2002.9.1放送

C.W.ニコルさんと日英グリーン同盟2002


 さて、今週から2週に渡っては、日英グリーン同盟2002関連の取材レポートをお届けします。この『日英グリーン同盟』というのは、1902年に締結された日英同盟の100周年を期に、駐日英国大使館の提唱によって行なわれた記念事業で、日本各地に、イギリスの代表的な木・オーク(日本でいうナラ)の苗木を植えることで、日本とイギリスの人々の心をつなぐと同時に、自然保護や環境などの地球規模の問題も考えて欲しい、という趣旨で行なわれたものなんですが、そんな『日英グリーン同盟』のフィナーレ・イベントが8月25日、日曜日に、長野県・信濃町で行なわれました。
 そして この日は、長野県・信濃町の黒姫で、もう1つ、歴史に残るセレモニーが執り行なわれたんです。そのセレモニーとはC.W.ニコルさんが理事長を務める「アファンの森財団」所有のアファンの森と、イギリス・ウェールズにある「アファン・アルゴード森林公園」が、世界で初めて姉妹森となる調印式なんです。
 ご存知のようにニコルさんは17年前から黒姫にある里山の荒れた森を再生する活動を行なっていますが、そのお手本となったのが、30年前には、炭鉱のボタ山として放置されていた場所を長い時間と人々の努力によって生まれ変わらせた、ニコルさんの故郷、ウェールズにある「アファン・アルゴード森林公園」なんですね。


 さて、日英グリーン同盟の記念式典には、駐日英国大使のスティーヴン・ゴマソールさんも出席され、会場となった黒姫童話館の前庭に、記念のオークが植樹されたんですが、ゴマソール大使ご自身はオークにどんな想いがあるのか、式典の後にうかがいました。
「あの、イギリスの公園にはよく見られる、イギリスの典型的な木なんですけれども、イギリス人の心の中に、オークといえば、やはり誠実さ、長持ち、丈夫、そのようなことを思いだします。ある意味においては国のシンボルともなっています。今回のことには二つの意味があって、確かに日英の非常に永い、非常に丈夫な親善関係を表す。それからそれを見る人たちに“自然を大事にしましょう”という精神を育てたいと思っているのです。」

 この日英グリーン同盟のフィナーレ・イベントが行なわれた同じ日に、ニコルさんが作ってきた黒姫・アファンの森と、ウェールズのアファン・アルゴード森林公園との姉妹森・締結式がアファンの森で行なわれ、無事、調印が済んだわけなんですが、ここで、その時の、締結書の文面をご紹介しましょう。
『姉妹森・締結書:
 人類の未来と、幸福な暮らしを守る上で、
 森林や、そこに息づく生命・多様性の保護/繁殖は欠かせないものである。
 歴史・経済・教育と、多方面に渡る英日2カ国の絆の重さをかんがみ、
 英国・南ウェールズの「アファン・アルゴード森林公園」と
 日本の長野の「財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団」は、
 互いに「姉妹森」とすることで合意した。
 今後は、森林の管理運営や、生態学・文化・教育、
 更には、公共の利益までも視野に入れながら、情報や人材の交流を図っていきたい。
 願わくば、英日2カ国の友好関係に資するに留まらず、
 この地球のために、ともに手を携えて、健康な森を育んでいきたいと考える。
 以上の友好的な取り決めに基づき、
 双方の代表者が、二つの森を「姉妹森」とすることを証して、ここに署名する。
 2002年8月25日
 アファン・アルゴード森林公園、マネージメント・主任レンジャー:
  リチャード・ワグスタッフ
 財団法人、C.W.ニコル・アファンの森財団・理事長: C.W.ニコル
 立会人: 駐日英国大使、スティーヴン・ゴマソール  』
 この締結式ではニコルさんが、こんな挨拶をなさいました。
「森というのは国の肺です。アファンという意味は風が通るところ。さっききれいな風が通りました。今も通ってくれるでしょう。森がなければ国は生きられません。この森の中で無数の生物がいます。人間と動物の違いが色々といわれていますけれども、道具を作るとか、火を使うとか、でも僕は人間と動物の一番の違いは、未来を想像すること。松木さんと僕がこの10何年の間に、この森を育ててますけれども、松木さんと僕が本当に望んでいる森は、我々二人とも見れません。皆さんの孫が見れるでしょう。想像して下さい。この木が二倍、三倍、四倍、大きくなって、そして未来に英国から友達が来て、日本人がリチャード(・ワグスタッフさん)が育てた森にも行って。森の恵みは風、水、やすらぎ、友情、勇気。人間にとって一番大事なものはやはり、心で感じるけど目で見れないものです。今日は私の人生の中で多分一番嬉しい日です。ありがとうございます。」

