2002.08.25放送 版画家・名嘉睦稔さんを迎えて TINGARA・サウンドの秘密に迫る 「太陽の花って沖縄ではハイビスカスのことやユウナの花のことを言ってたんです。ヒマワリが無かった時代からそう言われてたんです。ヒマワリは歴史的に人の活動が活発になってから日本や沖縄でも見られるようになりましたけど。でもね、沖縄には向いてる花なんですよ。だからヒマワリが咲き始めてからそれに刺激を受けてね。ゴッホがすごく素晴らしいヒマワリを書いてるから、それを見てたら嬉しくて満足してたんだけど、わー、いいヒマワリだなぁと言って飽きずに眺めてたのに、ゴッホが書いてるからもういいだろうと思ってたんだけど、自分もヒマワリを見てるうちにムラムラ書きたくなって、それで書いたんです。その中の一つです。 太陽って、沖縄の昔の人たちが詩の中で残してるのは、花が咲くように海の向こうからツボミの状態で、海から出ると同時にパァーっと開いて、あたりを揺るがすようにしてガランガランと音が鳴って・・・。花が咲くようにして音も同時に咲くようにして、海の向こうから上がってきて一日が始まるんだという考え方をしてたみたいで、見てると、朝早く、まだ暗いうちに鳥が鳴きだして、トカゲなんかが身体を暖めようということで草の間からはい出してきて日当たりのいい場所に陣取ってね。太陽を浴びようということで待ってるんですよ。ついでに人間もそこで待ってたりするんですけど。そうしてると向こうから太陽が上がるとき、音が鳴るような印象があるのね。凄い輝くような一日の始まりのようなね。そうすると段々ポカポカ暖かくなってきて、自分の中に太陽のエネルギーというか、気持ちが移ってきちゃって自分もなんか元気出て来ますよね。毎日生き物っていうのは太陽を寿いで、元気もらってるという感じがするんで、そんなとき歌が聞こえるような感じがするし。でもね、よくみてみたらヒマワリって太陽に向いて動くというんだけども、動きはしないんだよね。」 ●そうなんですか? 「基本的にはヒマワリは東の方向を向いてるの。東から南の方角ね、要するに東南。そのあたりの幅しか動かないんですよ」 ●じゃぁ、やっぱり上がってくる太陽を見るって感じなんですかね。 「ツボミから成長してくるときは、わりと太陽を追っかけるような感じがあるんだけど、花が開き始めると東から南だけ。で、そこって朝の太陽を一番受けやすいところで、太陽っていうのは朝、ふ化したら段々成長して思春期を通り越して壮年になって老人になって、また生まれ変わるという考え方があるんだけど、老人の太陽って、植物にあまりよくないらしいんだね。」 「僕は技術的に自分が歌った曲を記録するという方法を知らなくて、だけど、歌は昔から作って歌うもんだという考えがありましてね、基本的にポピュラーで、オーソドックスなものがあって、定型のものがあるわけですけど、その定型を壊していくというのが、僕が育った風土の中では許容されてたんですよね。なおかつ僕はその中で面白く作るというのがもっともっと好きで、まわりにいる大人と弾いてて叱られるかも知らんけど、突然アレンジするんですよ。メッと睨まれるんだけど、ニッて笑い返してなんかやったりして、そういう具合に歌はその場でわりと即興で歌うクセがついてて、詩もほとんどその場で作っちゃうんですけどね。僕の場合は先に詩があって、詩に節をつけたりしてるうちにメロディが着いて一つの歌になるんですけど、でもそれはその場で露のように消えてしまうんですよね。だけど、たまたまティンガーラの仲間がそれを録音する装置をもってたり、譜面に落とす技術を持ってたりして、世の中に記録として残ってしまい、あなたがやってるんですよという烙印を押されてしまうわけですよ。」 ●このアルバムでは『恋頼てぃ』という曲も。めちゃくちゃロマンティストですよね、睦稔さんって。 「合わないと思ってるんでしょ?」 ●いやそんなこと無いですよ。版画彫るときの厳しい顔と比べると、どこから出てくるの、こういう言葉っていうぐらいロマンティックな。 「これホントは実話じゃないんだけど、ある人を恋い焦がれて好きなあまり、墓が立ち並んでいる後生(グソウ)の道と呼んでるところがあって、沖縄の墓って家みたいなものが並んでるわけだから、村のようになってるんだけど、そこから白い道が通ってるんだけど、大きな松が覆いかぶさるようにあって、昼なお怖いところで子供たちは近づかない。夜なんて屈強の男でも怖くて通れないというようなところ。ある人を想うがあまり、そこを通ってその人のところに通うんですよね。恋は人を魔物にしてしまうわけです。ということを聴いたような見たような・・・」 ●それは体験的な? 「いやいや、僕はそういうところ、あまり怖くないんですよ。