新幹線にも鳥のメカニズム!?
〜鳥からひも解く科学技術〜
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物行動学者・松原始(まつばら・はじめ)さんです。
松原さんは1969年、奈良県生まれ。京都大学、そして京都大学大学院を経て、現在は東京大学総合研究博物館に勤務。専門は動物行動学。研究テーマは、カラスの生態・行動と進化で、カラス研究の第一人者! 「カラス先生」として広く知られています。
実は7年ほど前にもこの番組に出演していただき、その時はカラスのお話をたくさんしていただきました。
そんな松原さんが去年2019年に『鳥マニアックス 鳥と世界の意外な関係』という本を出されました。
今回は、松原さんの鳥マニアとしての視点、そして鋭い観察・分析力で、鳥のフォルムや能力と、現代のマシンを徹底検証! 飛行機や新幹線、ナビゲーション・システムなどを考察します。もちろん、松原さんが愛してやまないカラスのお話もありますよ!
恐竜は絶滅していない!?
※まずは鳥の定義、そして鳥の進化についてうかがいました。
「実は今、鳥の定義がちょっとややこしくなっていまして、恐竜と鳥がほとんど同じだっていうことがわかっちゃったものですから……。幸い、今は恐竜がいないんで、一目でわかるのって、もう鳥しかいないんですよ。“鳥といえば、あれだ!”ということになっているんですね」
●恐竜と鳥が同じ、というのはどういうことですか?
「今はどれくらいだっけ……1億6〜7千年前ですかね、そのあたりの鳥がもう見つかっているんですけど、つまり中生代のジュラ紀ですね。
ところが、いろんな化石を見ていくと羽の生えた恐竜がやたらいまして、鳥なんだか恐竜なんだかわかんないやつっていっぱいいるんです。もちろん、鳥と恐竜が枝分かれして進化してきた、その根本をたどっていくと、どっちかわかんないやつって、いっぱい出てくるはずなんですけど、そのへんまで話がいっちゃってまして……」
●鳥の祖先が恐竜っていうことなんですね。
「そうですね。ですから、“恐竜は絶滅していない”っていう言い方も出来ます」
●なるほど!
「“鳥と呼ばれて今も生きています”って言っても間違いじゃないです」
●え〜!? そうなんですね! 鳥の特徴っていうと、“飛ぶこと”が鳥っていうことなんですか?
「まぁ、飛べる奴が多いですけど、飛べない鳥もいるのでね。あと、最初は飛べなかったはずですしね(笑)」
●どうして飛べるようになったんですか?
「それがまた、よくわからないんですよね〜。“飛ぶために羽が生えたわけじゃない”とは言われているんですけど。最初はなんか別の意味があって、羽毛が生えてきて、そのうち飛ぶように使ったんだろうとは言われているんですけどね」
●じゃあ、どうして羽が生えてきたんですか?
「多分、飾り。メスにアピールするためとか、自分の種類、例えば“俺はこの種類だぞ!”って宣伝するためとか。あとは、体温を保つためっていう説もありますね」
●へぇ〜、そうなんですか! 飛ぶための羽じゃなかったんですね!
「そうじゃなかったんでしょうね」
●一番進化が大きかった鳥っていうと、どんな鳥になるんですか?
「あー、これも難しいな(笑)。実は、鳥って意外とみんな、似ているんです。恐竜が絶滅するころに、今の鳥の先祖が大体出ているんですけど、恐竜がいなくなったもので、地球がガラ空きになっちゃいましたから、そこでドカっとみんな、いろんな形に進化しちゃいまして。その後、6千万年ぐらい、ずーっと進化したので、まぁ、“みんな6千万年ぶんは進化しています”ってことになりますかね(笑)」
●となると、これからまた、さらに進化していくんですか?
「どうでしょう? よっぽど環境が変わんない限り、そこまで変な形にはならないとは思いますけどね」
飛行機は鳥と植物を真似た!?
