2004.03.7放送 玉川大学ソーラーチャレンジ・プロジェクト ベイエフエム、ザ・フリントストーンの今週のゲストは小原宏之さんです。 東京都町田市にある玉川大学では様々な研究プロジェクトが進められています。そのひとつ「玉川ソーラーチャレンジ・プロジェクト」が開発した「ハイブリッド・ソーラーカー」が昨年12月にオーストラリア大陸横断4000キロに挑戦、見事成功。大変注目されています。今回は同プロジェクトの総監督、玉川大学・工学部・教授の小原宏之さんと、オーストラリア大陸横断のときにドライバーを務められた小菅陽一郎さんにお話をうかがいます。 ◎制限速度超過のソーラーカー ●「玉川ソーラーチャレンジ・プロジェクト」について教えていただけますか? まず、きっかけはなんだったんですか? 「玉川学園全体で環境教育の一環として太陽エネルギー、自然エネルギーの有効利用を教育に取り入れようということで始まりました。私達はソーラーカーを通してそういう活動をしていこうというプロジェクトです。化石燃料が無くなってしまうということで、次世代のエネルギーをどうするかということを、若い学生さんに考えていただきたいというのが趣旨でございます」 ●ハイブリット・ソーラーカーというのは世界で初めてのシステムだそうですね? 「はい。僕等はオーストラリアを縦断する3000キロのレースに今まで2回ほど出ております。3000キロをソーラーエネルギーだけで走ったという実績があるわけで、何故それが実際の車になっていかないのか、もっといい方法はないのかなと学生と話していたんですが、やはりソーラーカーというのは空気抵抗を少なくするために寝そべって走りますよね。まずそれが実用的じゃないということと、太陽の当たらないところや夜は走れないというのが大きな問題だったんです。で、昨年燃料電池の車が初めて市販されたわけですけど、その燃料電池と太陽電池を組みあわせれば太陽が当たらなかったりして走れないようなときでも、走れるような車ができるんじゃないかなというのが開発の最初のコンセプトです。昼間は太陽電池で走りますが夜になったらカセットボンベを差してまた走れます。そうすれば止まったときにいちいちJAFを呼んでレスキューを頼まなくてもいいんじゃないかという考えでした」 ●私達の目の前にある、オーストラリアを走った「アポロンディーヌ号」の名前の由来を教えてください。 「我々の車は太陽エネルギーと水素のエネルギーを使って走るんですけど、燃料電池は水素と酸素を組み合わせてエネルギーを得るんですけど、その時に水が出ます。ですからこの車は太陽と水という人間にとっては生命の源のようなものを素材としているので、我々はギリシャ神話の太陽神アポロと、水の妖精オンディーヌを組み合わせた新しい名前を付けました」 ●3輪で後部が駆動輪なんですね。大きさはどのくらいあるんですか? 「幅が1.5m、長さが4mあります」 ●4mもあるんですか。パッと見るともう少し小さく見えますね。 「これはシャーシ(車体部分)だけなので、上にソーラー・パネルがかぶりますとそのくらいの大きさになります」 ●時速はどのくらい出るんですか? 「昨年、オーストラリアを走ったときには最高速度116キロ出ました」 ●十分ですね。 「私は別の車で後ろからついて走っているんですけど怖いですね(笑)」 ●(笑)。それは何故ですか? 「学生が造った車がそんなスピードを出していいのかと(笑)。最高速度の制限が110キロのところでしたけど、ドライバーの学生が116キロ出してしまったんです」 ◎トレビアン・スター・ベッド ●ここからはオーストラリア大陸横断のときにドライバーを務められました、小菅陽一郎さんにも加わっていただいてお話をうかがっていきたいと思います。先程先生に伺ったんですが、ガッチリと最高速度を出してしまったそうですね? 小菅さん「はい。自分も出しました(笑)」 ●自分達が造った車でオーストラリアを実際に走ってみてどうでした?4000キロですよね? 小菅さん「4080キロくらいです。今までソーラーカーを造ってきたんですけど、今回はハイブリッド・カーということで初めての試みだったので、不安もあったんですが、実際にやってみると思っていた以上に順調で、日本と違ってオーストラリアは温度が高くて、熱に関するトラブルが結構あったんですが実際に走り終えてみたら、走行不能になるようなトラブルは自分達でなんとか乗り越えてこられたので、結果的に走り終えることができてすごく嬉しかったですね」 ●ちょうどオーストラリアでは夏にあたる季節だったみたいで、お日さまがギンギラギンだったらしいですね? 小菅さん「そうですね。