ニコルさん、感極まってうっすらと目に涙がにじむシーンもあったんですが、翌日にはニコルさん御自慢のアファンの森で、ニコルさんとワグスタッフさんという“アファン・ブラザース”に挟まれてインタビューを行ないました。

●ニコルさんのアファンの森と、アファン・アルゴード森林公園が姉妹森になったということなんですが、姉妹森って聞いたことがないんですけど・・・。
ニコルさん(N)「今までないからね。日本だけじゃなくて多分世界にもないと思います。」
ワグスタッフさん(W)「この姉妹森の試みは画期的なものだと思う。今後はもっともっと増えていって自然な成り行きで当たり前のこととして人々が取り組んでいくことになると思う。ニックが“僕にインスパイアーされて”というのが、ちょっと恥ずかしくもあるけど、我々はお互いからたくさんのことを学べると思う。環境問題に関しては同じような問題を抱えているからね。その問題も分け合っていけるし、分け合えば半分になる。日本に来てみて色々な人々と話し合って、経験を分かち合いながらたくさんのことを共にやれるということがわかった。カブトムシのリサーチから森の遊歩道をどう造るかまで。ローカルな事柄からグローバルな事柄まで、経験を分かち合えると思うよ。」

●既に姉妹森の提携を結ぶことで色々なスタッフの方たちが、どんなことができるかということを話し合っていますよね。
N「さっき、リチャードが言った虫の研究のやりかたからね。今、財団になって人があちこち歩いています。人が増えると森が痛むから、どういう道を作るか、道をやめるべきか、草刈りをやめるとか、ボードを入れるとか、これはもう厳密に話ができてますよね。リチャードが言っているのは一つの問題も分け合えば問題が半分になる。いい言葉ですね。英国の森林の問題は日本と似ているものがものすごく多いです。だからお互いのプラスになる。マイナスには絶対なりません。」

●ニコルさんがインスパイアされたというアファン・アルゴードも最初はひどい状態でした。
N「私が覚えているのはもう50年以上前のことだけど、それは荒涼たるものでした。」
W「今でも荒れているといえるかもしれないが、元々ボタ山のようなものだったけど、炭坑の線路はそのまま残して、何年もかかってその古い石炭屑を集めて高原に戻して、線路は表面を加工して人々がサイクリングしたり歩いたりできるようにした。自然の植生が戻るように手をかけていったんだ。25年か30年前のアファンの写真を見ると、後どのくらい木が必要なのか、どのくらい野生の植物を植えなければいけないのかわからなかったけど、今では土壌改良を進めたところに、野生の蘭までが育っている。私にとっては真っ黒の何もなかったところに、今では人々が集い、昆虫やチョウチョを見ているという変化がおきたことは素晴らしい経験だった」

●ニコルさんが覚えているアファン・アルゴードは50年前。
N「そうです。炭坑の後のボタが山中、谷間中に灰色、あるいはクロに近い色で、皮膚病のようだったんです。でも、今は、さっき言ってたようにキズを負った皮膚病の上にも蘭の花まで戻ってるからね。」

●25年か30年前まではここまで木は増えていなかったというのは、私たちもスライドを見ましたけど、こんな豊かになっちゃうのかと驚きました。そして、うまくレールの後とかも使ってますよね。再利用できるものはそのままにして。長い年月をかけてアファンの森を作ってきたニコルさんにとって、出発点にもなったアファン・アルゴードだったわけですね。
N「私は16年か17年前にリチャードの公園に行って話をしたんですけど、彼が『吸い殻一本あると、それはすぐ5本の吸い殻になりタバコの空き箱になる。それがあると、今度は空き缶になって最後にはいらない自動車まで捨てられるんだ。ゴミはゴミを呼ぶ。緑は緑を呼ぶんです』と言ってたんです。」
W「ゴミがゴミを呼ぶということは今でも必ずスタッフに言っているんだ。でも問題もある。それはクルマからのポイ捨て。人々がクルマから投げ捨てているものの多くはリサイクル出来るし、そうすれば環境にとってもいい。人々がゴミを投げ捨てるということは自然に対して敬意を払っていないから。だから次の世代に対して環境に敬意を払うということの教育をすべきなんだと思う。」
N「自分の国を侮辱してるんです。犯罪ですよ。」

