2019年9月28日

苔は先生
〜生き方を、苔に学ぶ〜

 今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、苔の虜になってしまった、俳優の石倉良信(いしくら・よしのぶ)さんです。

 石倉さんは1968年生まれ、東京都出身。俳優として舞台やテレビなどで活躍。趣味は苔散歩、盆栽、旅行など。特に苔好きとしては有名で、最近ではテレビ番組「マツコの知らない世界」に出演し、話題になりました。
 また、石倉さんのオフィシャル・サイト「苔園(こけえん)」には、苔の生態や楽しみ方など、苔愛に溢れた情報が満載なんです! 今回はそんな石倉さんに、苔の種類、観察の方法などうかがいながら、ほかの生き物にはない、苔の魅力に迫ります。

苔は死なない!?

※そもそも、石倉さんが苔にハマってしまったきっかけは何だったのでしょうか?

「きっかけは、盆栽を育てようかなと思った時に調べていて、盆栽に苔がある写真を見つけて、“あ、苔があると綺麗なんだなぁ……”と思っていたんですね。
 そして、ホームセンターに行った時に、苔が普通に、縁日で焼きそばを買う時ってよくパックに入っているじゃないですか、あのパックの中に苔が入っていて何百円かで売っていたんで、早速買って帰って、もみじの盆栽の下に貼り付けたんです。
 そしたら、“綺麗だなぁ”と思ったんですけど、盆栽も初めてだったり、苔を育てるのも初めてで、育て方がわからなくて、2〜3日したらカラカラになっちゃったんですね。紅葉は元気なのに!

 それで、“これはどうしたらいいのか……”と思ってパソコンで調べたら、“苔は死なない”ってサイトが出てきたんですね。“苔が死なないって、どういうことなんだ!?”と思ってそのサイトを見たら、“苔はそもそも、普通の種子植物と違って、葉っぱ本体から水を得ているから、カラカラになっているのは枯れたんじゃなくて、水がなくなったから仮眠状態になっている。だから、水をあげればすぐに戻ります”ってあったので、慌てて朝・昼・晩に水をあげたら、2〜3日後には、緑色の綺麗な苔がファ〜〜って葉を広げるんですよ!

 “復活してるー! 本当に死なないんだ!!”と思ったと同時に、舞台俳優をやっていて、主役とかメジャーな役者さんと一緒に舞台をやる時に、アンサンブルとか脇役でやっている時に、主役のもみじを引き立てる苔が、役者人生の僕とリンクしちゃって、“苔って、カッコいいな……!”って(笑)。“苔=俺”になって、“こいつが死なないんだったら、俺も死んでいる場合じゃないな!”と思って、そこから急に苔に愛着というか興味がグーンと湧いていって、それがきっかけなんですよね」

●今のきっかけのお話をうかがっただけでも、苔愛がビシビシ伝わってきましたが(笑)、葉っぱで水分を吸収するっていうことは、根っこからは吸収しないんですか?

「いい質問ですね〜!! 根っこっていうのはね、苔には仮根(かこん)があるんですけど、それは水を吸うんじゃなくて、苔って垂直に立っているブロック塀にもいるじゃないですか。そういうところにしがみつく機能なんですね。仮根は、足というか手というか、そういう機能で、直接葉っぱから水を吸い上げるんです」

●あ、だから例えば、土がないような場所にも苔はいられる……!

「そうなんですよ〜、そういうこと! だからよくアスファルトとかに、タンポポとか普通の植物が生えているじゃないですか。あの葉っぱは、あいつらがそこに生えたんじゃなくて、そこには細かいところに苔がいて、その小さな苔の群落に例えばタンポポの種とかが落ちて、苔を利用してそいつらは根っこを生やしているんですね。
 苔がカッコいいのは、そこにタンポポが来たら排除しないで、“お前ら、棲めよ!”って」

●優しい(笑)!

「優しいのよ! 自分のテリトリーを渡していくんです」

●それって、苔側に何かメリットはあるんですか?