雨のときよりはマシですけど、実際に外気温が40℃を越えるような感じで、日本で体感できるような熱さとは全然違ってすごく暑かったですね」 ●今回のレースは西海岸のパースから東海岸のシドニーまでだったんですが、どれくらいの期間かかったんですか? 小菅さん「全部で9日間なんですが1日だけクリスマス休暇ということで休みまして、実質8日間ですね」 ●ドライバーは小菅さん1人ですか? 小菅さん「全部で4人います。その4人のドライバーがそれぞれ、1日3人くらいが交替して運転していました」 ●その間先生は後ろから見ていて「ここは改善の余地あるな」とか思ったことはありましたか? 小原先生「99年に初めてソーラーカーを造ったときに比べたら安定してきましたが、燃料電池のハイブリッド・カーとしてはまだまだ成長させないといけない点がございます。後ろから見ていての走行安定性はかなり改善されていますので、問題はそれほどないんですが、エネルギーの効率に関しては改善点がございます」 ●この長い日程の間の宿泊はテントだったんですか? 小菅さん「そうですね。メインはテントです」 ●テント生活はどうでしたか? 小菅さん「野宿がメインだったので、大自然の大きさを感じることができました。普通のオーストラリア旅行では体験できないような、とてもワイルドな旅行になりましたね」 小原先生「晴れている日はテントに寝ないんです。地べたにマットレスを敷いてその上に寝袋で寝るんですけど、上を見ますと素晴らしい星の下で寝られますので『トレビアン・スター・ベッド』と言っていましたね」 ●素晴らしいですねー! ソーラーカーを運転することによって資源の大切さを感じざるを得ないですね。 小菅さん「そうですね。資源の大切さもそうなんですけど、これから先石油が無くなってしまうということなので、それに変わるようなエネルギーをどうやって開発したらいいかというほうに重点をおいて研究しています」 ◎実用的なソーラーカーを造るには? ●今後のことをうかがいたいんですが、このアポロンディーヌ号のようなソーラーカーが実用車として町を走るまでの1番の問題点はなんですか? 小原先生「僕等は、ソーラーカーは陽の当たらないところは走れないというのを解決するために燃料電池と組み合わせたハイブリッド・ソーラーカーを提案したわけなんですけど、これを実際の通勤に使える車になるように発展させたいと考えております。一番問題なのは日本では車検をとるのが難しいということですね。オーストラリアのように実験であれば簡単に車検を受けさせてくれるようなシステムであれば、僕等ももっと実用的なものの開発が進むと思うんですけどね」 ●実用的になったとしても当分は1人乗りが中心になりそうですか? 小原先生「今僕等は4人乗りの車を考えております。今は3輪ですけど4輪にして4人乗せようと思っています。この車は後ろの1輪にだけモーターがついておりますが、我々は4輪駆動のハイブリッド通勤車を考えております」 ●それはいつ頃に完成しそうですか? 小原先生「スポンサーが現れればすぐにでも取り掛かりたいと思っております(笑)」 ●(笑)。小菅さんは学生さんなんですよね。何年生なんですか? 小菅さん「今、大学院の2年です」 ●じゃあ、もうすぐ卒業ですね。 小菅さん「そうです。今年の3月に卒業です」 ●このあとの就職先は決まっているんですか? 小菅さん「一応、決定しています」 ●やっぱり車関係の企業なんですか? 小菅さん「そうですね。自動車系の会社です」 ●先生、今後もこういった生徒さん達が色々な企業に入って、近未来型の研究・開発をしていってもらいたいですね。 小原先生「そうですね。水素を燃料とした燃料電池を積んで走るわけですが、水素を作る技術がまだまだなんです。我々のプロジェクトでは工学部だけではなくて、農学部の学生も入っております。次はバイオを使って水素を作る研究に進んでいきたいと考えております」 これから「玉川ソーラーチャレンジ・プロジェクト」は実用的な車の開発に向けて進んでいくということですね。小菅さんも就職されても環境に優しい車の開発に携わってくださいね。
◎てるてる坊主 実際にアポロンディーヌ号の走るところを見させていただきたいと思います。 今、私の前にアポロンディーヌ号があって、徐々に準備がされているんですが、一番前のところにカワイイてるてる坊主が吊るしてあります。先生、やっぱり太陽が大切なのでてるてる坊主が必要ですよね? 小原先生「そうなんですよ。実はシドニーからパースまで逆走して下見をしたんですよ。その時は非常にいい天気でそんなに暑くもなくて、太陽がさんさんと降り注いでいたので『これは4000キロ簡単に走れるな』と思っていたんですよ。ところがパースをスタートした日から2日間は全く太陽が出なかったんです。水素の燃料電池だけで2日間走ったので、その時は水素が足らなくなるんじゃないかなと心配になりました。それで毎日お祈りをしたら、3日目から少しづつ晴れてきて4日目、5日目はガンガン照りでしたね。それで今度暑くなりすぎちゃってトラブルが起きたんですけどね(笑)」