※さて、素朴な質問ですが、空を飛ぶ鳥に憧れたから、人間は飛行機を作ったんですよね?
「鳥がいなかったら多分、空を飛べるって思わなかったと思いますよ」
●確かに、そうかもしれませんね! (鳥がいなかったら、そういう)発想がないですよね!
「昔の人たちの発想というか想像とか、“やってみました”みたいなのってだいたい、鳥の翼を腕にくっつければ飛べるだろう、なんですよ」
●(笑)。実際に試した人も?
「羽ばたいて飛ぼうとした人はいっぱいいます! 誰も成功しなかったけど」
●そうですよね(笑)。それで飛行機が誕生したんですか?
「鳥が羽ばたかなくっても、“滑空している”っていうのに気づいた人がいて、“あれなら出来るかもしれない”っていうので、デッカい翼をつければ飛べるかも、っていうのを試したんですよ。1600年代くらいだったかな、それくらいに基礎理論が出来ていたんですけど、だいぶ経ってから、1800年代になってからでしたかね、グライダーを作って乗って飛んだ人がいます」
●鳥の翼の構造をいろいろ研究したっていうことですか?
「でしょうね。初期の飛行機の翼って、鳥にそっくりなのがありますから。実は、鳥だけじゃなくて植物にも影響を受けているんですけどね」
●植物、ですか?
「南米にある“アルソミトラ”っていう木がありまして、これはタネが翼みたいな形をしてて、飛ぶんです、これ! 風に乗って滑空して、タネを飛ばすんです。その形を真似て飛行機を設計したっていう人がいます」
●いろんなところから影響を受けているんですね! 鳥って急降下したりとか、いろんな飛び方をするじゃないですか。そういったことも飛行機の設計に影響があったりとかしたんですか?
「えっとね、さっき言った、グライダーを作って飛んだっていう人、その人はオットー・リリエンタールっていう人ですけど、あの人が鳥の飛び方の研究をしています。あと、レオナルド・ダヴィンチ、あの人もノートに鳥の飛び方をいろいろと書いていますね。どうやって飛んでいるかっていうので、翼の使い方をみて、それでいろいろと体系化したっていう歴史が多分、あります」
●ダウンジャケットなどにも使われている、羽毛ってありますけれども、その羽毛にも素晴らしい機能があるんですよね。
「そうそう! 羽毛ってね、凄く断熱機能が高いんですよ。登山関係とかで、寝袋ってありますよね。今でも化繊の寝袋って、ダウンになかなか勝てないんです。丸めると小さくなって、広げると膨らんで暖かいっていう意味では」
●じゃあ、鳥はその保温性を保ちながら飛んでいるっていうことですか?
「そうですね」
新幹線はカワセミとフクロウ!?
※みなさんも利用されている新幹線。あのフォルムが鳥に似ていると思ったこと、ありませんか? 実は、こんな裏話があるそうです。
「新幹線を設計した人が鳥好きで……」
●そういうこともあるんですか!?
「はい。それで、ハッと閃いたっていうのが2点ほどあるらしいですね(笑)」
●そうなんですね! 具体的にどういうところが鳥の影響を受けているんでしょうか?
「500系の新幹線なんですけど、2箇所あるんですけど、ひとつが先頭車両の、鼻っ面の尖っているところですね。そこが凄ーく長く伸びているんですけど、あれはカワセミのくちばしだそうです。
トンネルに突入した時に、“トンネルドン”っていうものですけど、トンネルの反対側に圧縮波が届いちゃて、それが騒音の原因になるんだそうです。それで、なるべくスムーズにトンネルに突入するために、っていうことが理由ですね。
カワセミって、水中に飛び込んで魚を取りますから、ほとんどしぶきを上げないで水に飛び込んでいるのを見て、“あれにしよう!”って思ったそうです。もちろん、ただ真似たっていうんじゃなくて、風洞実験とか、理論的な裏付けを作ってからなんですけどね。
もうひとつが、パンタグラフの根元です。パンタグラフの根元に、“ハの字”を横向きにしたような、不等号の記号みたいな凸凹が並んでいるんですよ。普通、あんな“邪魔者”があるのってよくないんですけど、あそこで渦を作り出すことで逆に、音を消しているんだそうです。
これも、フクロウが飛ぶ時に音がしないっていうのがもとになっているそうです。フクロウは翼の羽毛の淵にギザギザがあって、やっぱりそこで渦を作っているんですね」
●その渦を作ることで、音がしなくなる?
