2017年8月26日

「世の中を元気に明るく!」
海洋冒険家 白石康次郎

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、海洋冒険家・白石康次郎(しらいし・こうじろう)さんです。

 白石さんは、1967年東京生まれ、鎌倉育ち。1994年26歳の時に、ヨットで単独無寄港、無補給で世界一周を果たし、当時の史上最年少記録を樹立。その後も、スケールの大きなヨットレースに参戦、すでに地球を3周以上も航海している強者です! 昨年11月には世界で一番過酷なヨットレース「ヴァンデ・グローブ」にアジア人として初出場! 30年来の夢を叶えましたが、マストが折れるトラブルに見舞われ、無念のリタイア。それでも次回の2020年の大会での初完走を目指し、ポジティブに活動中です。
 今回は、きっとあなたも前向きな気持ちになれる、白石さんのポジティヴ・トークをお届け! さらに、白石さんが世界一過酷なレースで乗ったヨット「スピリット・オブ・ユーコーIV(フォー)」の乗船体験もお届けします!

フランスで出会った船!?

※白石さんは最初から「ヨットで世界一周しよう!」と思っていた訳ではないんです。では一体なぜ、その夢を抱くようになったのでしょうか。2003年6月15日の放送で、白石さんはこんなことを話されていました。

「最初に僕が(ニュースを)見たのは高校2年生のときかな。水産高校にいて、その頃はヨットで世界一周しようっていう大それた夢はなかったんですけど、船乗りになろうと思って学んでいたんですね。ちょうどその頃にビッグ・ニュースが飛び込んできて、“なんと日本人の多田雄幸(ただゆうこう)が世界一周のヨットレース(*BOCレース)で優勝した”と。それで初めて知りました。
 で、(多田さんの)本が出るまでに1年くらいかかったのかな。本を読んで、手作りの船で優勝されたということと、私が多田さんに弟子入りしに行ったときに、非常に仲間を大切にしていて、スキッパー同士が本当に素晴らしい友情関係で結ばれていたんですね。
 多田さんが、第3回でまたチャレンジするんですが、私もサポート・クルーで色々な港に行かせていただきました。その時にスキッパー同士の友情を見ていて、“すごいんだな”というのは感じていたんですね。素晴らしいレースだなということで、このレースに出たいと思ったんです」

(*師匠の多田雄幸さんは1982年に行なわれた、第1回の世界一周単独ヨットレース「BOCレース」のクラスII(50フィート)の優勝者。このレースは82年以降は4年に一度の割合で「アラウンド・アローン」という名前に変えて行なわれてきた)

※白石さんの冒険の始まりは、師匠である多田雄幸さんの存在が大きかったんですね。白石さんは自分の船に、師匠の名前にあやかり「スピリット・オブ・ユーコー」と名づけ、その船名はレースで船が変わってもずっと変わっていないんです。
 今回の「ヴァンデ・グローブ」で乗ったレース艇は4代目にあたり、「スピリット・オブ・ユーコーIV(フォー)」と名づけられています。
 そんなレース艇は、実は導かれたように白石さんの元にやってきたそうです。先月の「海の日」に、晴海で開催されたイベント「海と日本PROJECT」での講演会で白石さんは、このように振り返っていました。

「あれはもう古い船です。2007年の船で、僕が中古で買った船なんですけど、すごく愛された船ですね。呼ばれましたね、あの船に。当時、私たちはスポンサーを集めていまして、最後に集まった時にはもう(レース開始まで)一年を切っていたんですよ。残りの船がみんな売れちゃっていて、ほとんど船がなかったんですね。それでもフランスに船を探しに行った時のことですが、あの船は売りに出ていない船でした。友人のフランスのセイラーに聞いたら、“あそこに今、整備している船があるから、お前行ってみたら?”って言うんですよ。
 実際に行ってみたら、ちょうど整備中で、別のフランス人スキッパーがヴァンデ・グローブを目指していたんですね。ただ、その人にはスポンサーがいなかったんですよ。そして、僕にはスポンサーがいたんですね。なので、オーナーが“向こうのスキッパーには申し訳ないけども、じゃあ康次郎に売るよ”ということであの船が手に入ったんで、とても縁を感じます。

