2007年4月8日
龍村仁監督に聞く「地球交響曲/ガイアシンフォニー第六番」今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは龍村仁さんです。
この番組ではすっかりお馴染みとなった龍村仁監督のドキュメンタリー映画『地球交響曲/ガイアシンフォニー』。
ホクレア号航海2007基金を立ち上げました●大変ご無沙汰しています。 「本当、ご無沙汰ですね」 ●『ガイアシンフォニー』といえば、『第三番』に出演なさった星の航海士、ナイノア・トンプソンさんがホクレア号とともに、ついに日本にやってきますね。 「ナイノアとの縁っていうのは、こういう言い方をすると誤解されるかもしれないけど、一種、運命の出会いみたいなところがあるんですね。『第三番』に出たときに、星野道夫が亡くなって、まさか星野の親友であるクリンギット・インディアンのクマの一族と、ナイノアが繋がっているなんて、想像もしないじゃないですか。ところが、追悼の映画を撮りながらクマの一族に出会ったときに、突然何の前触れもなくナイノアのテープを渡されて、『なぜ星野の友人のアラスカのクマの一族が、ナイノアのテープを俺に渡すんだろう?』っていうところから始まったわけですね。ですから、それは大きな意味で言うと、多分、5000年から8000年くらい前に太平洋を環流するカヌーに乗って色々な人達が行き来をして、当然のようにミクロネシアの辺りから日本にやってきた人達がいて、またその人達がアリューシャン列島経由でアラスカに行って、そこから南へ下って、ハワイに行ってということもあったろうと思うので、こういう途切れていた輪が星野で始まって、遂にナイノアによって南から上がってきて、また戻っていくっていう感じなんだよね。それがようやく実現するということなんですね」 ●本当に長かったっていう感じがするんですけど、予定では4月後半に沖縄に入ってきて、横浜に到着するのが大体6月くらいになるだろうということで、沖縄に入ってくるのがまさに『ガイアシンフォニー』の『第六番』がロードショー公開される時期っていうのもガイアの繋がりって感じがしてしまうんですけど(笑)、今回のナイノアさんたちの「ホクレア号航海プロジェクト」に関して、龍村さんは基金を立ち上げられたそうですね? 「うん。ナイノアの思いというのは皆様わかっていらっしゃると思いますけど、今、申し上げたように太平洋一周。なおかつナイノアに、海との付き合い方を最初に教えたのが日系二世のハワイの方達だったんですね。そのお礼もあってくるわけなんですけど、このプロジェクトの中で日本に着くと現実的なイベントとか、クルーの宿泊とか色々なことでお金が要るんですね。そういう意味でいうと予算のない状態で来ているところもあるみたいで、ハワイ州観光局の事務局の方たちと話をして、一番必要なのはナイノアたちが日本へ着いてから色々とイベントに出たり、移動したり宿泊したりという部分でサポートをするのが、僕らがお役に立てることかなと思って、ホクレア基金というのを立ち上げて、みなさんに参加を呼びかけているということです」 ●ガイア・ファミリーとしては是非、リスナーのみなさんにも協力していただきたいと思うんですが、『ガイアシンフォニー』のホームページにも詳しく載っているので、そちらもご覧になっていただきたいと思います。また、6月に横浜にナイノアさんが来る頃には龍村さんもちょっとは楽になっているでしょうから、そのときにはフリントストーンもマイクを持って追いかけていきたいと思います。 「横浜が最後っていうのも、めぐり合わせだよね。沖縄から熊本、瀬戸内海を経て来るわけですけど、横浜が最後っていうことは、やっぱり何かあるなぁと思っていまして、横浜のファイナル・イベントが色々と考えられているようですけど、とても重要な時だと思うので僕も参加したいと思います」 自分以外の存在が出す音にも耳を傾けるべき●『第六番』のテーマが「全ての存在は響き合っている」、「音を観て、光を聴く旅」それが『第六番』。