「はい」
●へぇ〜、そうなんですね! 知らなかった……。
鳥って優雅に飛んでそうに見えますけど、方角とかってわかっているんですか?
「もちろんわかっていますよ!」
●どういうふうに感じ取っているんですか?
「いろいろあるんですけど、五感を総動員して……五感どころじゃないな、六感まであるらしいんですけど」
●六感!?
「はい。鳥には磁気感覚があるので。“磁気コンパスを使って飛んでいる”っていうのは言われていますね」
●でも、渡り鳥とかは毎年、同じ場所に来たりしますよね? それも鳥の特徴というか、何かあるんですか?
「えっとね、渡りする鳥って、生まれつき同じ方角に飛ぼうっていう衝動は持っているんですよ。磁気感覚だけじゃなくって、基本は空を見て決めるんですけど、天測航法っていうんですかね、太陽と星を見て決めています。“今は何時で、この角度に太陽が見えているから、行きたい方向はあっち!”っていう仕掛けみたいですね」
●それを考えながら……。
「考えるっていうか、見たらわかっちゃうんでしょうね」
●へぇ〜……頭いいですね!
「それで、生まれつきそっちへ飛びたがるので、その季節になると“あっちへ飛びたい!”っていう衝動が起こるらしくて」
●だから毎年、同じ場所へ飛ぶっていうふうになるんですね!
なぜ、都心のカラスは減ったの?
※最後に、いま一番興味のあること、やってみたいことをお聞きしました。
「個人的には、カラスの頭にカメラをくっ付けたいですね(笑)」
●くっ付けて何をしたいですか?
「カラスがやることが全部リアルタイムで、自分も観られるっていうのが(いいですよね)」
●(笑)。どうしてカラスなんですか?
「あれ、面白いでしょ(笑)」
●面白い、というのは、例えばどういうところが……?
「何でもアリですけど、電線の上でじーっと下を向いて考え込んでいるところとかね。“行こうかな、行こうかな……”って乗り出しては、やめるんですよ。それで、ふっと地面を見ると、だいたい何か落ちているんですよ。“お前、それ食いたいけど、俺が観ているから気にしているんだろう?”って思って、ちょっと隠れているとサッと降りて来ますけどね」
●そういったカラスの頭にカメラを乗せたいんですね! いいですね(笑)。それは実現できそうな感じですか?
「理屈としては、出来ます。すでにそういう、バイオロギングっていう、生き物の体に記録装置をくっ付けるっていう研究がありますから。ペンギンの頭と背中にカメラをつけたっていう研究例、ありますよ!」
●カラスはまだないんですね?
「2つ問題がございまして、ひとつは、カラスは多分、そんなことをすると必死になって(カメラを)払い落としちゃうだろうってこと。もうひとつは、カメラを付けるのと外すのに、2回捕まえなきゃいけないんです。ペンギンってコロニーに歩いて帰ってくるので、そこでタックルして捕まえちゃえばいいんですけど、カラスは出来ないんですよね、それが!」
●同じ場所に戻ってくるっていうのは、なかなかないんですかね?
「餌でおびき寄せれば来るかもしれないですけど、それを待っているのも気の長い話ですよね」
●松原さんは、いろんな生き物がいる中で、カラスが一番お好きなんですか?
