今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、山崎哲秀さんです。
犬ぞり北極探検家の山崎哲秀さんは1989年から北極圏の主にグリーンランドに遠征し、犬ぞりや狩りの技術を学びます。そして10年ほど前から北極圏での環境調査を開始。現在はグリーンランドのシオラパルクを拠点に活動されています。2009年にはそんな活動が評価され、第4回モンベルチャレンジアワードを受賞しています。
そんな山崎さんがグリーンランドから日本に一時帰国されたということで、先日都内でお会いして、色々お話をうかがうことが出来ました。今回はそのときの模様をお届けします。
●今回のゲストは、犬ぞり北極探検家の山崎哲秀さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●まず、山崎さんが環境調査を行なっている北極圏のグリーンランド、特に拠点にしているシオラパルクはどんなところなんですか?
「そこは北緯78度付近にあるエスキモーの方たちが住んでいる世界最北端の村です。今回、エスキモーという表現をしますが、ここ日本ではそれが差別的な呼び方とされていて“イヌイット”と呼ぶ傾向になっています。僕も最初は“そうなのか”と思って、イヌイットと呼んでいたんですが、25年以上通い続けていると、エスキモーという呼び方が決して悪い呼び方ではないと感じたんですね。彼らは自分たちをどう思っているのかを敏感に感じ取るので、彼らをどう思っているのかが大事なんです。僕は彼らを尊敬しているので、その尊敬の念を込めてエスキモーという表現を使っています。僕はその村に25年以上通い続けていて、今では活動の拠点になっています」
●すごく寒いんですか?
「寒いときはマイナス40度ぐらいになるときがありますね」
●マイナス40度ってどんな世界なんですか?
「肌にピリッと痛い感じがしますし、息をすると鼻毛が凍ってしまいますね。今では慣れてしまったので気にしていませんが、最初は寒さになかなか慣れなくて苦労しました」
●そんなに寒いと太陽の暖かさが恋しくなりますが、太陽が昇らないことがあるそうですね?
「これもまた極端なんですが、4月中旬ぐらいから8月中旬ぐらいまで1日中明るい“白夜”なんですよ。それに対して、10月中旬から2月中旬ぐらいまで“極夜”という太陽が昇ってこない季節になります。12月が一番暗い時期で、冬至の12月20日前後は特に暗くて、お昼に南の空が少しだけ赤く染まるだけで、しばらくするとすぐ真っ暗になります。日本に住んでいたら体験できない世界ですよね」
●そうですよね! 日本に住んでいると朝起きると太陽が昇っていて、夕方になると沈むのが当たり前ですから、全然違う環境なんですね。かなり厳しい環境だと思いますが、そこで環境調査をされているんですよね。どんな調査をしているんですか?
「犬ぞりが僕の特技でもありますが、犬ぞりを活用して広範囲を移動しながら観測データを収集しています。温暖化といわれていますが、冬の北極はすごく厳しい環境なので、その中で活動できる研究者はほとんどいないんですよね。たまたま僕は許容範囲が広かったので、“せっかくだから、その中で何かやろう”と思って、今の活動を続けています」
●なぜグリーンランドが環境調査に適しているんですか?
「あそこは面白いところで、島としては世界最大で日本の7倍ぐらいあるんですが、その8割ぐらいが氷に覆われた島なんです。深いところでは3,000メートルを超える氷に覆われているんですが、その氷を調べることによって、過去の環境がどういったものだったのかが分かるらしいんですよ」
●まさにタイムカプセルですね。
※山崎さんはなぜ北極圏で調査を行なおうと思ったのでしょうか?
「元々は冒険家の植村直己に影響されて、28年ぐらい前に北極に初めて足を踏み入れたんですが、そのころは冒険心で入っていきました。そこで活動を続けていくうちに、犬ぞりを利用して観測調査をするスタイルが出来上がっていったんですね。そういった中で近年では環境問題がクローズアップされる時代になって、僕も環境への取り組みに1つでも参加できないかと思うようになったんですね。先ほども話しましたが、マイナス40度の中で活動できる研究者はなかなかいないので、課題をもらってデータを集めるという活動をやってきています」
●環境調査をしようと思ったのは、それが必要だと肌で感じたからなんですね。
「環境の変化を見ていくには、現地での調査で集めたデータは大切で、それがないと研究者の皆さんも言えないと思うんですよね。それをずっと続けていったら、何かしらの形になると思って、できることをやっています」
●犬ぞりを使うようになったキッカケは何だったんですか?
