくつか広がっているというのが特徴ですね」
●写真集の中で言えば、紅葉の写真もまた鮮やかな赤で、凄く綺麗ですよね!
「日本一早い紅葉が見られる場所としても有名にはなっているんですけど、実は日本一早い雪が降る場所としても知られていまして(笑)、富士山とこの旭岳をはじめとする大雪山って、初冠雪を競っているんですよ。
だいたい平均すると秋分の日前後ぐらいに初冠雪を迎えるっていうぐらい、もう秋と冬がほぼ同時に追いかけてくるような感じなんですよね。あんまり紅葉の進行が遅かったりすると、雪が早めに降っちゃったりして、標高の高いところだと一気に紅葉が終わってしまうっていうことも起きていますね」
●じゃあ結構、幻というか、貴重な紅葉の時期なんですね。
「大雪山系では真っ赤な紅葉が有名なんですけど、その真っ赤になる直前ぐらいに、雪化粧になってしまうっていうこともあるんです。ただそれは、全部がいきなり真っ白になってしまうわけじゃないので、冠雪して雪化粧した山と麓の紅葉っていう、2度楽しめるような景色も、たまにご覧いただけますね」
※大塚さんの写真集『ブラボー!大雪山〜カムイミンタラを撮る』の中で、空から山にかけて、まるで柱のようにオレンジの光が降り注いでいる、そんな1枚の写真があるんです。これは一体、どんなふうに撮影したのでしょうか。
「これはですね、主に厳冬期と呼ばれている1〜2月に見られることが多いんですけど、快晴の時よりはちょっと雲がかかっていて、雲間から光が差し込む時に、空気中の水蒸気がマイナス10〜20℃くらいの低温の時に、キラキラと結晶のように反射するんですよね。それが柱状に見られるのがサンピラーで、“太陽の柱”って訳せるんですけど、それは毎回見られるわけじゃなくて、ずーっとそこにいないとなかなか見られないかなっていうぐらい、珍しい現象ですね」
●結構、条件が重ならないと難しいんですね。
「主に早朝だとか、あるいは午後の2〜3時とか、ちょっと陽が傾いてきた時に見られるような現象ですね」
●なるほど。あと、大塚さん、私がもし2泊3日で大雪山に行くとしたら、どんなコースがいいでしょうか!?
「夏山と冬山だと、またちょっと違ってくると思うんですけど、山の中で泊まるということですか?」
●そうですね、出来れば山の中で泊まっちゃいたいなぁと思うんですけど(笑)、初心者でも楽しめるコースはありますか?
「やはりオススメとしては、僕が今住んでおります東川町のほうから入っていきますと、旭岳の麓にロープウェイがあるんですが、それをまず使って、いきなり北海道最高峰を目指していただいて……」
●おっ、行っちゃいます!?
「行ってしまおうかなと(笑)。いきなりちょっと標高を上げて行くので、最初は辛いかもしれないです。けど、実は大雪山というのは、何度も噴火して今の形になっているんですが、比較的そういう何回も噴火した山っていうのは平坦な山々が多くて、山頂さえ目指してしまえば、下るのもちょっと急なんですけど、そこをある程度下ってしまえば、平坦な道がずーっと続いているところも多いんです。
それをずーっと行くと、2泊目に白雲岳っていうところがあって、そこにようやく小屋が出てくるんですが、そこで1〜2泊して……。その周りに7月とかですとお花畑が結構、多いんですよ! そこを何回か見に行ったりして、あとはゆっくり黒岳側、隣町の上川町のほうに降りるか、あるいはもうひとつ有名な場所としては、高原(こうげん)温泉というところがあるんですが、そちらに降りて行くというコースが面白いかなと思いますね。
大雪山はやはり、北海道の屋根と言われているぐらい、本当に標高の高い山々が続いているんですが、やはり雲も一番引っかかりやすい場所なんですよね(笑)。だから、まず天気はよくないと思っていただいたほうがいいと思います。
なので、その2泊3日でもし行かれるんであれば、欲張って行くよりは、ひとつの場所に2泊とかしていただいて、天気のいい日とかにお花畑とかをゆっくり見に行くっていうほうが、北海道らしい時間の流れを感じることができるのかなと思います。
有名な、大雪山を語る時の言葉として、大町桂月(おおまち・けいげつ)という高知県出身の詩人の言葉に、“富士山に登って、山の高さを語れ。大雪山に登って、山の広さ(大いさ)を語れ”っていうのがあって、大雪山って高い山はないんだけど、広さを感じることができる山なんですよね。それをやっぱり、ゆっくりご覧いただきたいというのが、僕の気持ちとしては大きいですね」
今まで、「大雪山」と聞くと旭岳のイメージが強かったのですが、それ以外にもハイカー憧れの山だったり、日本一早い紅葉だったりと、さまざまな魅力があるんですね。何だか自然のテーマパークみたい!? いつかその広大さを感じに行きたいです。
新評論/ 税込価格 3,240円
10年以上に渡って撮り貯めてきた、選りすぐりの写真が掲載されています。いろいろな表情を見せる、大雪山の美しい四季には圧倒されますよ! 写真の説明文にはネイチャー・ガイドの視点で書いた、旅をするときに役立つ情報もあります。詳しくは新評論のホームページをご覧ください。
現在、大塚さんは今年2019年6月に新たにオープンした「旭岳ビジターセンター」に所属しています。旭岳ビジターセンターについて、詳しくはサイトを見てください。
大塚さんのHPもぜひご覧ください。