「そうですね。まぁ、20年以上付き合っていますから(笑)」
●でも最近、カラスって都会でなかなか見ないようになった気がするんですけど……?
「もちろん、いることはいるんですけどね」
●昔はもっと多かったような気がするんですよね。
「2000年代初頭が一番、東京で多かったって言いますかね……。東京都がやっている調査で当時、3万6000羽ぐらいで、今は8000羽とかですかね」
●どうして減っているんですか?
「まぁ、ゴミの始末でしょうね。東京都は捕殺とか巣の撤去とかも一緒にやっていますけど、それはやっぱり、エサがなくなったのが一番大きいと思いますよ。もちろん、ゴミは出ているんですけど、カラス除けがずいぶん増えましたよね。(ゴミ出し袋には)ネットを掛けるし、ゴミ箱みたいなデカい物に入れたり……。
繁華街でも、ネットを掛けたりバケツに入れたりと、割とガードするようになっていますから、昔ほど気楽にパカパカ食えるわけじゃないんだと思いますけどね」
●カラスはそういったゴミを食べるっていうことなんですよね?
「そうですね。もともとカラスって、何でも食べるんです。果物とかも食べますし、虫とか小動物も食べますし、あと動物の死骸が落ちていれば、それも食べに来ます。それから、狼なんかが獲物を食べて、食べ残しが出ますよね。それも片付けに来ます」
●へぇ〜! でも、例えば日本がどんどん街が綺麗になって、ゴミが全くないような世界になったら、カラスは本当にいなくなってしまうんですかね?
「すっごく減ると思いますよ。ヨーロッパとかは、すごくでっかい鉄製のゴミ入れにボンボン入れるんですよ。だから、街角にビニール袋を積んであることがまず、ないんです。やっぱり、カラスはいないんですよ。いるけど、公園とかで普通に暮らしていますね」
●以前、この番組で野鳥観察家の人にお話をうかがって、一緒に野鳥を観察したんですけれど、カラスにもいろんな種類がいるんですよね!
「いますね! この辺で見るのはだいたい、ハシブトガラスという、ごく普通のカラスですけど、カラスの声って言われてイメージする“カァ、カァ”って、あれがハシブトガラスの声です。
もうひとつ、ハシボソガラスっていう、もうちょっと小柄でクチバシの細いのがいますけど、それは東京には元々いたんですけど、1970年代ぐらいから、東京都心でほとんど見られなくなりまして。ハシブトガラスがいっぱいいるから逃げちゃったんでしょうけど、最近帰ってきていますね」
●あっ、そうなんですか!?
「代々木公園なんかに行くと、いつ行っても何羽か見られますから」
●見極め方っていうのは、どうしたらいいですか? クチバシですか?
「まぁ、クチバシなんですけど、あとハシブトガラスのほうが頭が丸いっていうか、“おでこが出ている”ってよく言うんですけど……。あれ、羽が生えているだけなんですよねぇ。骨が入っていないんですよ。だから、羽を寝かせちゃうとわからないんですよね(笑)」
●ほぉ〜! 長い間いなかったのに、また戻ってきたっていうのは?
「都心部の外にはいるんです。多摩川とか荒川沿いはずっといたんですよ。だから、都心までまた入り込んで来たんでしょうね。もともとは代々木公園みたいな芝生のあるところって、ハシボソガラスは大好きなはずなので」
INFORMATION
新刊『鳥マニアックス 鳥と世界の意外な関係』
カンゼン / 税込価格1,760円
普段の生活で見られる科学的なことや現象を、松原さんの専門である鳥の生態と関連付けながら説明。人間の発明や技術は、意外と鳥から発想、または真似たものが多い、そんなことがわかるとても面白い本です! 巻末には、漫画家・松本零士さんとのスペシャル対談も掲載!
詳しくは株式会社カンゼンのHPをご覧ください。