アポロンディーヌ号は可能なかぎり風の抵抗を受けないようにするため、外観的には平べったい作りで、運転席だけがポコッと頭ひとつ分だけ出た感じになっています。 そんなドライバー・シートは長時間の運転でも快適さを保つ為に、メッシュで出来たハンモックのようになっていて乗り心地は抜群。 ただ、風の抵抗を少なくする為にコックピット内、ちょうど頬骨のすぐそばにサイドミラーが設置されていたり、ハンドルが両手のレバー式になっていたりと運転するのが難しそうなんですが、小菅さん曰く、慣れれば全然難しくないということです。 そんなアポロンディーヌ号を眺めているうちに、私達はコックピットの上に開いた小さな穴を発見したんですが、実はこの穴、とても重要な役割を担っていたんです。 小原先生「ここに穴が開いているのが見えますか?」 ●はい。コックピットの頭のテッペンに開いています。 小原先生「それは万が一、水素が漏れたときに水素は軽いから上に上がるので、ここから抜けるようにしてあります。あと、車の先端に空気を取り込む口があります。走っているときは前から風が入りますので、風は中を通りまして後ろの口から風が抜けるようになっております。要は水素が淀まないようになっているんです。 水素は危険だということで最初はみんなに反対されたんですけど、安全に安全を考えて色々と工夫をして、最終的に水素が淀まないようにしてあります」 さあ、準備ができたら未来へと出発させていただきたいと思います。
いよいよ出発ということで先生がトランシーバーを持ち、ライトがつけられました。あっ、走り出しました。 (ここでスムーズにモーターの音をたてながらアポロンディーヌ号が走り出す) いってらっしゃーい!すごく静かです。先生、音ってあんなものなんですか? 小原先生「そうです。モーターの音ですね」 (ここでアポロンディーヌ号がバックをして戻ってくる) あっ、バックもちゃんとできるんですね!そりゃそうですよね。一般道を走るわけですからね。陸に上がったモーターボートのようなシルエットです。でも地面からの距離はカヤックに乗って水面を走るのと同じくらい、道から上半身分くらいしか高さがないです。 先生、バックってどうやって操作するんですか? 小原先生「スイッチで切り替えます。ちょっとバックのスイッチを説明して」 小菅さん「バックはここのスイッチで切り替えます」 (と、運転席の操作盤のスイッチを指さす小菅さん) ●この小さいレバーですね。 小菅さん「このレバーで電気的にやっているので、ここをポチッと押すとモーターが逆回転をしてバックができるんです」 小原先生「ここにディスプレイがあって、カラー・ディスプレイになっています」 ●何回乗っても乗り心地はいい感じですか? 小菅さん「そうですね。長時間乗っているとお尻とか痛くなりますけど、前に造っていたソーラーカーに比べるとかなり乗り心地がいいですね」 というわけで、実際に見たのは初めてだったんですけどちょっと感動です。今週は「玉川ソーラーチャレンジ・プロジェクト」の総監督、玉川大学工学部教授の小原宏之さん、そしてオーストラリア大陸横断のときにドライバーを務められた小菅陽一郎さんにお話をうかがい、実際にアポロンディーヌ号を走らせていただきました。今日はどうもありがとうございました。
玉川大学工学部教授の小原宏之さんが総監督を務める「玉川ソーラーチャレンジ・プロジェクト(TSCP)」のメンバーたちは、自らが開発し、昨年オーストラリア大陸横断4000キロを見事走り抜いた世界初のハイブリッド・ソーラーカー「アポロンディーヌ号」で5月にはアテネ・オリンピックの関連イベントとしてギリシャで開催されるレースにエキジビションで出場する予定。 そんなTSCPのホームページには「アポロンディーヌ号」の紹介やプロジェクトの歴史などの他「オーストラリア大陸・横断4000キロ」の模様などが写真とともに詳しく載っているので、ぜひご覧ください。 HP:http://tscp.tamagawa.jp/shc/index.htm 最初に戻る ON AIR曲目へ ゲストトークのリストへ ザ・フリントストーンのホームへ photos Copyright (C) 1992-2004 Kenji Kurihara All Rights Reserved. |