みんなの想いが束になって、海を渡る
〜「葦船 太平洋 航海プロジェクト」〜
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、探検家で葦船航海士・石川仁(いしかわ・じん)さんです。
石川さんは1967年生まれ。20歳から世界の辺境で冒険的な旅に挑戦する中、南米の湖「チチカカ湖」で葦船(あしぶね)に出会い、さらに、スペイン人の冒険家と運命的な出会いを果たします。
その冒険家が進める、国連の公式なプロジェクトにクルーとして参加、大型の葦船で太平洋や大西洋を、のべ1万3千キロも航海。帰国後は、日本の葦船文化を復興させるために「葦船学校」を始めるなど、葦船から学んだことを伝える活動をされています。
そして、石川さんは現在、サンフランシスコからハワイまで、およそ4000キロの大航海にチャレンジする「葦船 太平洋 航海プロジェクト」を進めています。果たして、葦を束ねた船で何千キロも航海できるのでしょうか!? 今回は、そのプロジェクトの全貌に迫ります!
葦船自体が生態系!?
※そもそも葦船とは一体、どんな船なのでしょうか。
「葦船はですね、ちょっとラジオだから想像しにくいと思うんですけども、簡単に言うと“浮力のある草を束ねた船”なんですね。
“葦船”と僕らは言うんですけども、実はアフリカで作っている船はパピルスという植物で作ってるし、日本だと葦だし、東南アジアだと竹だし、北米や南米だと藺草(いぐさ)の仲間で、そういう草を束ねて作っているんですよね。
だから、葦船は総称であって、草の束ね船のことを葦船と僕らは言っていますね」
(*葦はイネ科の多年草で、高さは2〜3メートルにもなり、沼や川の岸に大群落を作る特徴がある)
●草で束ねるって、沈まないのかな? って思っちゃうんですけど……。
「そうですよね。ただ、1本1本に浮力があるので、大きな束、例えば直径1メートルぐらいの束を2つ並べると、それだけで十分、人間が乗れる浮力がある船になるんですよね」
●へぇ〜!! 葦船の大きさはどれくらいなんですか?
「大きさは大体5メートルから6メートルぐらいが一般的で、湖だとか、川とか、あと海岸線で、魚を獲るために使ったり、移動したりするために使っているのが一般的ですね。
僕らが作ってる船というのはもうちょっと大きくて、大きいものですと20メートルぐらいの長さなんですよね。ちょっと想像するの難しいかもしれないですけど」
●それで、草なんですもんね!
「そうなんです。3千束とか、4千束を使って作るんですよ」
●へぇー! 漕いで進むんですか? どうやって進むんです?
「さすがに大きさが20メートルだと、本当に巨大な船なので、風と海流に乗って旅をするのが僕らの、長距離を行く外洋型の葦船というふうになります」
●でも、草ですよね!?
「草なんですよ〜(笑)」
●なんかこう、風が吹いたらフラ〜っと流れちゃうようなイメージもあるんですけど……。
「そうですね(笑)。藺草の仲間を使っていたんですけども、水を含むと少し膨張するんです。膨らむと逆に、下の濡れたところがパンパンになって、隣同士がくっついて水が入りにくくなるんですね。
だから、濡れて膨張することで防水性が高くなるという船なので、大体3ヶ月から4ヶ月くらいはもつんですよ。長いときは1年くらいもちますけどね。
この船の下って、結構フジツボとか、イソギンチャクとかがいっぱい生えてくるんですよ。この船自体が、もう栄養の塊みたいな!」
●葦船自体に?
「そう、いっぱいくっついてくるんですよ。喫水(きっすい)って言うのかな、(船と)水の当たるところに海藻がいっぱい生えてきて。アオサってあるじゃないですか、青のりみたいな。ああいうのもバーっと生えてくるんですよね。だから、そこの下に小さな魚たちもいっぱい寄ってきて、それで船を食べ始めるんですね、船が腐ってくるから(笑)。だから、この船ってエサなんですよね!」
●なるほど、すごいですね(笑)!
「そうなんですよ! で、その小さい魚を食べるように、もうちょっと大きな魚が来て……。だからマグロとか、あとシイラとかっていう回遊魚とかが、入れ食いで食べられる。だから、船のまわりに魚がいっぱいいます」
船でタイムスリップ!?
※それでは、石川さんが現在、進めている壮大な「葦船 太平洋 航海プロジェクト」についてうかがっていきましょう!