「ないです! だから、もう器が広すぎるんです!」

●素敵! もし男性だったら、ちょっと好きになっちゃう(笑)。

「でしょ!?」

●じゃあ、苔がいるからこそ、そこにいられる植物もたくさんいるんですね。

「はい。あと、諸説あるんですけど、地球ができて、陸地ができて、そこには初め、生物が上がれなくて、初めて上がれた生物が、植物だったんです。それが、苔の祖先だったっていう説もあったりするんです」

●その説によると、苔がいなかったら私たちは地球にいられなかった……。

「そういうことなんです!! 大先輩でしょ!?」

“推し苔”を6時間語る!!

※石倉さんは、ただ苔が好きなだけではなく、知識も豊富なんです。一体どんなふうに勉強をされたんでしょうか?

「いわゆる“苔友(こけとも)”がいたりするので、苔に詳しい友人とかに、“これってどういうの?”とか、“こういう育て方ってどう?”とか質問したり相談したりしていますね」

●苔友ってどんな方がいらっしゃるんですか?

「それがね、年齢も性別も職業もみんなバラバラで、そもそも僕が『苔道(こけどう)』っていう電子書籍の本を出した時に、苔サミットをやりたいっていう企画で、苔好きを集めようってことで数人の苔友に“僕が知らない人でもいいから、誰か苔好きを呼んでくれ”って言って、12〜13人集まったんですね。
 その時に、その人の名前も覚えていないし、職業も聞かずに、苔の話で6時間ぐらいずっと話していました(笑)」

●どんな苔の話をされるんですか?

「だいたいが、自分の“推し苔(おしごけ)”の話」

●推し苔(笑)!?

「何が好きかっていうことを話したりとか。いわゆる苔好きって、苔を見る時に“フィールド”って言ったりするんですね。“〇〇のフィールドにはいい苔があるよ”とか、“〇〇苔が今は季節だからいるよ”っていう話をしたりしていますね」

●電車とかだと、撮り鉄がいたり乗り鉄がいたりと、楽しみ方が違ったりするじゃないですか。苔もそうなんですか?

「そうなんですよ、違うんです!! 苔ってセン類、タイ類、ツノゴケ類って3種類のカテゴリーに分けられているんですね。ツノゴケ類っていうのは、ちょっと数が少ないからそんなに人気ではないんですけど、セン類は1000種類ぐらい、タイ類は700種類ぐらいあって、そこでまた好みが分かれるんです。セン類派とタイ類派に!

 いわゆるセン類っていうのは、イメージとしてはフサフサしているんです。苔庭とかにもあるような、いわゆるフサフサした葉っぱっぽい。タイ類っていうのは、ゼニゴケとかジャゴケとかっていいますが、ベターっとベロみたいな形をしているんですね。なので、葉っぱ(の特徴)でも分かれてるし、テラリウム派、観察型派、あと顕微鏡で観る派とか苔玉派とか、同じ苔好きでも凄く分かれているんです。だから、話はもう尽きないんですよ!」


漢字「蘚苔類」をあしらったオリジナル・ジーンズ。

バックには「NO MOSS NO LIFE」の表記。MOSS=苔。

●石倉さんは何派で、どんなふうに楽しんでいるんですか?

「他の人もやっていない、スマホケースに……」

●そう! きょう持って来ていただいているんですけど、驚きのスマホケースなんですよ!

「埋め込んだり編み込んだり、指輪とかネックレスもあるんですけど、何派かっていったら、僕は共存派かなぁ(笑)! 一緒に過ごしたいと思っている! 常に一緒にいたいなぁと思って、それでこの指輪を作って、電車に乗っている時も、つり革に掴まっていても苔を見ていられるっていう……そういうことかもしれないですね(笑)」

※石倉さんのスマホケースには、本物の木の皮が貼ってあって、そこに苔が埋め込まれているんです! まるで苔がついている森の木を、そのままスマホにした感じでした。日常で使うものにまで苔仕様にしちゃうなんて、まさに“共存”ですよね!


苔が生えた木片!? いえいえスマホケースです!

 苔付きのスマホケースは上級者だからこそ。そこで、初心者でも楽しめる方法を石倉さんに教えてもらいました。

「まず簡単にいうと、最近は苔テラリウムっていうのが流行っているから、それを購入して、お家で眺めて育てるっていうのが、意外と簡単にできるかなって思いますね。普通の植物と違って苔が凄いのは、LEDライトの光量とかでも光合成が出来るんですって!」

●じゃあ、育てやすそうですね!