「ちょっと哲学的に聞こえるかもしれないけど、ガイア理論っていうのが、全ての存在は植物も動物も虫も岩も風も水も全部が繋がって、1つの大きな生命システムとして働いている、人間もその一部だっていうのが、ガイア理論じゃないですか。だけど、繋がっているのは言葉としては分かったけど、どういう風にして繋がっているのかっていったときに、科学的な理論で一生懸命言ってもなかなか難しいけど、一番分かりやすいのは原子のようなミクロな世界から、バクテリアみたいなもの、虫や動物、人間も木も風も水も全部、この世の存在は全て、それぞれ自分の音楽、独自の音楽を奏でている。聞こえるか聞こえないかは別にしてね。これは振動波といってもいいし、波動といってもいい。その振動波と振動波同士があって、そこでどういうハーモニーを作ればいいかっていう形で、新たなハーモニーを作って、それがどんどん多種多様になって大きくなってガイアがある。だから、全ての存在は音楽を奏でているんだと考えてみると、ガイアのシステムが非常に分かりやすいわけ。『地球交響曲』っていうのもそういう思いだったわけですね。音楽の交響曲と同じように全てのものが独自の音を出しながら、共に奏でて調和を取っている。
●今回、出演者が音楽家と呼ばれる方たちが多いんですが、出演者自体、結構多いですよね。 「これまでの『ガイア』の出演者のくくりで考えると3人なんです。THE BEATLESも傾倒した、インドのシタールの名人ラヴィ・シャンカールと、その娘のアヌーシュカ・シャンカール、それから、ケリー・ヨストというピアニストで、この人は無名なんですけど、実は『ガイア』とは深いご縁があった方なんですね。それから、ロジャー・ペインという方で、アメリカの科学者なんですが、クジラの歌を70年代から研究している方で、この方がクジラの歌について語ってくれる。この3人がメインの出演者なんですね。ところがロジャーと一緒にポール・ウィンターが親友なもので出てくるし(笑)、それ以外に『虚空の音』と称して、日本のアーティスト、音の求道者っていうタイプの方達にも出ていただいています。有名ではないけど、色々な不思議な音に触発されて、その音だけを追及しているような4人のアーティストが日本の聖地のようなところで、それぞれの音を演奏するというシークエンスがありますから、そうやって勘定すると、7人とかになっちゃう(笑)。3人という言い方もできるし、7人、8人という言い方もできるわけですね」 ●まず、「この方が出ちゃったか!」って思ったのがラヴィ・シャンカールさん(笑)、そして、娘さんのアヌーシュカ・シャンカールは『第六番』のテーマ曲を担当されたそうですね。 「そうです。オープニングの曲がアヌーシュカの『NAKED』っていう曲なんですけど、もちろん音というのをテーマにしたときに、インドの『ナーダ・ブラフマー』(音は神なり、宇宙の根源に音がある)という考えがあるから、当然、ラヴィ・シャンカールという人の名前が挙がるのは分かると思うんですが、実を言うと40年近く前に、ラヴィ・シャンカールがまだ有名になっていないとき、すなわち、THE BEATLESなんかがまだ傾倒する前ですよ。ラヴィ・シャンカールが日本に初めて来たときに、私、京都を案内しているんですよ」 ●えっ!? 2人の人生は繋がっていたということなんですね。 「40年くらいのブランクのあと、こういう出会いをして出ていただいたっていう感じですよね。ラヴィ・シャンカールは知る人ぞ知る、世界的な人ですけど、僕はアヌーシュカに出会えたことが素晴らしかったと思うんですね。それは、インドの2000年くらいの叡智で、ラヴィ・シャンカールみたいに、先生に身も心も捧げて、身の回りの世話までして修行して初めて受け継げるようなインド音楽の世界を、26歳でアメリカで育ったアヌーシュカが、お父さんとの関係だったから、二千数百年の叡智をものすごく素直に受け止めながら、同時に21世紀の音楽的感性を混ぜて作っている、あの音楽性というのは素晴らしかったと思いますので、アヌーシュカの音楽を聴いてくれるだけでもいいなと思いますね」 人間の音楽とクジラの歌は構造が同じ●『第六番』の主な出演者の2人目、アイダホ州出身のピアニスト、ケリー・ヨストさんについてもちょっとした縁があったそうですね。 「1996年くらいにロサンゼルスに行ったときに、小さなエコグッズのお店の片隅に彼女の『ピアノ・リフレクション』というCDが置いてあって、それが『ピアノ・リフレクション』というタイトルに『何かあるな』っていう感覚を覚えたんですね。で、聴いてみたら素晴らしくて、よく知っているクラシックの曲なんですけど、『こういう弾き方をする人って聴いたことないな』っていうような感じだったんです。ところが、ケリー・ヨストのプロフィールも写真も何も出ていないわけ。ただ、音楽の紹介だけ。それで、また『この人、絶対何かある』って思ったっていうのもある。