「現地の生活の交通手段として犬ぞりを使っていて、それを見て“なんと理にかなった交通手段なんだ”と思ったんですよ。歩くのは速度も遅いし活動範囲が狭くなるんですが、犬ぞりはスピードがありますし、活動範囲が格段に広がるんですよね。なので、この犬ぞりを自分の移動手段として取り入れたいと思って、30歳のときに犬ぞり技術を教えていただきました」
●スノーモービルなどを使ったら、もっと活動範囲が広がりそうですが、それは使わないんですね。
「そこはこだわりの世界になってしまいますが、彼らの文化に惹かれるものがあったので、どうしても犬ぞりという手段でやりたかったのと、スノーモービルとかってエンジンがよく壊れるんですよね。それに対して、犬ぞりは10頭以上の犬でチームを組むんですが、全部の犬が一気に病気になったり怪我をしたりすることがないんですね。それに、犬ぞりは排気ガスを出さない究極のエコカーなんですよ。環境にも優しいということで、犬ぞりにかなりのこだわりを持っています」
●実際に教えてもらったということですが、すぐに教えてくれるんですか?
「通い始めてから10年ぐらい経っていたので、彼らも“教えてもいいかな”という気持ちになっていたんじゃないでしょうか。誰でも教えてくれるわけではないと思いますが、教えてもらって1シーズンで動かせるようになりました」
●どうやって犬たちに言うことをきかせるんですか?
「基本的には犬たちを走らせるための号令があります。それと、エスキモーの方たちはムチを使います。とはいえ、バンバン叩くようなムチではなく、誘導させるために号令と合わせて使うムチですね。犬のいいところは、厳しくしつけるときとかわいがるときの境目さえしっかりしていれば、なついてくれるんですよ。そうなると、僕のパターンを覚えてくれて、呼吸を合わせてくれるんですよね」
※実際の調査のスタイルはどんな感じなのでしょうか?
「シオラパルクという村がベースとなるんですが、テントを持って犬ぞりで1~2ヶ月間、調査するときもあります。テントを張りながら氷や気象のなどのデータを集めたりしています」
●シオラパルクを出てから、どのぐらいの期間がかかるんですか?
「長いときだと2ヶ月ぐらい出っぱなしですね」
●食事とかはどういう風にしているんですか?
「2~3週間分は、そりに積んでいきますが、ヘリコプターやチャーター機などを使って、定期的に補給を受けるようにしています」
●そうなると、そりに積んでいく量は結構な重さになりますよね。何キロぐらいですか?
「そりの重さは何も積んでいないときで100数十キロあります。このそりは氷にぶつかったとしても壊れないように頑丈にできているんです。その上に自分の食料や犬のエサ、装備関係を積んで、700~800キロぐらいの荷物を積むことがありますね。重いときには1トンぐらいになるんですが、それだけ重いそりを引いてくれるんですよ。そりを引いてくれる犬は重いものを引っ張るのに長けた種類なんですよ。なので、一緒に活動するにはもってこいの相棒ですね」
●頼もしいですね! 危険な目にあったり大変なこととかってありましたか?
「9年ほど前の1月ぐらい、真冬のことだったんですが、ブリザードが吹いて海の氷が割れてしまってしまったんですよ。その年は地球温暖化といわれるようになった年で、僕も暖かいと思うような年だったんです。それまで絶対に割れることがなかった地域の海の氷が、その年はあまり凍ってなくて割れてしまったんですよ。陸地に逃げていたら、沖合いから氷が割れて海に流れていくのが見えたんですよね」
●それは、その年だけがそうだったんですか? それとも温暖化の影響で年々そういう傾向になっていっているんですか?
「そういう傾向になってきています。それまでは割れなかった氷も割れるようになってきています。北極に通い続けていると、海の氷の凍り付きが悪くなってきているのを感じますね」
●海の氷の凍りつきが悪くなると、生活にも影響してきますよね?