 あの船は(前回のヴァンデ・グローブでは)第3位だったんです。それは非常に有名なイギリスのスキッパーの時で、その前はローラン・ジョルダンっていうフランスのスキッパー、さらにその前がセバスチャン・ジョスと、歴代の素晴らしいスキッパーが乗っていた船なんです。
 以前は、あの船は“ヒューゴ・ボス”という黒い船で、アレックスという友達が乗っていたんですが、(僕が船を買った時には)彼はもう新艇だったんです。でもニューヨークに行った時に、スタッフがみんな僕の船に来るんです。“いやぁ、これはね康次郎、俺の魂が入っているんだよ”。整備する人もみんな見に来て、“この船が懐かしいな”って言うんですよ。“だってお前たち、今すごくかっこいい船を持ってるじゃん”って僕が言ったら、“あれは大変なんだ!”って言って、みんな一服しに僕の船に来ていました。
 だから、“愛された船なんだな”と思いますし、今回、日本に、そしてアジアに来たのが初めてです。世界一周した船がアジアに来たのは初めてです。僕は今まで何度かレースをしたんですけれど、日本に持って来ることはできなかったんですね。なので今回、神様の思し召しかどうかはわからないんですが、せっかくリタイアしたんだから、みなさんがまだまだ見たいということで、思い切って船を持ってきました」

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人間+自然=ヨット!?

2012年2月25日の放送では、ヨットについて、白石さんはこんな話をしてくださいました。

「僕は、飛行機や電車やバスを使わないで、ニューヨークに行ったことがあるんですよ!」

●それはもしかして、ヨットでですか!?

「そうですよ! 同じように、飛行機や電車やバスを使わないで、フランスやスペイン、アフリカにも行ったことがありますよ。日本の海って、世界に繋がっているし、飛行機を使わなくても、風だけの力でそこまで行けるんですよ。これってすごいことじゃないですか? 本当のことなんですよ! 超エコですよ!
 この前も、サンフランシスコから自分の家がある横浜まで、飛行機や電車やバスを使わないで、11日で帰りましたよ! 普通の船より早く帰れたんですよ。これは夢物語じゃなくて、本当の話だからね。ヨットってそれほどの物なんですよ!
 今って、原発問題で自然エネルギーが注目され始めてるじゃないですか。それはいいことだと思うし、ヨットってまさに自然エネルギーを使う乗り物ですからね。でも、僕のヨットって新艇で3億円ぐらいするんですよ。そのぐらいお金がかかったヨットでも、風が吹かないと動かないんですよ。不便な乗り物ですよね! いくらお金を掛けても、風が吹かないと走らないんですよ。

 でも、今のテクノロジーだと、風の倍のスピードで走るんですよ。例えば、10ノットの風が吹けば、20ノット(約40キロ)ぐらいのスピードで走れるんです。だから、ヨットって人間の知恵と自然の恵みの融合なんですよね。風車もそうですし、水力発電もそうですよね。だから、自然だけではダメですし、人間だけでもダメなんです。その調和をもって初めて、人間と自然のいい距離が保てるんですよね。それがヨットなんですよ。なので、ヨットから学ぶというのはいいことですね」

※そんなヨットに乗っての世界一周レース。過酷なレース中はたったひとり。そんな中、船に乗っていると、こんなことに感動するそうです。(先月「海の日」に開催された「海と日本PRPJECT」の講演会より)

「赤道無風帯ですね。本当に(海面に)顔が映るくらい綺麗なんですが、海は明かりがないから、満天の星なんですよ! それが全部、海に映ります。水平線にも“バァーッ”と星。空にも“ガァーッ”と星。360度全部、星なんです。ぜひ、みなさんも赤道に行ってくださいね。すごく感動的です」

(スクリーンに映る満月の写真を見ながら)

「これは夜ですね。満月が写っています。月の道が綺麗に見えてすごくいいんです。みんなは夜を結構怖がるんだけど、僕は夜(ヨットで)走るのは意外と好きなんです。あと、星の高さでだいたいイメージできるんですよ。今だったら、夏の大三角形で、白鳥座が上に来ていますよね。そして、ベガ、アルタイルがあって、デネブがあって。それがだんだんと下がってきます。そして北極星が見えなくなったら、今度はさそり座が天頂に上がってくるんですよ。そして、南十字星が見えてきます。そうやって1ヶ月半、走るんです。“そろそろ飽きたなぁ”と思うと、今度は赤道を越えてだんだん北極星が上がって、いつもの星になって“わぁ、帰ってきたな”っていう感じがしますね」


「海と日本PROJECT」での白石さんの講演会。
やはり人気者。多くの方が集まって大盛況!