何より、この曲を持って帰って、私の上の子がまだ2歳くらいの頃で、お母さんがディレクターをやっていて海外に行ってしまうから、俺が面倒を見なくちゃいけないときがあったのね。で、自分1人で寝かせなきゃいけない夜、僕はケリーの曲を頭からかけ始めるわけね。そうすると、7曲目にバッハの『プレリュード』があるんですけど、この7曲目には完全にチビが寝ているっていうね。そういうようなことがあって、すごくお世話になっていたわけ!(笑)」 ●息子さんにとっては子守唄なんですね(笑)。 「それで、『第四番』のときに初めて、『ガイア』の中のジェーン・グドール編で使わせてもらったので、許可を取るために彼女にコンタクトを取って、そこからやり取りの関係はできていたけど、まだ会ったことなくて、『第五番』の試写会の頃に、たまたまケリーからクリスマス・カードがきて、『日本にたまたま行くことになったので、会いたい』って書いてあったの。で、ちょうどその時期、僕が紀州の紀伊半島の聖地を巡る予定だったわけ。で、『会えないな』って思っていたんだけど、思い切って『そういうところに僕、行くんだけど、一緒に行きますか?』って聞いたら、『行く』って言ったの。それで、出演とかなにもない以前に、会った次の日に今回、映画の中に出て来る神蔵神社とか那智大社とか、そういう聖地をケリー・ヨストと一緒にまわったんですよ。それで、そのときに色々な告白があって、『もうこれは絶対ケリーが今回の1人の出演者だ』って思って今回出ることになったの。僕、この人大好きです。素敵な人です」 ●そしてもうひとかた、海洋生物学者のロジャー・ペインさん。この方は惑星探査機ボイジャーにクジラの歌声を乗せて宇宙に送り出して、それが「スタートレック」なんかでも取り上げられた宇宙人とクジラの関係っていうのも、元にこの人がいるんだなぁって、私的には繋がったりしたんですけど(笑)。 「(笑)。もともと海洋生物学者ですから、地球の海の環境問題とか、クジラの生態とかを研究する人なんですけど、お母さんが音楽家というのもあって、小さなときからチェロをやっていたんですよ。で、音で世界を見る動物がいるんですよ。この辺で、『音で世界を見て、光で世界を聞く』っていうところに繋がってくるんだけど、実は実際に音で世界を見ている動物っているわけね。彼はそういうのに興味を持っているの。すなわち、陸だったらフクロウだとかコウモリ、海だったら圧倒的にクジラなわけですよ。クジラは完全に音で世界を見ているんですよ。で、その音に初めて触れて、彼はメチャクチャ心を動かされて、科学者なんだけど、結局クジラの声の美しいものを録音するということを一生懸命やっているうちに、ザトウクジラが歌っている歌は15分くらい1頭が歌うんだけど、この作曲の構造が人間のソナタ形式(テーマのある旋律を少しずつ変化させながら、また元に戻ってと繰り返す楽曲の形式)と全く同じ構造で、クジラが15分歌うっていうことも発見して、科学的に単に分析するだけじゃなくて、どうしてもそのクジラの声を人間と分かち合いたいと思って、水深400メートルくらいのところに水中マイクを仕込んだのね。すると、ほかの音に全然妨げられないで、クジラの歌声が録音できるわけです。そういうものを録音して、それを当時のナショナル・ジオグラフィックか何かの企画で録ったから千何百万枚くらい出たんですよね。それと同じものをボイジャーが宇宙に向かって旅立つときに、黄金のレコードの中にカール・セーガンとかと一緒になって、乗せたんです。彼はそういう人なんですよ。人間の音楽をする心と、クジラが深海で15分も歌い続ける心と本当に深いところで繋がっているんでしょうね。どうしても、人間って『あれはメスを呼びたいためにやっているんだ』とか、すぐそれだけの理屈で分析したがりますけど、聴いていれば分かりますよ。すごく不思議な感動をさせられますよ。耳で聴いた感じでは人間の音楽とは違うけど、同じルーツを持って人間は音楽と呼ばれるものを作り、クジラも同じルーツから生まれて、今、彼らが歌っているような歌を歌っているんだなって思いますね。そうすると、その繋がりが理屈で繋がるんじゃなくて、内なる感性で『あー、共にあるな』っていう感情を持てるっていうのは素敵なことだと思うしね。