「彼らは狩猟民族ですので、生活に影響してきます。最初は彼らもこれまでのように海の上で狩りができなかったりして戸惑っていましたが、彼らの素晴らしいところはすぐ気候に順応していくんですよね。なので、今ではうまくやっています」
●だから、長い間そこで生活できているんですね。
「ただ、最近では便利なものがどんどん入ってきているので、猟師を辞める人が多くなってきています。定職を求めて南の大きな街の方に移住する人が多くなって、小さな村の過疎化が進んでいってますね」
●そういった意味でも変化していっているんですね。
「生活自体はかなり変化していますね。何十年かしたら猟師がいなくなるかもしれないですね」
●グリーンランドにはいつごろ戻るんですか?
「11月1日に戻ります。もう飛行機も予約しています。その辺りで冬が始まるんですね。夏の間は海の氷も融けて犬ぞりができなくなってしまうんで、その間に日本に帰ってきて準備をしています。15頭の犬たちが僕の帰りを向こうで待っています(笑)」
●あっちにも家族がいるような感じなんですね(笑)。
「犬が向こうでの家族ですね。1年の半分が北極、半分が日本にいるという生活をずっと続けています」
●体調は大丈夫ですか?
「気温差がすごいんですよね。北極の一番寒いときと日本の一番暑いときで75~80度ぐらい差があるんですよ。でも、通っていたらそれにも慣れるもんですね」
●今後の調査はどういった予定になっているんですか?
「犬ぞりでの調査はこれからもずっと継続していくつもりです。体力の続く限りやっていきます。それに加えて、グリーンランドの極北とカナダの極北、それぞれに日本の観測拠点を設営したいと思っています。日本の極地研究者たちが北極で継続して観測できるような施設を作りたいという大きな目標があります。そういうのがあれば、次の世代にも繋がると思っています。ただ、これもやってみないとどのぐらいかかるか分からないんですが、根気よくやっていきたいと思っています」
●これからも継続していただいて、この番組でもその都度お話をうかがえればと思いますが、最後に、長年グリーンランドで調査を続けてきて一番感じていることは何ですか?
「僕にとって北極は“生命力があふれた場所”なんですよね。そこが一番の魅力だと思っています。最初に北極に足を踏み入れる前は、自然が厳しくて生きている動物もほとんどいないような厳しい場所だとイメージしていたんですが、通い始めたら全然違いました。陸地や海には色々な動物がいて、エスキモーの方たちも生活しているんですよね。自然界と人間界がすごくいいバランスで調和が取れていたんですよ。そのときに“なんて生命力があふれた場所なんだろう”って思いました。その生命力の豊かさが病みつきになっている理由でもあります」
●もしかしたら、私たちがこれから生きていく上でのヒントがたくさんあるのかもしれないですね。
「確かにあるかもしれないです。自然界と人間界の調和は大事ですからね。エスキモーの人たちの生活も段々と近代化されていっていますが、まだそういうものが残された場所でもあると思います」
●いつか行ってみたいです!
「是非、犬ぞりに乗りにきてください!」
※今回、エスキモーという呼称を使いましたが、25年ほどグリーンランドに通い続け、先住民を尊敬の念を持って、そう呼んでいる山崎さんの気持ちを汲んで使わせていただきました。
※この他の山崎哲秀さんのトークもご覧下さい。
山崎さんが犬たちの話をされる時の表情が優しくて温かったのがとても印象的でした。厳しい環境の中、時には頼れるパートナーとして、時には癒してくれる家族として。15頭は山崎さんにとってかけがえのない存在だということ、その表情からもうかがえました。そして、10年に渡って継続的に北極圏で環境調査は行なうのは本当に凄いことですよね。これから先どうなっていくのか、ぜひ今後も頑張って調査続けて欲しいですね。
UP BOOKS & MAGAZINES/税込み価格864円
山崎さんは3歳の息子さんに捧げる本としてこの電子写真絵本を出版されました。苦楽を共にしてきた犬たちへの愛情にあふれ、北極圏の美しい写真も見応えがあります。売り上げの一部は北極圏環境調査の資金に充てられます。
犬たちを応援してくれるサポーターを募集しています。エサ代や予防接種代など多くの費用がかかります。ほとんど自費でまかなっている山崎さんの環境調査プロジェクトをぜひご支援ください。詳しくは、山崎さんのオフィシャルサイトをご覧ください。