今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、丹葉暁弥さんです。
写真家の丹葉暁弥さんは野生のシロクマが犬を抱っこしている写真で知られていて、2013年に“HUG!friends”、2014年に第2弾“HUG!earth”、そして今月、第3弾の“HUG!today”というフォト&エッセイを出されたばかりなんです。今回はシロクマの虜になってしまった丹葉さんに、毎年のように通っている、カナダのハドソン湾周辺で出会ったシロクマのお話をうかがいます。
●今回のゲストは、写真家の丹葉暁弥さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●丹葉さんといえば、シロクマが犬をバックハグしている写真でおなじみですが、私もこの写真がすごく可愛くて大好きなんです!
「そう言っていただけると、すごく嬉しいです! あれはかなり昔に撮影したんですが、目の前に起きた不思議な光景に『この後どうなるんだろう?』とドキドキしてました」
●ドキドキしますよね! だって、本来なら有り得ないですよね。
「まず有り得ないです。ただ、有り得ないと思っているのは人間の固定概念であって、シロクマと犬にとっては当たり前のことだったのかもしれないと思っています」
●ということは、その後にもその風景を見たりしたんですか?
「はい。その珍しい光景を別の年に見ました」
●丹葉さんだから見られたんですかね。
「そうですね。自分の人生もシロクマに守られているんじゃないかと思うことがあったりするので、もしかしたら、彼らが見せてくれたのかもしれないと思っています」
●あの犬は特別な種類の犬なんですか?
「“カナディアン・エスキモー・ドッグ”というハスキー犬の一種で、一時絶滅しかけたんですね。そのぐらい少なくなったときに、私が通っているチャーチルという小さい街のある人が“この犬を絶滅させてはいけない!”ということで、繁殖をさせようと、たくさん飼いはじめました」
●そこにたまたまシロクマが来たんですね?
「そうなんです。シロクマたちは最初、犬たちのエサを目当てに集まってきたんだと思うんですが、その中の1頭がなぜか犬と仲良しになってしまったんです。そうとしか考えられないです。その仲良しのシロクマ以外が来ると、場合によっては犬が襲われてしまうことがあるんです」
●そのシロクマだけなんですね!
「そうなんです。あの写真に写っているシロクマだけが犬と仲良しで、そのシロクマが来ると、周りにいる犬たちも吠えないし警戒もしないんですよ」
●不思議ですね。そういうのって、お互いで分かってるんですね。
「私も現地に通っているので、シロクマの機嫌が段々分かるようになってきました。攻撃しようとする姿や意識があるときは遠くからでも『危ない』と分かりますし、とてもリラックスしていて、顔がニコニコしているようなときは犬たちも安心するんじゃないでしょうか」
●“どんなに“恐い”と思っている相手でも、こちらが心を開いて笑顔で接すれば仲良くなれる”ということを象徴している写真だと思いました。
「シロクマは食物連鎖の頂点にいる動物なので、私たち人間はシロクマに対して“凶暴”だったり“恐い”というイメージを持っているんですが、彼らの野生の姿を見ていると優しいんですよ。それらのイメージは私たちの先入観で持っているだけなので、実際は犬や猫などと変わらないんですよ。むしろ、彼らは臆病なんですよね」
※丹葉さんはカナダのハドソン湾に長年通っているんですが、なぜそこに行くようになったのでしょうか?
「その地域では、シロクマたちにほぼ100パーセント会えるんです。シロクマは主食であるアザラシを食べるんですが、そのために海が凍り始める寸前に彼らは海の近くまでやってきます。私が通っているチャーチル周辺はハドソン湾の氷が一番最初に張り始めるところなんですね。シロクマたちはそれを知っているので、10月の終わりぐらいになるとその地域の周辺に集まってくるんですよ。なので、その時期にそこに行けば、ほぼ100パーセント会えます。私が通っている地域には1,500頭ほど生息しているといわれていますが、実際には生息しているエリアが広いので、1,500頭全部を見るというわけにはいかないです」
●丹葉さんはその時期に何頭ぐらい見るんですか?