だから平気でそこに行っちゃうから激しさは感じない。でも女の人がそういうところを通ってなおかつ恋人のところにいきたかったというのは、とんでもない情熱でまわりの幽霊なんか目に入らなかったんですよね。」 ●アルバム『太陽の花』には八重山のトラディショナル・ソングという『あがろーざ』という曲もありますね。これはどんな歌なんですか? 「子守歌なんですよ。でも、お母さんが歌ってる歌じゃないんです。どちらかというと、これは子守する姉さんというか兄弟が歌ってますよね。」 ●これは八重山の歌? 「これね、ヴォーカルのつぐみのおばあちゃんが“うたしゃ”といってね。“うたしゃ”という称号をもらうということはたくさん歌い手がいる中でも優れてる人を“うたしゃ”というわけで、みんなに尊敬されるし、その人が歌うというと、隣の村からわざわざ聴きに来る。当然男達にはもてるわけですよ。つぐみのおばあちゃんがその“うたしゃ”で、18の時、蓄音機の時代に始めて吹き込んだ歌が『あがろーざ』という歌だったらしい。だからつぐみも歌いたかったんだね。それがくしくも今回出来たんで彼女はとっても嬉しいっていってましたけどね。でもこの『あがろーざ』はつぐみなりの歌い方をしてるんですよ。基本形は崩さずに自分たち流のアレンジをしてるから、ティンガーラなりのものになってると。今、沖縄の先輩たち、つまり民謡といわれるようなものをなりわいとしている人たちは、昔の歌を採譜して昔のまま残しておこうとして努力してるけど、多分違ってるんですよね。昔のものというのはないんです。つぐみのおばあちゃんがやった『あがろーざ』も発見できないですからね。蓄音機で録音したとはいってもどこにあるか、現存しているかどうかもわからないし。」 ●今回のアルバムには沖縄のトラディショナル・ソングに睦稔さんが詩を付けたものもありますね。 「これね、僕はこれが一番嬉しかった。『天河原ナークニー』というんですが、ナークニーというのはポピュラーな歌なんだけど、それぞれに歌い方があって歌詞はもちろん自分で作っていくんだけど、メロディの変化とか、節の回しを変えたりして、基本的な定型はそこに潜んでるんだけど、自分なりにやるというのがナークニーのある種セオリーになっていて、そこまでしたほうがナークニーはいいという考えがあるんですよ。それで、ティンガーラの面々がそれをやるといったときに、僕の弾くナークニーはこうだといって、わりとオーソドックスなナークニーを弾いたんです。それをどうするのかなぁと思ったら、面白いんですよ、彼らがやったナークニーが。」 ●これの詩はどういうところから? 「あっ。これも詩は僕が書いたんだった。」 ●そうなんですよね。これもかなりロマンティックですけど。 「これはね、夜なんですけど。夕なぎ、朝なぎといって海から丘の方に風が吹いたり丘から海の方に吹いたりするんですよ。これは海の水と地熱の関係で太陽に暖められて風は海に流れたり土に流れたりするんですよ。で、これは海と陸を男と女になぞらえて。 これもまた、ウフッ、好きな人を想う女の人の気持ちかな。」 ●睦稔さん、この先1年間ぐらいのビジョンというか、計画はありますか? 「全く無いっすよ。」 ●じゃぁ、風の吹くまま流れるまま。 「風見鶏みたいに、いつも風に向かってね。あまり深刻にしても、たいしたものじゃないから」 ●まぁ、受け止め方ですからね。睦稔さんは作ってしまったんですから、それぞれの方がどう受け止めるか・・・。 「そう。それなんですよ。それがいいたいんですよ。要するに、見る人がいい絵だなぁとか深い絵だなぁと思うのは勝手ですから。それを深いと思うなら、それを見てる人が深いんですよね。そう思うと僕には責任ありませんとはっきり言えますから(笑)」 ●睦稔さんの作る歌もティンガーラでつぐみさんが歌うことで余計に心に響いてくるということかもしれませんね。 「よっしゃぁ、これで決まったね。」 太陽の花/TINGARA ビクター/VICL-60899/¥3,045 TINGARAにとっては3枚目のアルバムで、今回もジャケットはもちろんのこと、一曲ずつ名嘉睦稔さんの版画があしらわれていて、耳に優しく目においしいアルバムになっています。東京電力のTV-CM曲“海風”、タイトル曲の“太陽の花”など、全10曲。疲れた心にホントに効きます。 ビクターのTINGARAのサイトはこちら・・・ TINGARAのオフィシャル・サイトはこちらです。 また、名嘉睦稔さんオフィシャル・サイト『BOKUNEN'S WORLD』はこちらからどうぞ。
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