2006年10月22日の放送時には、こんなことにも感動されていました。

「ドライフーズのお吸い物があったんですね。それをお湯で溶いたんですよ。そしたら、菜の花が浮いてきたんですね。で、その菜の花がものすごく眩しかったんですよ。なぜかっていうと、海の場合は草木一本生えていないんですね。海って非常に綺麗なんですが、色として緑がないんですよ。それで、フリーズドライのお吸い物をお湯で溶かしたら、菜の花の緑がポッと出てきて、そのときに感動するくらい輝いた緑だったんですね。そのときに詠んだ句が『ささやかな 緑も眩しい 大航海』でしたね。これは季語が入っていないので川柳に近いんですけどね(笑)」

(*白石さんは当時、航海中に俳句を詠んでいました)

怒るべきは挑戦しない人

※世界一過酷なヨットレースを終え、日本にやってきた白石さんの船「スピリット・オブ・ユーコーIV」ですが、一体なぜ日本に来ることになったのでしょうか?

「この船をね、せっかくリタイアしたんだから、じゃあどうするか? チームで相談しました。“これをフランスに持って行って売るか?” 確かにいくらかはお金になるんだけど、別にこれを売ってお金を戻すことが僕の目的ではないですから。僕の目的っていうのは何かって言ったら、世の中を元気に明るくすることですからね。ヨットっていうのは、手段ですから。誰よりもヨットで速く走ろう、っていうのが僕の人生じゃないですからね。世の中を元気に明るくしたいと思って、僕の大好きなヨットというものを借りてやっているんですね。

 だからね、何か困難が起きた時に必ず考えることがあって、“この困難を、この難局を、愛と勇気と忍耐を使った場合、どうすればいいんだろう”って、必ずそう考えるんです。この時に、一番使っちゃいけないのが、恐れ、怒り、憎しみ。人のせいにしたり…。これらを使ってそういった困難を解決すると、ひどいことになるんですよ。どんな困難でも一緒です。これを愛と勇気と忍耐で解決するのはどうしたらいいんだろう。次のレース(=ヴァンデ・グローブ)が2020年。

 だいたい、冒険で失敗すると叩かれるイメージがありますよね。冒険に、勝負に、“勝ち”だけ欲しい、“成功”だけ欲しいっていうのは、ないですよ! そんな冒険、やりません。勝ちが決まった試合を見て、おもしろいですか? 成功することが決まっている冒険なんか、誰が応援します? どうなるかわからないんですよ! 新しい世界に行くんですよ! 冒険っていうのは、今まで行ったことのないところに行くんです。やったことのないことをやるんです。
 子どもたちにみなさんはよく、“挑戦しろ”って言います。大人は意外と言いますよ。でも、挑戦して失敗したら、怒るんですよ。話が違うんですよ。怒るべきは、挑戦しない人でしょ! 挑戦しろって言っているのに、挑戦しないんだから、“なんでお前はチャレンジしないんだ! なんで冒険しないんだ!”と怒るならつじつまが合うんだけど、“一生懸命やりました。でも、うまくいきませんでした”って言った子どもが、“バカ野郎!”って言われたら、誰も挑戦しませんよ。

 もしかしたら、みなさんは自分のお子さんに、成功だけ求めている? 成功を目的にしたらどうなるか。“成功してください”“失敗しないでください”“勝ってください”と子どもたちに言った場合、子どもたちはどうするかというと、成功するもの以外、絶対に手出ししません。みなさんの希望が“成功”なんでしょ? 勝てるもの以外に、絶対に手出しなんかしません。それが望みですか?
 あるフランスの言葉に、“国を滅ぼすには、子どもたちに‘冒険なんかするな'‘挑戦なんかするな'と教え込むことほど簡単なことはない”というものがあります。ビジネスでいうと、ベンチャー企業ですよね。もっと明るい世界になって欲しいなと思います。そこで、“よし、(スピリット・オブ・ユーコーIVを)持ってこよう!”と思ったんですね。その時に、お金がかかっちゃったんですけどね。今は、どうやって支払うかを考えています(笑)。なんとかなります! なんとかならなかったら、謝ります(笑)!」

日の丸を、一番高いところに掲げたい!

