2002.11.03放送 星野智子さんのヨハネスブルク・サミット報告 ●星野さんが参加された「環境開発サミット」。始まったのは1992年なんですよね、その年はこの番組が始まった年でもあるんですけど、そうやって考えるとそれから10年経ち、今年は8月26日から9月4日までブラジルのヨハネスブルクで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」という名称で開催されたということなんですが、今回から「環境」という言葉が正式名称から抜けたんですね。 「そうなんです。92年の当時は地球環境問題に関する問題意識が高まって何かムーヴメントを起こそうという気運が高まった社会背景もありまして、それから10年が経ち色々な経済活動や環境破壊がどんどん行われて来ました。先進国がどんどん環境破壊をしていきながら「環境が大事」と言っている一方で、世界人口の8割を占めている発展途上国は「まだ開発が大事だよ、開発が無いのに森林保護もサンゴ礁もないよ」というようなことを言っている。そういう環境と開発のせめぎ合い、国連の加盟国の中でも途上国というのは多いですから、その各国の意見も大切であり、じゃ、どういう開発をしたらいいかというと、やっぱり環境に配慮した、環境に対するダメージが少ないような開発、ということになりますよね。それを、今だけいいのではなく次の世代にとってもいい開発をしていきましょう、ということで92年にも提唱されたサスティナビリティーからサスティナブルディブロップメント「持続可能な開発」というようにいわれるようになったんですよ。」 ●名称もそのようになって実際に今回は開催されました。この10年目の「環境開発サミット」の開催はそもそもどういう目的だったんですか。 「どうやって持続可能な環境に配慮した開発を進めるか、安心した暮らしが出来るか、その要素を踏まえて、もちろん環境保護、地球温暖化や、生物多様性もそうだし、いわゆる地球環境に関する、まさに欲張りな問題の集大成なわけですよね。その中でこの10年を見てみると例えばグローバリゼーション、様々な経済活動があり、それで環境破壊、戦争やテロもあって、その環境の中で「じゃあ、どうしましょうか」ということを順取り立てて話し合っていくといった会議でした。」 ●終わってみると、不満が多いというような結果と言うのが聞こえてくるんですけど・・・。 「そうですね(笑)、やっぱりマイナスの要因が多すぎますし、またビジネスの波と言いますか資金的な部分、政治の大きなパワーというようなものにはどうしても打ち勝てないというような部分もあって、そこが不満の要因、マイナスの要素として出てきたのかなあと思います。」 ●今回は、世界首脳会議と言うものの、アメリカのブッシュ大統領が欠席、国内が大変というのもありますけど、結構、批判的な意見も多いですよね。 「ええ、ブッシュ政権が生まれるときも、ゴアと対決して環境派のゴアというのは私達としても政権を取って欲しかったという思いはありますね。やっぱり開発や経済を重視しているアメリカ、温暖化でも1番CO2を出しているその国が出て来ないというのは本当に世界の調和が崩れてしまったということで大打撃だったし、逆に日本がそこで出来たことも、もっとあったのではないかなと今は思いますね。」 ●星野さんも、実際にメンバーとして現地にはずっと行かれていて、向こうでの「ヨハネスブルク・サミット提言フォーラム」の活動としては、どういったものがあったのですか。 「今回は約60の団体、人数にすると約360人が日本から行きました。もちろん、私達が全員を連れていったわけではなくて、私達も代表団としてツアーの43人と一緒に行ったのですが、主に現地ではまず、日本語でニュースレターを作りました。それは私達がNGOの会場と政府の会議の取材班で毎日取材をして、それを日本語で出していく。あと、教育や農業関係のセミナーを開いたり、政府の方達のセットアップもやりましたね。」 ●その、政府の人達がやっていることですから、後ろに国、国民や経済を背負っているわけですよね。それを考えると論争されるものが私達が望んでいるものとずれていってしまうのは仕方のない事かもしれませんが、NGOというのは色々な団体がいるじゃないですか。そういう人達が全部まとまって話し合うというのは、結構、支離滅裂になりかねないというか(笑)・・・。 「それはもう、もちろん(笑)。だからNGOの中でも、それぞれカテゴリーを分けて話し合いをしていて、それをグローバルフォーラムという言い方をしています。また、数でインパクトを与えたいときはみんなで話し合いをしますね。あと、出会いの場でもあり、ブースでの展示会というのがありますので、そこでは皆さんそれぞれの主張をしてそれで皆さんで交流していく、名刺交換から始まって話をしていきながら交流を深めていくことが出来ます。またNGOと政府がどこまで近づいて妥協していくかということでもあるんですよね、開発もしたいけど、環境も守らなければならない、誰がどのくらい折れるかという交渉の場でもあるわけです。」 ●実際の環境開発サミットでは様々な話し合いが行われ、すぐに結論が出ないものや、曖昧で終わってしまったものもあったと思うんですが、例えば、政府サイドとNGOサイドとの話し合いの中でエネルギー問題に関してはどのような感じになったのですか。 「今、リニューアブルエネジー、再生可能なエネルギーという、例えば自然エネルギー、太陽光や、風力発電とかを提唱していて、それをヨーロッパは15%、日本は10%に広げようとNGOサイドは言っているんですが、途上国ではそれを簡単には出来そうもないですよね、まだ石炭を燃やしているとかそういった環境の国も多いですから。だからここで数値目標を立てるのは、あまりにも配慮が無いんじゃないかという経緯もあったんですね。それで結論が出なかった。それよりは自分の国で出来る数値目標をたてて頑張っていこう、というような文書になったんですよ。いろいろ政治の難しさを痛感しましたね。」 ●なるほど、その日本での目標数値である10%は可能なんですか。 「試算によっては可能ですね。NGOが描く産業構造だったり、ライフスタイルなら出来るんですが、ビジネスサイドから言えばコストがかかるとか時期尚早だとかという意見が多かったみたいですね。」 ●意見が対立してNGO同士でもバトルが繰り広げられることもあるんですか。 「そうですね、でも事前に話し合いもするので、妥当な数字での話し合いが多かったですけど。」 ●その他に注目されていた点というのは・・・。 「注目している人が多かったのは市民参加のプロセス、情報公開の話、そういった所ですね。それを進めたいというのもあったんですが、そういったところもそれぞれの国の事情があって、ローカルには認めるけれど、国連全体としては言えないというのもあったみたいですね。画一的な議論、結論は出せないというのもありました。」 ●一般の"のほほん"と生活しているような(笑)私達は何から始めればいいんですか? 「まず、問題が複雑だったり難しいというのもあるんですが、関心のある所から意識してみる、例えば地球の温暖化に興味があるならCO2が出ないようなことをする、電気の使い方だとか水の使い方などもそうですし、自然保護の観点から見たら活動している人に支援をする、実際に自分が保護活動やボランティアをやってみるとか、ぜひ、全部自分が出来ると思わないで友達にも伝えるとか、小さいことからでもやっていただければと思いますね。」 ●そうやってみると日本も、もっともっと何か出来ると考えられられますよね・・・。 「日本という国は、皮肉にもなりますけど経済大国でありお金を持っていて、発言権も持っていますよ。参加国の中には途上国もありますけど、そういった大きなカテゴリーの中で見ても大きな発言権を持っているし、アメリカに強く何かを言えるのも本来は日本なんですよね、パートナーと言っているのであれば。その日本のNGOが日本の政策を変える可能性を持っているわけですから、そういう意味で日本が期待をされているという事でも、もうちょっと頑張らないといけないなと宿題として感じて帰ってきました。」 ●それじゃあ結構プレッシャーもすごかったのでは。 「はい、でも私1人でも何も変えれないので、みんなで変えていけたらいいですね。例えば日本の政府、政治や経済をみんなで見ていくとか、また自分の生活を見つめ直すというような日本の中だけでも出来ることはたくさんありますね。あと今回の1つの特徴であるのは、約束文書という呼ばれ方をしているのですが、政府が決めたことや実施する事に加えて、NGOとか民間の企業も私達はこれをやりますというのを公言すれば国連に文書として認められる参加型のサミットでもあったんです。そういう事に参加することで実際に国連や世界と何かアクションができるというケースもありますので、是非そういうのも今後はやっていかなければと思います。やっぱり、私達は人が大事なんですね。環境マインドの人達とか途上国のことを理解できる人、あるいは世界に強調できるような人作り、首相もそのようなことを言っていましたが、そのための教育をもう少し進めていこうと思っています。2005年からの10年間を「教育の10年」と位置づけて、そのムーヴメントを起こしていきたいと考えています。」 ●これからも新しい考え方などがどんどん出てくると思いますし、それらをまた番組の方でご紹介いただければと思います。 ヨハネスブルグ・サミット提言フォーラムのホーム・ページ http://www.bj.wakwak.com/~teigen/ このホーム・ページには今回の「環境開発サミット」のことや、NGOの活動のことなどが載っています。 『地球が危ない!』 幻冬舎/本体価格1,400円 星野さんが企画や執筆に関わったこの本には、この10年のデータが載っているほか、環境問題に対して私たちができることを77つ挙げてあるという、入門書にして実践本。環境問題の初心者にも、ある程度の知識がある方にも役立つ1冊なので、是非読んでみてください。 最初に戻る ON
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