「地球温暖化によってシロクマたちの生活が脅かされて、どんどん少なくなっていると言われていますが、確かに17年ぐらい前に比べると数は減ってきていると感じます。昔なら、現地に1週間いたら30頭ぐらいに会えたんですが、今はその半分ぐらい会えればいいかなといった感じですね」
●それはかなり減りましたね。
「これは通っているからこそ分かることなんですが、『本当に地球は危なくなってきているのかな』と感じ始めています」
●よく“地球温暖化の影響”という表現が使われていますが、具体的にはどのように関連しているんですか?
「シロクマの主食はアザラシだと先ほどお話しましたが、アザラシは海が凍ると氷の上で子供を産むんですね。海が凍っている期間は約半年なんですが、シロクマたちはその間にアザラシをたくさん食べて、体に脂肪を蓄えます。その代わり、海が凍っていない夏の間は絶食しているんですね。なので、地球温暖化によって地球の温度が上昇すると、海が凍っている期間がどんどん少なくなってきているんですよ。そうなると、シロクマたちがアザラシを食べられる期間が少なくなっているんですね。そういうことで、シロクマたちの数が減ってきているんですよ」
●海が凍らないからアザラシが上がってこなくて、狩りができる期間が短くなってきているから、シロクマたちにとっては死活問題になるんですね。
「そういうことになります」
※実は、シロクマは“白くない”みたいです。
「実は本当なんです。最近はテレビやインターネットなどでそういう情報が流れているので知っている方も多いと思いますが、今度テレビや写真集などでシロクマを見る機会があれば見てみてください。雪の白さと違うんですよ」
●確かに、ちょっと茶色いですね。
「そうなんですよ。シロクマの毛は人間の白髪に近くて、ちょっと透明っぽいんですよね。さらに詳しく言えば、毛1本1本の中が空洞になっていて、その中に空気が入っているので保温効果があるんですね」
●だから、彼らは寒くないんですね!
「しかもシロクマの毛は二重構造になっていて、私たちが見ている毛皮の下にもっと細かくてフワフワした毛がたくさん生えているんですよ。なので、マイナス60度でも彼らは平気で過ごすことができるんですよね」
●そうなんですね! その内側の毛を触ってみたいですね。
「触ってみたいですね! いつも『このまま抱きしめてしまいたい!』と思うんですが、それを抑えるのに必死です(笑)」
●(笑)。実際にできたら、どうなるんですかね?
「多分、悲惨なことになるとは思います(笑)。でも、それが夢ですね」
●通っているうちに仲良くなったシロクマっているんですか?
「撮影しているときや観察しているときには“嫌がることをしない”ように毎回心がけています。だから、追いかけたりしません。なので、どんなに遠くても、なるべくシロクマたちから近づいてくるまで近づいたりしないです。でも、ちょっとズルいかもしれませんが、シロクマの行動パターンが読めるようになってきたので、先回りしちゃうんですよね。先回りをしてじっとしていると、向こうから近づいてきてくれるんです。そこで驚かさないで、敵意がないということが伝わるようにしていれば、場合によっては彼らから近くまで近づいてきてくれることもあります」
●最大でどのぐらいまで近づいたんですか?
「撮影しているときは自分の体を守るために、車の中から撮るようにしているんですね。自分がシロクマに襲われた場合、“シロクマが人間を襲った”ということで殺されてしまったり、捕まってしまったりするんですよ。私はシロクマが好きでシロクマに会いに行っているので、そうなってしまうと本末転倒になってしまうんですよね。なので、車の中から撮影するようにしているんですが、窓を開けた状態にしているので、シロクマが車の窓から顔を突っ込んできたことはよくありますね(笑)」
※野生のシロクマとカナダのチャーチルの人々は、どのように共存しているのでしょうか?