「育てやすいんですよ!」

●増え方は、他の植物と同じなんですか?

「受精して胞子になるパターンと、また苔の凄いところは、さっきも言ったようにタンポポにも自分の棲んでいるところを譲り渡しちゃうぐらいだから、いろんな生きる方法を知っていて、まず、ちぎれてもクローンで育つんですね。
 誰かが踏んでちぎれたとしても、そのちぎれた奴がまた新しく芽を出すことも出来る。受精しなくても出来るし、受精して胞子からでも出来る。自分が生き抜くためのいろんな方法を持っているんですよ! またそれが、カッコいい!! クローンで生きるって、ちょっとした近未来の話でしょ!?」

苔の森はジュラシックパーク!?

※実は石倉さん、いくつか苔を持って来てくださったんです! そこで、小瓶に入った苔をルーペで観察しながらお話をうかがいました。

「この真ん中にあるのがホソバオキナゴケで、その横っちょに長くピロ〜ってなっているのがハイゴケっていう苔なんですね」

●へぇ〜! 藻っぽいイメージがあったんですけど……。

「苔と藻って、みんな一緒にしちゃっている部分があるけど、植物で葉っぱなの!」

●こうやってじっと近くで見ていると、恐竜の時代にタイムスリップしちゃった感じですね(笑)。

「そうなの!! それでね、ルーペを持って来たんだけど……」

●今、石倉さんが嬉しそうに見ていますけど(笑)、まずは指輪に植えている苔、これは何ていう種類の苔なんですか?

「これはスナゴケです」

●これをルーペで見てみると……おおー、凄い! 葉っぱが1本1本ちゃんと形になっていて……南国の木々の中にいる気持ち(笑)?

「ジャングルの中に入っている感じでしょ!? これを真上から見てくださいよ、星型っぽく見えるでしょ!」

●本当だ、可愛い〜! 金平糖みたいなお星様がいっぱいですね。

「いい表現ですね〜、正解ですよ、その表現!! それがスナゴケっていうんですけど、あと持って来たのが……これが、スナゴケが乾いている時の状態。これをルーペで見てみて!」

●あっ、全然違う! 葉っぱが閉じてへにゃへにゃ〜ってしちゃっていますね!

「でしょ! これに水をかけてあげると……」

●あ、開いてきた! こんなにダイナミックに変化するんですね! 霧吹きでかけただけで結構、瑞々しくなりますね。乾いている時と別物みたい! ただの緑の一面だと思っていましたけど、中ではこんなにいろんな変化が起こっているんですね!

「そうなんです!! 雨が降ったら苔好きが喜ぶのがわかるでしょ!?」

●わかります(笑)。こんなにダイナミックに変化するんだったら、遠くに行かなくても、近くの苔をルーペでずっと見ているだけでも飽きない! エンターテイメント!!

「そう!! 土手とかで苔を見つけてルーペとかで観察している時に、横から蟻が通ったりすると、もうジュラシックパークの世界ですよ! ティラノサウルスが通りがかった、みたいな!」

●原始の時代にタイムスリップしているような気持ちになります。いやぁ、確かにこれは飽きないですね!

「飽きないでしょ? これは家でもひとりで出来るから! 酒飲みながら毎日、冒険の旅に出られますからね」

●ちょっとした冒険が、小さなタッパーの世界に広がっていますね! 奥深い、苔の世界!!

「……きょうはこれ、長澤さんにプレゼント!」

●えっ、いいんですか!? 

「今までお疲れ様でしたということで!」

●あはは(笑)! 実は、石倉さんを私がパーソナリティを務める回の、最後のゲストとしてお迎えさせていただいたんですが、これからこの番組を離れて、スタッフたちとも会えなくなって、リスナーの皆さんとも疎遠になって寂しいなってちょっと思っていたんですけど、この子がいれば、ちょっと寂しさが紛れそうです!

名脇役!!