●ワグスタッフさんも若い世代に色々なことを教えていき、彼らがニコルさんや自分の世代になったとき、それを受け継いで、その気持ちで行動し、より若い世代に教えて、いい方向に向かっていって欲しいとおっしゃってましたけど、子供たちが、人々がマナーをもって入ってきてくれれば、森に訪れてくれれば、みんなで考えられるし、そんな子供たちが目を輝かせながら木々を見つめたり、ワグスタッフさんが木に聴診器を当てて水を吸い上げている音とかを聞いていると、変なことをやってるオヤジがいるなぁと思いながらも、彼らが同じことをやっていれば嬉しいしって。
N「日本の山、自然から、今でも平気で珍しい花が取られるでしょう?ここは、一晩でお金にすると400万円以上の花が盗まれたんですよ。でも、その花が取られるだけじゃなくて、その花がなければ生きられない生き物がいるんですよね。その花を取るとその種を絶滅させる。小さな鎖の始まりですよね。その昆虫を狙ってる鳥達もいるし。これがひとつのポイントだね。だから取るなと。それから英国に庭のゴミを捨てる人がいるんですよ。」

●今、日本でもガーデニングが人気で、特に都会ではマンションのベランダでガーデニングやったりとか。
N「そう。そういう庭の花と野生の花の混血が出来てしまって、種が強くならないで、弱くなってる。だからコンポストしろって言ってるんですよね。花が欲しければ花屋さんで買ってくれよと。」

まず、自分たち自身がその花とか自然とかを楽しむために絶対的に必要な第一歩ですよね。ワグスタッフさんの言葉を借りれば、“ゴミがゴミを呼ぶ”ということになるんですが、ニコルさんは、日本ではクルマからの“ゴミのポイ捨て”がホントに多いと嘆いていました。そんな嘆きを聞いていたワグスタッフさんは、そういった光景を目にしたら、落としたゴミを、クルマに投げ返すと言っているんですが、実際にイギリスでも同様な問題が持ち上がった時、あちらでは“ゴミ奉行”のような人たちが取り締まり、その場で5ポンド、およそ930円の罰金を徴収しているそうです。また、カナダでもクルマからのポイ捨ては、500ドル、およそ3万9千円の罰金、アメリカでは、水源地へのゴミ捨ては1万ドル、およそ121万円の罰金なんだとか。そういうことをしないと自然は守れないのかもしれませんが、やはり、ひとりひとりのモラルの問題が一番大きいのではないでしょうか。

●アファンの森でのニコルさん、ワグスタッフさんとの会話も、自然との接し方に移っていきました。
N「今ずっと水の流れてる音が裏にあるでしょ?そういう音は騒音じゃないんです。IT'S BACKGROUND MUSIC。昔から人間は、水の音が聞こえたら水があるということの安心感があるでしょ?だからアルファがあるんです。座るだけでアルファがあるんです。ストレスがとぶ。たき火も同じです。小さなたき火があったら、ぬくもりがある、光がある、安全だということの安心感がアルファを作りますよねえ。
W「今日のように木のところに座って目を閉じれば、そこはパラダイス。目を閉じることで聞くことに集中が出来る。すると、木々を渡る風、昆虫の鼓動が聞こえてくるし、においもしてくる。自然を探しに行かなくても木のそばに座っていれば自然の方からやって来る。そしてリラックスできる。都会の音はクルマやエアコンのハム音でしょ。決して風の中から優しく漂ってくる昆虫やチョウチョのものではないでしょ。都会に住む人は出て行く必要がある・・・。ほら、今もチョウチョが録音機材のところに止まって、羽根を開いたり閉じたりしてる。」
N「ホント、きれいだね」
W「別にチョウチョに精通している必要はないんだ。」