「そこの街には“コンサベーション”という動物保護局みたいなところがありまして、シロクマたちが街に近づいてきてしまうと、彼らが行って追い払うといったことをして、事故をなるべく起こさないようにする取り組みが盛んに行なわれています」
●日本ではクマやイノシシが山から下りてきて農作物を荒らすという被害がニュースになったりしていますが、そういった被害も多くなってきたりしているんですか?
「そうですね。彼らにとって一番お腹が空いている時期なので、街からする美味しい匂いに反応してシロクマたちが入ってきてしまうので、“人間に近づくと痛い目に遭うよ”という意味を込めて、一定期間暗くて狭い檻の中に入れられてしまうことがあります。それを一度覚えたシロクマは“人間に近づいてはいけない”ことを他のクマに知ってもらおうとするんですね。これは昔からやっている取り組みです。さらに、一昔前には、人間の出すゴミにシロクマがたくさん集まるようになってきたので、『それはマズイ』ということで、今ではゴミの分別をしっかりして処理をするなどして、シロクマが人間に近づけさせないようにしていますね」
●観光面ではどうなんですか?
「この街の周辺はシロクマを観察するための観光がとても盛んで、1年間に1万人ほどの観光客がやってきます。来る観光客の方々には最初に簡単なレクチャーはしているんですが、中には『もっと近くで見たい!』ということで餌付けをしようとしたり、大きな音を立てて注意を引かせようとする人がいるんですね。可愛い姿や迫力のある写真を撮りたくなるのはすごく分かりますが、それをやっていると、シロクマたちが大好きで見にいっている人たちですら見ることができなくなってしまうんですよね。なので、シロクマに限らず、野生動物を見にいく人たちは、その地域のことを少しでも勉強していってもらいたいですね。そうすれば、もっと楽しく観察できると思います」
●もし行く機会がある方は事前に勉強してから行くと、よりいいということですね。
「そうですね。実は私も毎年お客さんを連れてツアーをやっているんですが、まず最初に必ずそういうことを言います。『絶対にシロクマたちに迷惑をかけてはいけないです。私たちはシロクマたちの住んでいるところに少しお邪魔しているだけだから、気配を消して彼らの邪魔をしないようにしましょう』ということを伝えています」
●私もいつか行ってみたいので、そのときにはそういったことをキチンと勉強して、心がけたいと思います。最後にうかがいますが、シロクマを長年撮影してきて、一番感じることはどんなことですか?
「地球温暖化によってシロクマたちの数が減ってきているのを感じますし、毎年同じ時期に行くと、その時期の気温が上がってきていて、今まで見ることができなかった暖かい地方の動物とかが見られるようになりました。今の地球環境はもう元には戻せないと思っているので、なるべく今の状態を維持してもらいたいと思います。それは努力次第でできると思いますので、一人一人ができることをすることによって、シロクマが笑顔を見せてくれるような気がするんですね。そういうことを心がけていかないといけないなと思っています」
※この他の丹葉暁弥さんのトークもご覧下さい。
丹葉さんの写真を見ると本当にシロクマは表情が豊かで、特に笑顔の写真は見ているこちらも思わず笑顔になってしまいます。そして、この笑顔がもし悲しい顔になってしまったら…。そんな事を想像すると、つけっぱなしだった電気を思わず消しに走ってしまいました。
小学館/本体価格1,000円(税別)
丹葉さんの“HUG!シリーズ”の最新刊。自由奔放なシロクマの写真が満載で思わずにっこり! 名言セラピーで知られる「ひすいこたろう」さんの言葉と共にじっくり楽しめる一冊となっています。
新刊の発売を記念した出版パーティーが行なわれます。丹葉さんとひすいさんのトークショーや、シンガー・ソングライターの「Dori」さんのミニライブも予定されています。
◎日時:10月8日(木)の午後6時半頃から
◎会場:antenna WIRED CAFE(表参道)
それぞれの詳しい情報などは、丹葉さんのブログやFacebookをご覧ください。