『ガイア』の『第六番』はできれば見てくれて、理屈は考えなくていいですから、そういう気になってもらいたいですね」 楽器は次元を超えたものと繋がるための道具●豪華な出演者の間を繋いでいるのが、「虚空の音」と呼ばれる耳には聴こえない音楽を表現するために出演された、スピリット・キャッチャーといわれる弓の奏者、奈良裕之(なら・ゆうじ)さん、ディジュリドゥの奏者、KNOB(ノブ)さん、笛を奏でる雲龍(うんりゅう)さん、岩や石を叩いて音を出す打楽器奏者の長屋和哉(ながや・かずや)さんという4人の方達が間を繋いでいっているという構成でできている『第六番』なんですけど、考えてみると、私たちは音って音楽をメインにしますけど、話しているのも1つの音で、日本語で話していると意味が分かるので言葉として受け止めますけど、よく「フランス語の会話はまるで音楽を聴いているようだ」っていわれるように(笑)、クジラの歌声っていうのも、私達人間からすれば音楽にしか聴こえない、でも、クジラから聴けば人間の言葉も音楽に聞こえているのかもしれないなって思ったんです。 「そうですね。『虚空の音』の出演者達っていうのも、生まれ出ずるところくらいの音ですよ。メロディーやリズムがあって、だんだん変化していく前の音そのものが、すでに何かあるというね。スピリット・キャッチャーの弓、もともと弓ってなぜ作ったのっていったら、動物を簡単に遠くから殺したかったからですね。要するに、手で殺すよりは弓で射たほうが殺せる。だから、生きるために他の命をいただくための手段としての道具だったわけだけど、それが単なる道具としての効率だけ求めていけば、どんどん進歩して、ついに銃になり、ミサイルになり、原子爆弾になるという世界なんだけど、あれは、あの素朴な弓で動物の命をいただくときに、『命を分けてください』という、動物自身の魂に問いかける一種の道具みたいなものなので、ひょっとすると単なる殺す道具じゃなくて、同時にスピリチュアルな交信を、命をいただくものと自分でするための何かだと思っていたと思うのね。で、それが例えば、ある日、風にパッとささげたときに急にひとりでにブーッてうなり始めたと。で、このうなり始める音の中に、動物からの魂の伝言があるように感じるというかね。そうすると、『今からあなたの命をいただきたい。許してください』みたいなこととか、いただいたあとだったら『ありがとう』とか、そういう感覚がある。だから、道具であると同時に、次元を越えたものと繋がる音の道具だったと思うのね。だから、楽器っていうのはもともとが、自分をはるかに越えた繋がりに心が開いていくためのメディアとして生まれたと思うんですね。今回の楽器はそういう楽器ばかりなのよ。だから、音楽といっていいのか分からないんだけど、聴いていただくと、それなりに色々なことを感じるんじゃないかなって思います」 ●音のあとの響きを感じ取っていただきたい映画だなって思ったんですけど、とにかく、是非見ていただきたいと思うので、4月28日からロードショー公開されますので、足を運んでいただきたいと思います。私ももう一度見させていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。 ■このほかの龍村仁さんのインタビューもご覧ください。
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■「龍村仁」監督情報
『地球交響曲/ガイアシンフォニー第六番』ロードショー公開!
『地球交響曲/ガイアシンフォニー』DVD 5巻セット(通常版)
『ホクレア号航海2007基金』
いずれも詳しくは「龍村仁」監督の公式ホームページをご覧ください。
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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. ON MY WAY HOME / ENYA
M2. THERE IS A SHIP / 白鳥英美子
M3. NAKED / ANOUSHKA SHANKAR
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. NA PE'A O HOKULE'A / ALDEN LEVI
M5. GEORGE AND GRACIE / PAUL WINTER
M6. GARDEN OF THE EARTH / PAUL WINTER
M7. バッハ・プレリュード第一番ハ長調 / KELLY YOST
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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