「これはですね、僕らがアメリカの西海岸で18メートルの葦船を作って、そこから約4千キロ離れているんですけども、ハワイ諸島まで航海をして渡っていこうというプロジェクトなんです」
●4千キロって……。
「長いですよね〜! ずっとその間、島がないので海の上を漂って……」
●どうしてやろうと思ったんですか?
「このプロジェクト以前に、南米からポリネシアですとか、大西洋横断とか、スペインから大西洋上の島までとか、1万3千キロくらい航海をしてるんですよね。
その航海を通して、葦船の魅力に自分が魅せられて、自分でも今度やってみたいと思って、日本で自分で製作をして、航海もしたんです。
そして、いよいよ誰も手をつけていないアメリカからポリネシアまで、北太平洋の航海をぜひ挑戦してみようと思って、プロジェクトを立ち上げたんですね」
●不安はないですか?
「不安は……なくはないかな?(笑)」
●壮大なプロジェクト過ぎて、すごいことだなって思うんですけど!
「そうですね。普通のヨットの航海でも、もちろん大変な航海なんですけども、僕らの航海っていうのは、航海術というか、航海方法っていうのも昔ながらですしね」
●例えばどういう?
「今でいうと、GPSとかコンパスというものを使うんですけども、僕らは星を見ながら方向をたどって、あと星だけじゃなくって海のうねりの方向とか、曇ってる時は星が見えないので、そういう時はうねりを使ったりとか……。
あと、鳥が朝飛んで来たら、飛んで来た方向に島があるということだし、鳥が夕方飛ぶ方向には島があるということで、島に近づいてくるといろんなお知らせがあるんですね。それに従って行って、あと島の上に雲がだんだん晴れた日にぽっかり浮かび始めますんで、そういう雲を目指して航海をするという、自然を使った昔ながらの航海術をやりたいと思っています」
●そうやって進んでいくんですね! こういった航海は何度も経験されているんですか?
「そうですね。今まで、長距離だと7回ぐらいはやってますね」
●でも毎回、“もう一度やりたいな”って思うのは、それほど魅力があるってことですよね?
「あのね! 一番の魅力は、この船に乗っていると、この船の上が5千年前なのか、21世紀なのか、違いが分からなくなるような感じなんです。
生活自体も、魚を釣りながら、雨水を飲みながら、あと船の下に潜って海藻とか貝を採って味噌汁を作ったりとかするんですけど、だから自給自足みたいな感じなんですよね。船自体も、数千年前の船を復元してますし、釘ももちろん1本も使ってないんですね。
だから、その上で生活をしてると、だんだん自分たちが古代に戻ってしまって、タイムマシンでタイムスリップしてるようで、僕らはだんだん昔の人と同じように、星とか風とか海とか魚たちとか、そういう自然とつながるような感覚で旅をし始めるんですよね。
その、昔に返って時間を過ごすということが、僕にとっては本当に魅力的で、特に自然とつながっているという感じが、実感としてあるんですよね!」
●ここまで自然と向き合える時間ってないですもんね!
「そうですよね! それこそ、タイムマシンに乗って太古の感覚というのを自分の中で取り戻すような、そんな美しい知恵なんですよね、この葦船の航海というのは!」
<葦船の神話、歴史>
人類の歴史上、最古の船とされている葦船は、世界各地の神話や伝説の中にも登場します。
アメリカ西海岸の先住民ホピ族の祖先は、葦船に乗って行き来し、アンデス・インカの初代の王は葦船に乗り、チチカカ湖に降り立ったと伝えられています。
日本では「イザナギノミコト」と「イザナミノミコト」との間に生まれた最初の神様が、葦船に乗せられて海に流された、と古事記に記されているそうです。
島根県の出雲大社(いずもたいしゃ)では、6年ほど前に葦船を海に浮かべ、神事を行なっています。また、葦船が神輿(みこし)になっている神社もあるそうで、神事に葦船を使う伝統は日本各地に残っているとのことです。
葦船で魚を獲る漁(りょう)も行なわれていた、という話もあり、葦は屋根や敷物の材料以外でも、私たちの暮らしの中に受け継がれてきた歴史があるんですね。
夢が現実になっていく……!
※「葦船 太平洋 航海プロジェクト」は、この1月からサンフランシスコでテスト航海用の葦船作りに取り掛かります。一体、何人くらいで作るのでしょうか。
「僕と、あと葦船職人の南米ボリビア人に来ていただいて、その2人を中心に地元のネイティブアメリカンの人たちと、シリコンバレーのITをされている仲間たちと、あとはアメリカのヨットマンの人たちと一緒に船を作る感じになると思います」
●職人さんですね!