※「海と日本PROJECT」のイベントで一般公開された白石さんのレース艇に、私、長澤も乗せていただきました!

●とうとう白石さん! 私たち、やって来ました!

「ありがとうございます! どうですか、スピリット・オブ・ユーコーIVは?」

●大きいですね! 予想よりもかなり大きいです。

「みなさん、“写真で見るより大きい!”って言いますね」

●特に、ヨットの中のコックピット部分というか、船内がかなり広いなと思いました。

「ヨットって、ものすごいスピードで走るでしょ。逆に、広いと結構、自分の体が飛ばされるんですよね。古い船なんだけど、この船は広いほうですね」

●あと、やっぱりでかいなと思ったのは、マストですね! 高さがかなりありますよね。

「29メートルありますね」

●これを登ったんですよね!

「(ヨットが)止まっていても揺れますので、走りながらマストに登るのは、結構大変な仕事ですね。危険な作業でもありますしね」

●そうですよね。本当にこのヨットで「ヴァンデ・グローブ」に出られていたんですよね。

「はい、そうですね。この船はもうすでに(地球を)2周しているんですが、また自分の手で世界一周させてあげたいですね。このタイプの船は、日本のみならず、アジアに初めて来た船なんですよ。今日もずいぶん大勢の方々に見ていただいています。ぜひ、可愛がって欲しいなと思います」

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●今後、例えばこの「スピリット・オブ・ユーコーIV」を使っていろんなところに行ったりする予定はあるんですか?

「はい、いろんなローカルレースに出て、なるべくいろんな人に見て欲しいなと思います」

●特に、子どもたちに見てもらったら、子どもたちもとてもワクワクするんじゃないかなと思います!

「そうですね、これを見て“世界一周をしたいな”と思う子どもがひとりでも増えたらいいなと思います」

●子どもたちに「スピリット・オブ・ユーコーIV」を使った教室を開いたりといった予定はありますか?

「はい! これからまた海洋教室とか“勇気の教室”っていうのをやろうと思います。この間、福山でやってきたんです。福山でも600人の人が来てくれましたね。なるべく多くの子どもたちに乗ってもらいたいなと思います。これからもいろんないい企画を立てたいなと思っています」

※最後に、白石さんに今後の夢を教えていただきましょう。

「将来の夢があるの! メイド・イン・ジャパン! あの船を、日本製のカーボンを使って、日本のデザインで、日本のスーパーコンピューターを買って、日本人の技術の粋を集めて作れば、きっと素晴らしい船ができます!
 僕だけで優勝しようなんて考えていません。僕はもう、50歳を超えているから、何とかあと10年くらい頑張って、ひとつひとつ積み上げて、次の若い人になるかどうかはわからないけれど、いずれ優勝して、日の丸がこの大会の一番高いところに上がる日が来れば、楽しいかなと考えております! 2020年に向けて頑張りますので、また今後とも応援、よろしくお願いします!」

※この他の白石康次郎さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 どんな困難も「愛と勇気と忍耐」で乗り切る! 白石さんらしいポジティブ・トークに今回も元気を貰いました。そして今回初めて乗せて頂いた「スピリット・オブ・ユーコーIV」。私もあれだけ大きなヨットを生で見るのは初めてなので、とても感動しました。お近くにもしこの船が来る際はぜひみなさんも見に行ってみて下さい。

INFORMATION

 「スピリット・オブ・ユーコーIV」を使った乗船体験などの教室ほか、白石さんの情報や近況についてはオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. VIVA LA VIDA / COLDPLAY

M2. BLOW / 山下達郎

M3. I'M NOT IN LOVE / 10CC

M4. 海 / サザンオールスターズ

M5. IT'S MY LIFE / BON JOVI

M6. SAILING / ROD STEWART

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」