※実は、私たち日本人と苔は昔から深い関係にあったそうです。

●やっぱりお寺とかに行くと、苔をよく見る機会があるかと思いますが……。

「昔の人にしても、(苔の)癒し効果が分かっていて、そういうところに苔を配置していたんだなと思うし、言ってしまえば、国歌にも“苔のむすまで”とかってあるじゃないですか。そう思うと、最近では外国でも苔が生やされていますけど、日本人はもっと近いところから苔とつながっていたというか、付き合いがあったんじゃないかなというのは凄く思いますね。

 そんなに知らなくても、山に行った時に苔むした岩とかを見ると“わぁー、綺麗だな!”とか、お寺に行っても“あ、綺麗だね”とかって思う。それって何かで聞いたんですけど、よく水しぶきで湿気みたいなのを滝は出しているじゃないですか。あれをマイナスイオンと言うとしたら、森を歩いていて“わぁ、ここら辺マイナスイオン多いな〜”って思うときは、必ず苔がいる! だから、癒し効果を苔は持っているんです! 苔に詳しくなくても、苔を好きじゃなくても。そういう素晴らしい機能! やっぱりね、見ているだけじゃなくて、地球にもいいとか、体にもいいとかいろいろあったりするからね」

●浄化作用みたいなのもあるんですかね?

「あるんです! 空気清浄としてもよかったりするんですね。植物は結局、二酸化炭素を吸って酸素を出すじゃないですか。“自然の空気清浄機”って言っている人もいます」

※最後に、石倉さんにとって苔の一番の魅力とはどんなところなのかをうかがいました。

「見ているとね、いろんなことを教えてくれるんですよ。道を歩いていて、パッと見た普通の歩道の、ずーっと真っ直ぐ続く隙間に苔があると“この1本道になるまで、凄く時間がかかったんだろうな。地道にこの苔たちは群落を広げて1本につながったんだな”と思うと、“自分も辛い時があっても、諦めずに頑張ろう!”と思ったりとか……。
 そういう意味では本当に、苔は先生のような存在で……大先輩なわけじゃないですか!! だから、これはもう共存というか、一緒にいさせてもらうことが楽しいなって感じですね」

●苔を好きになったことで、人生観は変わりましたか?

「もうね、面白いぐらい変わりました! 初めに言った、苔を好きになった理由も、脇役稼業でっていうことも含めるんですけど、好きになる前とかは“もっと前に出たい、前に出たい!”とか(思っていたんですけど)、“この人がいるんだったら、この人にどういう言い方したら光るんだろう?”とか、“作品全体を良くすればいいだけじゃないか!”とか。
 自分だけがどんなポジションでも出たいと思っていると、作品もキャラもガチャガチャになっちゃうしって思うと、いただいた役を真摯に受け止めて出来るようになったし、それも全部考えると、苔のお陰なのかなっていうことは、ちょっと思ったりしますね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 石倉さんにお話をうかがってから、苔が気になって仕方ないんです。改めて注目してみると、家の近くのブロック塀の下のほうや、いつも歩いている歩道の脇にも、ひっそりと、でも力強く生きている苔がいました。多くの人はその存在すら気づいていないと思うんですが、自分のために、誰かのために、何かのために懐広く生きるその姿を見ると、石倉さんと同じように、思わず人生を重ねて色々と考えずにはいられません。自然は偉大な先生ですね!

 これからも皆さんと一緒に地球を愛し、地球を学び、地球と遊び、地球に生きていきたいと思います。今まで本当にありがとうございました!!

INFORMATION

 ぜひ、石倉さんのオフィシャル・サイト、「苔園(コケエン)」をご覧ください!
苔の基礎知識が載っているページ「苔辞苑」ほか、苔に関するいろいろなこと、さらに、石倉さんの近況がわかるブログ「苔日和」など見所満載! 『苔道(こけどう)』という電子書籍も購入できますよ。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. MAGICAL MYSTERY TOUR / THE BEATLES

M2. IRRESISTIBLEMENT / SYLVIE VARTAN

M3. VIRTUAL INSANITY / JAMIROQUAI

M4. やつらの足音のバラード / スガシカオ

M5. BY YOUR SIDE / SADE

M6. 世界に一つだけの花 / 槇原敬之

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」