「職人さんは2人だけで、それ以外は始めての人たちが参加して、みんなで作るということですね」
●2021年の本番のプロジェクトの前にテスト航海をするっていう、これにはどんな意味があるんですか?
「これはですね、今回作る葦船のスタイルっていうのは、今まで作っていた南米のスタイルとは違って、ネイティブアメリカンの人たちが作っていた葦船のスタイルを取り入れているので、全く違うデザインなんですよね」
●見た目が違うっていうことですか?
「そうなんです(笑)。簡単にいうと、南米のほうは大きな束が2つくっついている感じなんですけども、今回作るのは3つなんですよね。それにより安定性がいいのと、3つのうち真ん中だけ大きめな束なので、真ん中だけ膨らんでいる船なんですよね。だから、直進性が出るというか……。
とにかく、新しいデザインなので、どこの位置にマストを立てるのがいいのか、1メートル前なのか後ろなのかでも全然違うので、そのバランスをとることと、あとは舵の大きさをどのくらいにしようかっていうのを、実験である程度データ化したいんですよね。
“この船だったら太平洋を渡れるね!”っていうものが出来上がったら、じゃあこれと同じものを大きくして、次の年に作ろう、というふうになっています」
●人手も資金も必要かなって思うんですけれども、なかなか大変ですよね。
「そうですね。まぁ大変だけど、やっぱりやりがいはあるし、夢に描いていたことがちょっとずつなんですけれど、現実に近づいていくっていうのがね、本当にグッと来ますね」
みんなの想いが束になった船
※最後に、2021年にチャレンジする、サンフランシスコからハワイまでのおよそ4000キロの大航海にどんな想いを抱いているのかをうかがいました。
「もうずっと夢には描いているので、今はどっちかというと準備のほうで資金を集めたりとか、協賛していただける会社に行ったりとか、あとはクラウドファンディングをやっていたんですけれど、そこで一人ひとりの想いというのを募って、それで船を作るという、準備の段階がもう、非常に感動的でね! 船で航海するだけじゃなくて、みなさんの想いを集めるということ、それ自体が本当にね……。
みんな“頑張ってね!”とか、子供たちがお小遣いを出して、“僕も船のオーナーになる!”って言ってくれたりとか(笑)! あと、何年も前からの友達がまた繋がったり……。
だから、1本1本の草が束なって船が出来るのが葦船なんですけど、プロジェクト自体も一人ひとりの想いが束になって船になるような……。そういう準備の段階が今、非常に感動をもって出来ているので、“あぁ、こうやって船って出来ていくんだな”っていうのをね、僕自身の意思だけじゃなくて、みんなの想いがひとつの船になるような……。そこに感動していますね」
●すごくいろんな人の夢が詰まった船ですね! この一大プロジェクトを通して、伝えたいものって何ですか?
「やっぱり、何度も言っているんですけど、僕らが一番大事にしていく自然との向き合い方っていうのを、改めて感じてもらえればと思いますね。
この航海自体が、本当に現代の航海機器を使わずに、風や海流とか、人間がコントロールするというよりも、自然に身を委ねて、そして一緒になって自然と共に運ばれていくというか、一緒に航海をするという、美しい、本当に芸術のような航海だと思うんです。
そういうのを見て、それぞれの人が、その中から自然と繋がる美しさを感じてもらえれば、そしてそれを持ち帰って、自分の生活の中で、“自分だったらこういうことが出来るな!”とか、“こういう感じ方が出来るんじゃないか?”など思いながら家の外に出て、そして自然と繋がってもらえれば……という想いがあります」
●一歩ずつ夢に近づいているということですが、改めて、夢って何ですか?
「夢というのは、“遠くにあっていつも憧れるもの”ではなくて、“実際に、具体的に動いて、叶えるもの”っていうのかな。自分の手の上に乗せるものだと思いますね」
●今、現在の石川さんの夢というのは、どういうものですか?
「僕の夢は、旅することと、そこで学ぶこと、そして最後に、その学んだものをみんなに伝えるというのがセットになっていると思いますので、この航海を通じてみなさんに伝えることが出来るのが、僕の夢だと思います」
☆この他の石川仁さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
石川さんはこの1月から2月かけて、サンフランシスコ湾でのテスト航海に向けて葦船を作り、2月下旬に進水式、5月ごろまでテストやデモンストレーションを行なう予定となっています。
また、2021年の本番の航海に向けて、さらなる準備が必要になってくるので、ぜひ支援をお願いします! この番組では、石川さんの活動に今後も追っていきます!!
「葦船 太平洋 航海プロジェクト」の近況など、詳しくは石川仁さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
- 石川仁さんのHP:https://www.jinishikawa.com