●そのチョウチョの名前を知らなくても見ているだけでなごめる。今、ワグスタッフさんは素晴らしいことをおっしゃいました。自然を探しに行かなくても、木のそばに座って目をつむっていれば自然はやって来る。すでにその時点であなたは自然の中にいるんだと・・・
N「もう一つポイント言っていい?この木々は松木さんと僕が植えたんです。この池は僕らが作ったんです。そのハビタット作ったらこれだけ鳥とか虫とか、そして人が来ます。あの、バブルの時期に日本のいろんな会社や人が膨大なお金を使って、外国から絵とかそういうものを買ったでしょ?そのお金の10分の1を自然に使ったら素晴らしいことになったんですよね。僕も絵は好きだよ。でも、その大事な絵を自分のためだけに閉じこめてやるのは、いいかどうか。これは、THIS IS FOR EVERYBODY。僕は買ったよ。松木さんと僕がずっと仕事したよ。しかし、これを財団にした。つまりみんなのためにやりましたから。だから国を愛することはこういうことが一つだと思います。」

●これで姉妹森となった二つのアファンの森なんですけど、お二人それぞれに、この森が今後どうなっていって欲しいかうかがいたいんですが。
N「そうですね。我々、僕とリチャードは、この森の未来の姿を想像は出来ますね。しかし見られません。でも、この木々がでっかい古い木になることを想像するのは楽しい。そして、僕の想像の中では、英国人のいろんな人が歩いて、我々が植えた木が僕のお腹くらい大きくなったら、ウェールズの若い美女がここに座って、“いいところですね。きれいだね。チョウチョがいるなぁ”とかっていう楽しみがある。」

●その木をハグしてくれて・・・
N「そう。」
W「まず、何千年という森のスケールでものを考えなければいけない。木を植える人々は大きなイマジネーションを持つものだ。何故なら、5歳の時に植えた木でも、その成長した姿を見ることは出来ない。それは未来のジェネレーションに受け継がれていくものだからだ。一つの木を植えると、木を植える情熱を生みだし、もっと木を植えようといういう情熱が生まれる。我々はそういうことをすべきなんだ。そういう情熱を喚起させるのが必要なんだ。ウェールズの言葉で“ベンデゲディック”という言葉がある。英語にするのは難しいんだけど、飛び上がって“素晴らしい!!”というような感じかな。ここ、黒姫のアファンが日本の人々の心をつかみ、日本中に黒姫のアファンが出来ていく。それが望ましい。あそこにお父さんと一緒にチョウチョの写真を撮っている若い女の子がいるけど(フリント家の“じいさん”の愛娘・沙季ちゃんのこと)、ああいう次世代の子が受け継いでいってくれることが未来になるんだ。それは君でもなければ、まして木のそばに座ってる老人でもない(ニコルさんとワグスタッフさんのこと)。ベンデゲディック!!」

●ベンデゲディック。日本語でいうと、心の底からの“素晴らしい、最高”という感じでしょうか。
N「嬉しくて飛び上がっちゃうという感じかな」

もう、まさにアファンの森はそんな気分だと。ドングリから木が育つように、最初は小さな運動かもしれないけど、それが大きくなっていくという。残念ながらたとえ5歳の子が木を植えても、その木が完全に育つのは見届けられない。だから未来の世代のため、ここに座っている全員のためにやっているのではなく、若い、次の世代のためにやってるんだ。世界の肺といわれる森というのは新しい世代、この先の次の次の次の世代のために、それに夢を託して私たちは作っていくという、かなりワグスタッフさんも興奮しておっしゃっていました。いつか私もウェールズのアファンの森に行ってみたいと思います。

財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団情報
 「財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団」では、活動をサポートしてくださる会員を募集しています。ちなみに、アファン会員になると、四季ごとに、森の様子を紹介する絵ハガキが届くことになっているので、家に居ながらにして、森の風景を楽しむことができます。
 また、「アファンの森」の敷地の中には、財団が所有していない、放置された森が約7,700坪あるんですが、その森を買い取り、再生して保護する「トラスト募金」も募っています。皆さんもぜひ、ご協力ください。
会費:「アファン会員」一口 5,000円
   「賛助会員」  一口 50,000円
   「トラスト募金」一口(約1坪分) 3,000円
お問い合わせ:財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団・事務局
電話:026-254-8081
HP:http://www.afannomori.com

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